徒然草

二百十一．万の事は

　　　　　　　　　　　　　　　　二百十一．万の事は
　何事に関してもまず期待しないことです。愚かな人は他力本願ですからそれで怨んだり怒ったりするものです。権勢がある人だからといって頼ってはいけません。血の気の多い人がまず没落していきます。お金持ちだからといって御願いしてはなりません。時が経てば貧しくなります。才能があるからといって期待してもいけません。孔子も生まれた時代が悪かったではないでしょうか。人格者だからといってあてもしてもいけません。顔回も不遇の人生でした。君主に可愛がられえいても安心してはいけません。怒らせればその場で闇に葬られます。家来がいても安堵してはいけません。裏切られて逃げられることはよくあります。人の優しさを真に受けてはなりません。人の心というものは必ず心変わりするものであります。約束も信じてはいけません。人と人との約束なぞ守られることは稀です。滅多にあることではありません。
　自分にも他人にも期待しないことです。幸運はただ喜び失敗しても人を怨まずに済みます。心を左右に広く持てば動じず前後に深さを持てば行き詰ることもありません。狭い心が衝突ばかりして傷付きやすいものです。少ない心配りしかできない人は何事にも反応的で争って自滅してしまいます。穏やかな心でいれば身の毛一本も損なわれません。
　人は現世を彷徨う儚いものです。世界は決して留まりません。人の心もまた同じです。穏やかな気持ちを解放すれば一喜一憂することなく人に苦しめられることはありません。


万の事は　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　２００９・１２・１１