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アメリカン=アップル

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第一章

               アメリカン=アップル
 アメリカ人達はよく林檎を食べる、普通に林檎そのものを食べることも多いがお菓子にしたりアップルティーにしたりもして口にする。
 このことは十九世紀末も終わりだった、フロンティアも残り僅かとなっていく中で彼等は林檎を食べて言っていた。
「やっぱり林檎はいいな」
「我が国といえば林檎だな」
「林檎にどれだけ助けられたか」
「わからない位だ」
 こう言って食べていた、そしてだ。
 ある当時の倫理観では極めて寛容と言っていい者がこんなことを言った。
「これはインディアン達も食べるべきだ」
「居留地にいる彼等もか」
「林檎を食べるべきか」
「そうだっていうんだな」
「そうだ、彼等も林檎を食べてだ」
 そうしてというのだ。
「我々の価値観を受け入れ改宗すべきだ」
「キリスト教に改宗すべきか」
「そうあるべきか」
「林檎を食べて」
「そのうえで」
「そうだ、林檎はアメリカ人がよく食べる果物だ」
 それを食べることこそがというのだ。
「彼等も林檎を食べてだ」
「アメリカ人になるべきだな」
「アメリカの価値観を受け入れて」
「キリスト教に改宗して」
「現に黒人やアジア系もそうしている」
 インディアンと同じ有色人種である彼等もというのだ。
「アメリカの価値観を受け入れている」
「ならば彼等もだな」
「アメリカの価値観を受け入れるべきだな」
「そしてアメリカ人になるべきだな」
 当時としてはかなり寛容なアメリカ人と言っていい者達も同意だった、彼等はインディアンはアメリカの価値観を受け入れるべきだと思っていた。
 だがそれをスタンティング=ロック保留地にいるスー族の戦士だったタタンカ=イヨタケ、通称シッティング=ブルと言われる赤い肌の男はこの話を聞いて言った。
「それは間違いだ」
「白人の価値観を受け入れろということはか」
「そうしてアメリカに入れということは」
「それは間違いか」
「そうだ、それは我々の消滅だ」
 それになるというのだ。
「それに他ならない」
「確かに。我々には我々の文化がある」
「それぞれの部族のな」
「スー族にしてもスー族の文化がある」
「それで白人の価値観を受け入れろとはな」
「それは間違いだ」
「我々が我々でなくなることだ」
「アメリカ人は何だ」
 イヨタケは周りの者達に問うた。
「一体」
「少なくとも我々ではないな」
「それはわかる」
「アメリカ人は我々ではない」
「彼等を指している」
「アメリカは彼等の国でだ」
 イヨタケはさらに言った。
「そしてアメリカ人はだ」
「他の国から来た者達だな」
「この土地以外から来た者達」
「そうだな」
「そうだ、彼等には彼等の価値観がある」
 イヨタケはそれは認めていた。
「しかしだ」
「それでもだな」
「それは我々も同じだ」
「我々の価値観がある」
「そして文化もだ」
「信仰も同じだ」
「それを捨てて自分達の中に入れとはな」
 それはと言うのだった、周りも。
「間違っているな」
「我々のことを何だと思っている」
「この土地に元からいた我々のことは」
「敵だ」
 イヨタケは彼等が見る自分達を一言で現した。 
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