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裸で

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第二章

「私が一肌脱ぎましょう」
「いい考えが思い浮かんだか」
「はい、文字通り」
「待て、今文字通りと言ったが」
 伯爵は妻の言葉にすぐに察して問い返した。
「それはだ」
「はい、私が税金の軽減を懇願してです」
「そしてか」
「裸になり町を歩くことをです」
「するというのか」
「コヴェントリーの街で」
 伯爵領の中で最も豊かで人の多いこの街でというのだ。
「そうしましょう、旦那様には申し訳ないですが」
「私が意地の悪いことを言ってだな」
「はい、私がそうすればです」
「税金を軽くしてやると言ったとだな」
「そういうことになりますが」
「私が悪役になろうとも金が入ればいい」
 伯爵はその理知的な顔で言った、整った黒髭と髪の毛それに鳶色の瞳の顔には冷静さと落ち着いた叡智がある。
「領土がよくなればな」
「そう言って頂けますか」
「うむ、私が悪名を被ってもな」
「領土と民達が救われるなら」
「それでいい」
「では早速。ですが」
「今度は何だ」
「私がコヴェントリーの街を裸で歩くと言えば」
 それでというのだ。
「コヴェントリーの民達はどうするか」
「そなたの裸を見ようとするな」
「馬に乗って進むつもりですが」
「本気でやるつもりか」
「いえ、馬に乗って進んでも」
 それでもとだ、夫人は夫に話した。
「裸にはなりません」
「実はそうするか」
「この話が伝わりコヴェントリーの者達も私に同情し」
「馬に乗り街を歩くそなたを見ようとしないか」
「そうする筈です、ただ中にはそれでも見ようとする者がいてもおかしくないですね」
 夫人はこうも言った。
「正直に申し上げまして」
「私はそれが心配だ」
 愛する妻の裸を見ようとする者が出るのかとだ、例え実際に裸にならずとも。
「だからな」
「いえ、コヴェントリーの者達は奥ゆかしく心優しいので」
「実際には出ないか」
「そうなるでしょう」
「しかしか」
「そうした者が一人はいてもおかしくないですね」
 その場合もというのだ。
「ですから」
「それもか」
「考えに入れてお話を創り上げてはどうでしょうか」
「勝手にか」
「そうですね、仕立て屋のトムという者が」
 夫人はこの辺りはやや適当に考えた。
「ただ一人覗いて天罰を受けたとでも」
「その話を創り上げてか」
「はい、そのトムの人形でも創って」
 こうもしてというのだ。
「私の話とコヴェントリーの者達の高潔さと合わせて」
「街の宣伝にしてか」
「来る者を増やしては」
「確かにな。旅で街に来る者が増えれば」
 それでとだ、伯爵も妻の言葉に頷いた。
「そこで商いも出来るし金も入る」
「そうなります」
「しかも長い間な」
「勿論今もです」
 多くの銭が得られるというのだ。 
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