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林檎の聖人

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第一章

               林檎の聖人
 これはアメリカという国が建国されてすぐの頃です。まだこの頃のアメリカは独立したばかりでとにかく何もかもがこれからでした。
 そんな大変な中子供達はいつも甘いものを欲しがっていました。
「甘いものないの?」
「何か甘いものないの?」
 いつも親達にねだっていました、しかしアメリカはやっと独立して国が出来たばかりで本当に何もないのです。
 ですから親達は子供達にこう言うしかありませんでした。
「そんなものある筈ないだろ」
「甘いものなんてないわよ」
「食べるものがあるだけ有り難いだろ」
「それだけで我慢しなさい」
 甘いものなんてとてもというのです、それでです。
 子供達は甘いものを我慢するしかないところでした、ですがそこにです。
 何処からかまだ出来たばかりのアメリカに一人の不思議な人が出てきました、その人はどんな人かといいますと。
 ボール紙で出来たひさしの広い帽子を被っていてぼろぼろの服とズボンを着ています。裸足でとても痩せていてひょろ長く見るからにみすぼらしい人です。その背中には服に負けない位のぼろぼろの袋を背負っています。
 その人は子供達のところに来て必ずそのボロボロの袋から赤く丸い果物を差し出しました、そうして彼等ににこりと笑って言うのでした。
「これを食べるといいよ、とても美味しいよ」
「これ甘いの?」
「そうなの?」
「そうだよ。とても甘くてしかも身体にいい果物なんだ」
 その赤くて丸い果物はというのです、よく見れば少し細長くて上と下がへこんでその中は白くなっています、上の方からは枝の残りが生えています。
「林檎っていってね」
「林檎?」
「林檎っていうんだ」
「そうだよ、これを食べるとね」
 その人は子供達に笑って言うのでした。
「凄く甘くて美味しいからね」
「そうなんだ」
「食べるといいんだ」
「そう、そして食べたらね」
 それからのこともお話するのでした。
「中にある種をその辺りに蒔くんだ」
「種をなの」
「そうするんだ」
「そうすればその甘いものが成る木が生えるんだ」
 そうなるというのです。
「だからどんどん蒔くんだ、私も蒔くよ」
「その種を」
「そうするの?」
「そうだよ、こうしてね」
 袋から今度は黒くて小さい種を出してでした、その種を辺りに蒔きました。そうしてなのでした。
 子供達にその果物を食べてもらいました、そうして感想を聞きました。
「どうかな」
「うん、甘い」
「凄く甘いよ」
 子供達はその人ににこりと笑って答えました。
「それで凄く美味しい」
「こんな甘くて美味しいものが食べられるなんて夢みたい」
「これは林檎っていうんだ」
 それがこの果物の名前だというのです。
「この林檎をこれからも食べたいならね」
「うん、僕達も種を蒔くよ」
「そうするよ」
「そうすれば何処でも林檎の木が生えて実がなってね」
 そしてというのです。
「何時でも甘くて美味しい林檎を沢山食べられるよ」
「わかったよ、それじゃあね」
「食べたらすぐに種を撒くよ」
「そして何時でも甘い林檎を食べられる様になるんだ」
「そうなるね」
「うん、皆で蒔こうね」
 こう言ってです、その人はまだ独立したばかりのアメリカの至るところに出て言ってそうしてでした。 
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