徒然草

六十八．筑紫に

六十八．筑紫に
　九州の筑紫という場所になにがしとかいうつわもの達を取り仕切る押領使をしている者がいました。彼は奇妙なことなのですが大根を万病の薬であると信じ込んでいまして毎朝二本ずつ焼いてそれを長い間食べ続けていました。
　ある日のことつわもの達が館を留守にしている時に賊が襲い込んできて館を取り囲まれてしまいました。どうしてしまおうと困り果てていたその時に館の中に見知らぬつわものが二人現われて捨て身の体勢で戦った為にその賊達を全て倒してしまいました。とても不思議なことで館の者達がどこのどなたでしょうか、いつもこの館に住んでおられるつわものの人ではないようですがこのように戦ってくれるとは、と尋ねると貴方がいつも信じて疑わず毎日毎朝食べていた大根でございますと言い残して去っていきました。
　どんなことでも深く信じてさえいればこのような幸運なことがあるかも知れません。大根といえど馬鹿にできたものではありません。万病に効くのかどうかはともかくこうして守ってくれることもあります。それを考えますと大根もかなり有り難いものであります。ただ美味しいだけのものではありません。こうしたこともあると考えますとまことに有り難いものであります。無論それは大根だけに言えることではありません。他のものについてもです。そんなものかと侮るなかれ、幸運は何処に転がっているか、何がきっかけとしてはじまるのかわからないものであります。


筑紫に　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２００９・６・２３