| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

人理を守れ、エミヤさん!

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

掌の上だと気づいて士郎くん!




 嘗てヘラクレスが成した十二の功業。その三番目の試練として課されたのが、牝でありながら黄金の角を持つケリュネイアの牝鹿の捕獲である。
 ケリュネイアの牝鹿は、狩りと弓の腕に優れた女神アルテミスすら捕らえるのを諦めた聖獣だ。これをヘラクレスは、ケリュネイアの牝鹿を傷つけるのを禁じられた故に、一年もの間追い続けて漸く捕獲した。
 人理を阻む皮を持つ神獣、ネメアの獅子。ヒュドラ種の中でも特殊変異種である、宇宙一の猛毒を持つヒュドラ。双方に次ぐほどにヘラクレスが苦戦し、時を掛けた駿足の獣である。その速力はアルテミスのみならず、ヘラクレスすら正攻法による捕獲を諦めさせたほどだ。彼の駿足のアキレウスに勝るとも劣らぬ脚を持ち、その余りの速さ故になんら海に関する加護を持たぬ獣でありながら、水面を蹴って走行するのに支障を来さなかった。

 ――アルケイデスは宝具『十二の栄光(キングス・オーダー)』により、嘗て捩じ伏せた生前の試練から宝具を引き出せる。このケリュネイアの牝鹿もその一つである。

 アルケイデスは聖杯を奪取する為に黒髭を襲撃し、サーヴァントを三騎撃破した。この時代の星の開拓者フランシス・ドレイクには、船を損傷させ手傷を与えたものの、突然の嵐の中で帆を張り、空を飛ぶようにして逃げ出された故に取り逃がしたが――これを追う意義は見いだせなかった故に放置している。
 迷宮を踏破して、怪物を屠り、女神を捕獲した。島を巡り契約の箱(アーク)を探し求め、途中発見した狩人の霊基で現界していた月女神を屠った。潜んでいたアルカディアの狩人も、同じアルゴー船に召喚されていながら離脱した者故に処分した。

 まだ成果は上がらない。捕獲した際に重傷を与えた女神を連れ回し、苦痛に顔を歪めるのを眺める趣味は無かったが、代わりに気に掛ける事もしていなかったとはいえ――いい加減苦痛に呻く女神の存在が煩わしくなったアルケイデスである。彼は一旦船に戻り、女神を友人に預けるべく帰還する。
 アルゴー号の船長にして、此度の現界に際しての召喚主であるのは、アルケイデスの不肖の友人だ。名はイアソン、生前英雄以上の怪物であったアルケイデスを信頼し、友情を懐かせてくれた存在である。

 ――なるほど、君が『     』か。
 ――素晴らしい、羨ましい! 確かに噂通りの化け物だ!
 ――安心してほしい。私は君を優遇し、使ってみせる。
 ――私と……オレと共にいる間だけ、君は化け物じゃあなくなるよ。
 ――未来の王を護りし、大英雄だ。

 生前出会った時に掛けられた言葉を。アルケイデスは、その霊基が跡形もなく反転してしまった今でも思い返せる。
 余りにも強すぎ、余りにも超越していた故に。己は英雄ではなく、化け物なのではないかと苦悩した日がある。或いはこの言葉が無ければ、アルケイデスは英雄ではなく化け物になっていたかもしれないと、心底で思っていた。
 故にヘラクレス(アルケイデス)は、この友人だけは決して裏切らない。忠誠ではなく友情ゆえに。そして誰が貶そうとも、アルケイデスだけはイアソンを擁護する。彼を罵倒する事は、即ちこの身をも謗るに等しい故に。

「――イアソン、今戻った。女神の捕獲の任、確かに果たしたぞ」

 大海原を漂っていた英雄船に帰還し、ケリュネイアの牝鹿の背から飛び降りたアルケイデスは、アルゴー号の船上へと女神を放り出す。
 しかし返って来たのは沈黙である。なんらかの騒がしい労いと皮肉が飛んでくるものと思っていたが、それがない。怪訝そうに眉を顰め、アルケイデスはアルゴー船の船内を検分した。

「……留守にしているのか? あの男が」

 無人である。船を残して誰もいない。アルケイデスは慮外の事態に困惑した。
 あの男は無能ではない。想定外の事態に極めて弱いが、追い詰められれば真価を発揮する類いの英雄である。伝承とは異なり武勇は然程ではないが、容易く屠られる手合いではなかった。
 あのコルキスの王女もいる。敵に遭遇した、という訳ではないだろう。戦っていたのなら、船がそのまま残っている訳がなく、罷り間違って敗北していたなら船は残らない。このアルゴー船はイアソンの宝具故に。

 サーヴァントである。故に霊体化すれば、海の上だろうと移動は出来るが……。

「む、くっ……!」

 猿轡を噛ませ、腕が鬱血するほどにきつく両腕を縛り、脚を折ってある女神が憎悪を込めて呻くのを聞いて、一旦思考を中断する。
 その腹に軽く蹴りを入れて黙らせ、船の中に投げ入れる。無造作な所作だ。脱走の恐れはない、逃げられないように脚を折ってある。
 それでも想定外はあるだろう。念のため、アルケイデスは或るモノを取り出した。それは毒瓶である。矢の鏃に水滴一つ分浸し、更に海水で数十倍に希釈したそれを女神エウリュアレの脚に突き刺した。

「――ッッッ!?!?」

 言語にならぬ絶叫が上がった。神霊が、自らの不死を返上してでも死を希求する猛毒である。
 しかも折れている脚に毒が回り、此度の霊基では二度と立ち上がる事も叶わぬだろう。かなりの少量の毒ゆえに、即座に死ぬ事もない。脆弱とはいえ神格、半月は保つ。
 アルケイデスは直感していた。スキルによるものではなく、戦士や狩人としての直感である。半月もしない内に決着はつくだろう、という。

 そして女神は脆弱ゆえに発狂する。霊体化して逃げるという発想すら湧かない。湧いたところで実現は不可能なほど、この毒は女神を苦しめる。
 愉悦ではなく、そうした方が万全という冷徹な判断があった。アルケイデスは暫しの間イアソンの帰還を待つ。

「――」

 しかし天高く在った太陽が地平線に失せ、再び昇り始めるまで待ってもイアソンは戻ってこない。アルケイデスは舌打ちした。何をしている、あの戯けは、と。またぞろコルキスの王女に唆されたか。
 アルケイデスはあの王女を疎んでいた。毛嫌いする王族だからというのもあるが、あの女も遡れば神に属するルーツを持つ。アルゴー号の動力源にされてさえいなければ捻り潰していた。
 何より嫌っていたのは、イアソンを操っているような雰囲気を感じ取ったからである。奸物だと見抜いた故に――友人を操る魔女を機会があれば殺してしまおうと思っていた。

 幾ら待っても帰ってこないなら、いるだけ無駄である。アルケイデスは船を出て、自発的に契約の箱の所有者ダビデを探す事にする。
 アルケイデスが女神の捕獲に出る前、トロイアのヘクトールが聖杯を持ち帰ったが、それ以来姿を見せていない。あの男は何をしているのか。
 あれほどの男、そう簡単に斃れはしないだろうが――もしもは有り得る。カルデアが人理修復の為に現れ、あの男と交戦して撃破するというのは想定される事態だ。

 味方として恃める人格と実力である。戦っているなら援護を、アルケイデスが先にカルデアと遭遇したならこれを撃滅するのもやむを得まい。
 アルケイデスとしてはカルデアに悪印象はないが、生憎と敵対する定めである。敵であるならば是非もない。復讐者は己の目的の為に、友人の理想の為に弓を執るだろう。

 ――しかし、その前に。

「……星の開拓者を見逃したのは、失敗だったやも知れんな」

 あれほどの離れ業を、幸運にも果たしてのけた女だ。人間であり、今を生きる者故に見逃したが――後になってそれは失敗だった可能性を考えてしまう。
 アルケイデスは人間を舐めていない。残滓程度だが僅かな英霊としての意識がフランシス・ドレイクを見逃させたが、後顧の憂いになり得ると舐めていないが故に思い直した。

「再度出会う事があれば、屠っておくとしよう」

 そう一人ごち、アルケイデスはらしくもなく苦笑する。
 独り言が多い己を嗤ったのだ。まるでイアソンに会えなかったのが悔しかったかのようではないか。

 ちくりと喉を刺す、小魚の骨のような違和感を感じながらも、アルケイデスはケリュネイアの牝鹿に騎乗して船を出た。
 目標の一つに、フランシス・ドレイクの殺害を加えて。
 











 早まったかと頭を抱えるも後の祭り。後悔先に立たず、覆水は盆に返らない。悪党を縛る契約の儀は、そのまま自縄自縛の態を成していた。

「――デュフフwww よもやあの騎士王が斯様に可憐な乙女であったとは、この海の黒髭の目を以てしても見抜けなんだwww あ、握手してください一生洗いませぬ故!」
「……」
「無視! 完璧な無視! くぅ~www 少女的な美貌とも合わさって拙者、不覚にもときめいてしまいましたぞ! 性別を隠して王になる……デュフフ、ブリテンは未来に生きておりますな! あ。アーサー王は未来に甦る王……なるほどこれはしたり。『未来に生きている』の語源は此処にあったのでござるなぁ……後世に生きた者として感慨もひとしお……ところで拙者、潮風に乗って漂ってくるフローラルな香りで絶頂よろしいか?」

「――むぅ! お主も騎士王ですと!? 同一人物の別側面が同時に存在する……それなんてエロゲ? 現実は二次元だった……? 病的に白い肌にくすんだ金髪、拙者知っておりますぞこれは闇落ち! あの闇落ちですな! むはー! 堪らんとです!」
「死ね」
「オウフwww いわゆるストレートな罵倒キタコレですなwww おっとっとwww 拙者『キタコレ』などとついネット用語がwww まあ拙者の場合死ねと言われて死ぬ潔さは持ち合わせぬ身www 拙者これでもアーサー王伝説は好きなんですぞwww しかし好きとは言っても、いわゆるアーサー王物語としてのアーサーでなく、文学作品として見ているちょっと変わり者ですのでwww ジェフリー・オブ・モンマスの影響がですねドプフォwww ついマニアックな知識が出てしまいましたいや失敬失敬www まあ燃えのメタファーとしてのマーリンは純粋によく書けてるなと賞賛できますがwww 拙者みたいに一歩引いた見方をするとですねwww ポストキリストのメタファーと商業主義のキッチュさを引き継いだキャラとしてのですねwww ボーマンと言われたガレス卿の文学性はですねwww フォカヌポウwww 拙者これではまるでオタクみたいwww 拙者はオタクではござらんのでwww コポォ」
「死ね」

「なんと! ローマ皇帝ネロが女性?! っておんなじリアクション使い回して申し訳ないwww でもどことなく騎士王と容姿が似通っていらっしゃるから是非もしwww!」
「……お主、なかなか個性的よな……」
「オブラートに包まれたwww その優しさに全黒髭が泣くwww そう拙者は没個性な英霊界の革命児www ぶっちゃけ拙者とか青髭辺りが英霊として存在してる辺り英霊界マジ魔境www そこんとこ人理バグってんじゃないのとマジレスしちゃう黒髭氏なのであった、まる」
「う、うむ……お主が言うと説得力が違うな」
「このオブラートに包みきれぬ毒であるwww これまたぶっちゃけちゃうと、カルデアは人理修復の前にそっちに修正ペンを走らせるべきなのではwww? おっとっとwww つい真理を的確に突いてしまったwww そして没個性な英霊界とは申しましたが、この黒髭よりも個性溢れる方がいそうな辺り英霊界マジ魔境www 大事な事だから二度言ったwww ところで薔薇の皇帝陛下、自分、見逝きよろしいか?」
「……しぇ、シェロ! 助けよ! 余にはこの者の相手は無理だ! 怖い!」

「アルカディアの狩人! ほうwww ほうほうほうwww アタランテの矢はあたらんて……おぅふ名前ネタという最低なギャグに拙者を見る目が虫を見るようにwww それはそれとして実に、実に見事な獣耳! 自分、けものフレンズの紳士ゆえwww そういうのにも目がござらぬのですwww モフッて宜しいかwww?」
「近寄るな。汝は不愉快だ」
「『汝』! なんと古風な……野性的でありながら気品のある佇まい……これは萌える! どことなく孤高でありながら柔らかな物腰……さてはお主、子供好きでござるな? ドゥフwww 実は拙者も子供と遊ぶのは好きだったりするのでござるwww 萌え萌えキュンwww この胸に燻るこの気持ち……まさか恋? 自分、惚れてよろしいか?」
「……」

「なんと無垢で穢れなきお瞳……一見BBAであると敬遠する所を、この黒髭の眼は騙されない! 生後十年に満たぬと見た! 拙者の守備範囲ですぞプリンセス・アイリスフィール! 大事なのは外見ではなくその心……お主とならプラトニックな純愛を育めそうな気がしますぞ!」
「ご、ごめんなさい、その、あなたにもきっと素敵な方が見つかるわよ? たぶん……」
「ドゥフフwww 語尾に隠しきれぬ自信のなさが素直さを表してござるwww ときめきが抑えられないwww 結婚したいwww 拙者の生前にお主のような女性にお目にかかれなかったのが真剣に悔しい……」
「そ、そう……」

「そこの可憐な白百合の如き少女! 名前を聞かせるでござる! さもないと――今日は拙者、眠る時にキミの夢を見ちゃうゾ♪」
「マシュ・キリエライトですッッッ!」
「マシュちゃんかぁ。うん、端的に言って拙者と結婚を前提にお付き合――どぅわッ!?」

「そこまでにしておけよ黒髭……」

 頭痛が痛いという重複表現をしてしまう。俺はこめかみを揉みながら、黒髭目掛けて莫耶を投げつける。黒髭は態とらしく大袈裟に身を避けたが当てる気はなかった。
 投影を解除せず、腰に差してあった干将に引き寄せられて戻ってきた莫耶を掴み取り鞘に納め、白けた眼を黒髭に向ける。すると黒髭は極めて真剣な男の表情になる。真顔という奴だ。
 そうするとまさに大海賊といった風貌になる。火遊び好きな女なら簡単に釣れるだろう、危険さを孕んだ面構えだ。やおら重々しく口を開いたかと思えば、俺に対して確信と嫉妬を込めて見詰めてきた。

「……マスター氏」
「その『氏』とか言うのやめろ」
「お主、彼女達人類史の宝と、ただならぬ関係でござるな?」
「は?」
「いや隠さないでよろしいでござるよ。拙者には分かる。見たところ五段階評価中、騎士王のお二方、マシュ殿は五。ネロ陛下とアイリスフィール殿が四、アタランテ殿が四に近い三といった所。エロゲ主人公の親友ポジに不可欠な好感度スカウターが示すこの数値は、全員がヒロインに成り得るという恐るべき現実を示唆しているでござる」
「……はぁ?」

 真剣な顔をして何を言うかと思えば、何を寝言垂れてんだ……。
 だがあながち的外れでもない辺りが恐ろしい。アルトリア達とマシュはそんな感じだろう。いやマシュのそれは恋愛感情に結び付く好意ではないはずだし、ネロは友人だ。アタランテにいたっては接点は余りない。的外れではないが、ちょっと明後日の方にある的を射抜いてる。
 しかし、恐れるべきはそこではない。

「なんで初対面の連中の事でそんなに断言出来るんだか……」

 極短いやり取りとも言えないやり取りで、そこまで感情を見抜けるのは空恐ろしさを覚える。
 要点は、人の感情を見抜く眼力である。そのふざけた言動の裏にある鋭さは、接する時間が長ずれば人心掌握も簡単にしてしまえるものだ。本人の気質的に本人の望む純愛には使えなさそうなのには目を瞑るとして。

 黒髭は割と真剣に答えた。

「見る者が見ればすぐ分かりますぞ。というよりこれは拙者が鋭いのではなく、マスター氏の存在感? みたいなもののせいですな」
「俺?」
「デュフフ、彼女達は明らかにマスター氏をリーダーとして信頼しているでござる。絆レベルで言えば五は超えてますな。アタランテ殿は四かな? けども他の面子は五を壁とすると十に近いか、八か七といった感じでござる」

 限界超えてるんだが。

「その好意と信頼、拙者の船を制圧した時の雰囲気に、マスター氏自身の采配、切れ者の雰囲気、歴戦の戦士の風格、そしてイケメン。あふれでるリア充の波動をこの黒髭が見間違う訳がござらぬでコポォwww」
「……言うほど整った顔立ちでもないはずだが」
「充分整ってござろうが! 謝れ! 拙者や拙者の同胞らに謝れ!」
「す、すまん……」
「それに男は雰囲気も大事でござるよ? あ、話しやすい……気になる……頼れる……頼りたい……そんなふうに相手に思わせられる、これは大事な、そう大事なポイント。幾らか顔面偏差値が低くとも、そこさえ持てれば異性の眼を引くは必定! ところでマスター氏、一つ折り入って相談が」
「……なんだ」

「拙者を! 弟子にしてくだちぃドゥフwww」

 なんの弟子だ。それから頼むんなら真面目に言えと伝えたい。

「断る」
「そこをなんとか! 拙者もマスター氏のように心の綺麗な美女美少女に慕われたいでござぁ!」
「まずはそのふざけた言動をやめろ。話はそれからだ」
「なん……だと……?」

 愕然とする黒髭である。なんでだ、普通の事を言っただけなのだが。

「拙者の英霊としてのアイデンティティーを捨てろと……?」
「そんなアイデンティティーは捨ててしまえ」
「後生でござる! 今のままの、ありのままの黒髭を弟子にして欲しいでござるぅ!」
「無理」
「やはり格好でござるか? ブルマを穿けと?」
「お前が穿いたら控えめに言って地獄絵図だぞ」
「そんなぁぁああ――あ? おっとマスター氏、島が見えてきましたぞ」

 黒髭が馬鹿騒ぎを起こしていると、漸く仮の目的地が見えてきた。流石に宝具、航海速度は大したものである。
 黒髭曰く、敵は真名不明。しかし最低でもヘクトールと件の弓兵が敵である。故に俺は戦力は多いに越した事はないと判断し、他に現地にカウンターとして召喚されたサーヴァントの生き残りがいないか探す事にしたのだ。

 その最初の一歩がこの無人島。敵の目的やら何やらが不明な為、まずは敵の戦略目標を知らない事にははじまらない。
 しかしなんだ、ドッと疲れた。この黒髭劇場を封じる為に、女性陣とは隔離して、野郎で周りを固める他ないと判断する。

 ――しかし、なんだろうか。

 俺はなんとなく嫌な感じがした。カルデアが後手に回るのは仕方がないにしても……何か、特定の道を歩まされてるような……誘導されているような感じがする。
 そうと断じるには判断材料に乏しい。何故そう感じるのかを、これから見定めていくしかない。言えるのは、少なくとも黒髭がこちらを陥れようとはしていない事。少なくとも今は。

 ――戦争は、将棋みたいなものだ。

 個人の戦いではなく、戦略を練るなら将棋みたいなもの。俺は姿の見えない指し手と対局しているように思える。
 第一特異点を速攻で片付けてからだ。第二特異点の始まりから、連鎖した変異特異点。大局的に見て、この第三特異点でも同様の打ち筋を朧気に感じられる。
 弟子にぃ、何卒弟子にぃ! と脚に縋りついてくる大男を足蹴にしながら、近づいていく無人の島を見る。

 何はともあれ、これからだ。この特異点にも魔神柱はいるのだろう。その気配を辿れば、必ず狙いも見えてくる。第二特異点でこちらの偵察を、変異特異点で時間を稼いだような……合理的な打ち筋だ。ならやり易い。合理的な打ち手なら確実にその道筋を辿れる。その思考の癖さえ掴んでしまえば後は簡単だ。だが今は――時間は敵である。前も、今も。

「……」

 敵の掌の上から脱せるのは、いつになるのか。今も敵の思惑通りの状況なのか。
 その敵は、この特異点にはいない。少なくとも俺がその『敵』ならいないだろう。そして合理的な思考を持つ魔術師なら――

 第二特異点で偵察。
 変異特異点で時間稼ぎ。
 三番目の打ち手は……。

「――実験(・・)、か?」

 その呟きは、海賊船の掻き分ける潮騒に紛れて消えた。











 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧