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蒼穹のカンヘル

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四十四枚目

「っ……ここ…は……」

少年が目を覚ますと、見慣れない天井が目に入った。

身を起こし、周囲を見渡す。

その中で、動く物があった。

「…魔物?」

白い獣の耳をはやした少女だった。

少女は直ぐに出ていくと、何者かを連れてきた。

赤い髪の少女。黒い髪の少女。

否、少女の姿をしたナニカ。

少年はその気配を知っていた。

「ここはどこだ!? 何故僕はここにいる!あんた達はだれだ!?」

「ここは日本よ。世界で最も平和な国。貴方の顔立ちが日本人に似ていたから連れてきたの」

「ニホン…,?」

混乱する少年の前で少女は翼を広げた。

「私はリアス・グレモリー。上級悪魔グレモリー家の次期当主。
そして貴方も」

リアスと名乗った少女が、少年に指を向ける。

バサリと少年の背中に翼が現れた。

「悪魔になったのよ」













「我は創世の龍を宿せし者なり」

少年がマンションに軟禁されて二週間ほどした辺り、ソレは現れた。

背は少年より低く、顔つきや声は両性的。

そして、エンジェルハイロゥと六枚の純白の翼、龍のような四肢を持った異形の天使だ。

「ほう。やはり剣を向けるか」

少年は、もう何も信じられなかった。

「だ、誰だ! 僕を殺しに来たのか!?」

「はっ。アホ言え。だったらとっくに殺してらぁ」

とたんに口調を崩した天使の背中に、三対六枚の翼が顕れる。

黒い、翼だ。

「これがわかるか? 悪魔と堕天使の翼だ。おれはどれでもありどれでもない。
こんな俺なら信じてくれたっていいんじゃねぇのか?」

天使は翼をたたみ、少年に歩み寄る。

「うあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

少年は訳もわからず、天使を剣で貫いた。

天使の口からゴポリと血が溢れる。

それでもなお、天使は止まらなかった。

「好きなだけ刺せばいい。斬ればいい。
辛かったよなぁ。苦しかったよなぁ。
俺にはお前の辛さはわからん。でも、それを受け止めるくらいはできるかもしれない。気のすむまで、そうしていろ」

ふわりと翼で包まれながら、少年は泣き出した。










side in

「気は、済んだか?」

「……」

少年がコクンと頷いた。

「じゃぁ剣を抜いてくれ」

流石にどてっぱら貫かれたら痛い。

ズルリと剣が抜ける。

「あ! 待て! 血は触るなよ、危ないから」

俺の血は創世の龍天使の血。聖の塊。

ニトロ並の危険物だ。

リバースで傷を消す。

「少年。今日俺がここに来たのはあることを知らせるためだ」

「ある…こと…?」

「喜べ。君の仲間は生きている」

「……………へ?」

お、いいアホ面。パシャり。

「俺の力で甦らせた。リーアちゃんはサプライズ! ってやりたかったらしいけど、流石にここまで塞ぎ込まれて痺れを切らしたらしい。
今朝呼び出されたよ」

少年が俺の肩を掴む。

「本当に仲間はいきているんですか!?」

「嘘を言ってどうする」

今から連れていくつもりだし。

「会いに行こう。皆君を待っている」

『【ロスト】』












少年が仲間と遊ぶ様子をバルコニーから見下ろす。

「これで満足?」

「ええ、満点よ」

円卓の上のクッキーを一つかじる。

子供達が焼いてくれた物だ。

きっと少年も食べるのだろう。

そういえば、あの少年はまだあの名前を貰ってなかったな。

「……少年の名前は決めたの?」

「ええ、彼が心を開いてくれたら、その名前で呼ぶつもりだったのよ」

そのままだと随分と先になりそうな計画だなぁ…。

「貴方も、子供達全員に名前を着けたのでしょう?」

「うん」

十八人全員に名前をつけた。

女の子十人と男の子八人。

考えるのに苦労した。

「あの子の名前も貴方にあわせてニホンっぽくしたのよ」

「へぇ…」

聖剣計画の子供達には、日本語の名前を与えた。

名は命なり。彼等は新しい命を手に入れた。

新しい名前を手に入れた。

「見ろよ、謡たちのあの顔。リーアちゃんが望んだ大団円だ」

「あの子も嬉しそうね」

トスカという少女に、謡という名前を与えた。

綺麗な声の子だ。

「あらあら。年寄臭いですよお二人とも」

「いきなりね朱乃」

「白音ちゃんもそうは思いませんか?」

「お二人が、大人びたことを言うのは、きっと守る側の人間だからです。確かに、少し背伸びしてる気もしますけど…」

最後が余計だっつーの。

「えー? 大人ぶってる篝可愛いと思うなー」

隣に座るヴァーリがおもむろに俺の頭を撫で始めた。

「うっさいヴァーリ」

パシッと手を払う。

「えー…せっかく恋人になったんだからもっとイチャイチャしよーよー!
最近トビー達がラブコメしてて羨ましいのぉー!」

「幾瀬鳶尾…か」

この間までヴァーリはウツセミという組織を追っていた。

五大宗家のはみ出しものの集いだ。

アザゼルは俺を関わらせたくなくてヴァーリにやらせているようだった。

おれはヴァーリとアザゼルから、俺の再従兄弟の話を聞いた。

幾瀬鳶尾。彼のおばあさんは得意な術式の関係で姫島から追い出されたらしい。

「なんで篝は私にラッキースケベしないの!?」

おっとー? なんか話が変な方向に行ったぞー?

「いや、そんなラッキーそうそう起こらないから」

「トビーは毎日やってるよ? 昨日なんてなっちゃんと二人で寝てたし」

うわー…マジか。

「だから篝も私と寝よぅよぉー」

「俺が眠れなくなるからやめてね」

ヴァーリと寝たら抱き枕にされる。

勿論あの爆乳を押し付けられるので眠れた物ではない。

「えー…」

「ねぇいちゃつくなら他所でやってくれないかしら?」

「あらリアス正直にヴァーリが羨ましいって言ったらどうですか?」

「な!? ぜ、全然羨ましくなんてないんだから!」

リーアちゃんも恋愛してみたいのかな?

「リーアちゃん。高校行ったらたぶん彼氏できるよ」

「篝はちょっと黙ってようか」

なんでだよ。











夕方になりリーアちゃん達が帰ったあと、ある一幕を回想していた。

リアス・グレモリー。僕を強くしてください。もう二度と、悪意に負けないように。

木場祐斗はリーアちゃんにそう言った。

彼は強くなる。

復讐のためじゃない。

守る為にだ。

でも、木場祐斗よ。

お前の仲間達は、ただ守られるだけの奴じゃないぞ。

謡(うたい)、詠奈(えいな)、響湖(きょうこ)、舞(まい)、詩華(しいか)、声花(せいか)、真琴(まこと)、韶子(しょうこ)、美弦(みつる)、律(りつ)、典也(のりや)、雄辞(ゆうじ)、忠文(ただふみ)、灯籍(ともより)、字将(あざまさ)、章(あきら)、経助(きょうすけ)、哲(さとる)。

十八人の、龍天使の子供達。

彼等もお前と同じく、悪意をはね除ける力を欲した。

なら俺は、それに答えるだけだ。 
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