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銀河転生伝説

作者:使徒
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第7話 第三次ティアマト会戦

帝国暦485年の末、銀河帝国では新たな出征が決定されようとしていた。

「それでは陛下の在位30周年に花を添えるために出征せよと言われるのか!」

銀河帝国宇宙艦隊司令長官ミュッケンベルガー元帥は苦々しそうに言う。
言外に、不本意だという態度を示していた。

近年では珍しく、年が明ければ在位30年の長きに渡る皇帝フリードリヒ4世だったが、内政面での治績はまったくと言ってよいほど無い。
このような場合、対外的な軍事行動の成功によってその事実から目を逸らさせるのは為政者の常套手段と言ってよかった。

「だが司令長官、この数年反乱軍の大規模な攻勢が続いているのも事実だ。先日もイゼルローン要塞に六度目の攻撃をかけてきておる」

「それは撃退しておるし、その前にはヴァンフリート星域まで進出して叛徒どもの前線基地を叩いておるではないか」

「しかし二年前にもイゼルローン要塞に肉薄されておるし、さらにアルレスハイム星域の会戦でも大敗を喫しておる」

「…………」

事実だけに、ミュッケンベルガーは何も言えないで口を噤む。

確かに、ここ最近銀河帝国軍の戦績はあまり良いとはいえない。
第五次、第六次イゼルローン要塞攻防戦は帝国軍の勝利ではあるものの、それはイゼルローン要塞に頼ってのものであり、しかも要塞への肉薄や直接攻撃を許している。
勝って当たり前の戦いでの苦戦……少なくとも一般の人にとってはそう見えた。

故に、帝国政府は軍の勝利を望んでいるのである。
それも、会戦による華々しい勝利を。

「別に卿だけの責任を問うているわけではない。我らは同じ責任を負うておるのだ」

この軍務尚書エーレンベルク元帥の言葉に統帥本部総長シュタインホフ元帥も頷き、ミッケンベルガーが渋々同意する。

「ここいらで反乱軍に手痛い報復をくれてやり、我らも実績を上げねばならぬ時期にきておる。ということだ」

「…………」

ミュッケンベルガー元帥に不満があろうとこれは帝国政府の正式決定であるため、決定が覆るわけでもない。
帝国軍の出征は、既に決定事項であった。

・・・・・・

年が明けて帝国暦486年1月。
帝国軍は47400隻からなる遠征軍を皇帝臨御の下、出撃させようとしていた。


* * *


帝国軍の侵攻近しの報はフェザーンを経由して、既に同盟軍の知るところとなる。

同盟軍は直ちにイゼルローン回廊外縁の辺境星区に警備部隊を緊急展開したが、輸送艦配備のミスから前線に展開した部隊で生活物資とエネルギーの欠乏が深刻化。
軍では対応できず、やむなく近辺の星区から民間船が100隻ほど雇われて物資の運搬に当たることになった。

しかし、宇宙艦隊司令長官ロボス元帥が不明確な形で戦力の保護を命じたため、これに過剰に反応した護衛部隊は危険宙域の手前で引き返してしまった。

が、これが仇となる。
護衛部隊が引き返した後、輸送船団は哨戒行動をとっていた帝国軍の巡航艦2隻と遭遇。
唯一、護衛に残っていた巡航艦グランド・カナルが自らを犠牲にして必死に時間を稼いだことで民間船の半数は目的地に到着し、残る半数も安全宙域まで逃げ延びることができた。

・・・・・

2月に入り、同盟軍では第十一艦隊司令官ホーランド中将がマスコミに公言したティアマト星域での迎撃案を、最終的な作戦案として決定した。
もっとも、迎撃に適した星系がそういくつも存在するわけではなく、その意味での軍事的蓋然性は高い作戦だったため反対が少なかったとも言える。

だが、最終的に宇宙艦隊司令長官であるロボス元帥の決定を促したのは、ホーランドが口にしたブルース・アッシュビー元帥の大勝利を再現するという言葉だったかもしれない。
統合作戦本部長のシトレ元帥を超えたいロボスにとって、それは甘美な誘惑であった。

話を戻すが、この作戦に投入される艦隊は6個艦隊。
ホーランドの第十一艦隊の他には、シトレ元帥の意向によってビュコック中将の第五艦隊とウランフ中将の第十艦隊、ボロディン中将の第十二艦隊が先発し、国防委員会の予算処置が下り次第、パストーレ中将の第四艦隊とムーア中将の第六艦隊が続くこととなった。

一方、その頃すでに帝国軍はイゼルローン要塞に達し、最終的補給を受けていた。


<アドルフ>

もうすぐ、あの大惨事(笑)ティアマト会戦が行われる。

俺の指揮するのは1個艦隊12000隻。

それは良いんだが……何で参謀長がノルデン、お前なんだよ!!
どうしてこっちに来るんだ!?
お前は原作通りラインハルトのところにでも行ってろ。
俺より無能な奴は要らん。邪魔だ!

副参謀長は大佐に昇進したミュラー。
旗艦ウィルヘルムの艦長にシュタインメッツ(大佐)がいることがせめてもの救いだ。
分艦隊司令官の1人にシュムーデ少将の名もあるが……確か原作だとカストロプ動乱で戦死した奴だったよな?
情報が少なすぎて能力は分からんが、ここで俺の下に配属されたのも何かの縁だ。
使えるようなら使ってやろう。


「そろそろ旗艦ヴィルヘルミナにて会議の時間です。シャトルの用意は整っておりますのでお急ぎ下さい」

「だりぃ~、つーか何で参謀長あいつなの? ミュラーでいいじゃん」

「大佐である小官では1個艦隊の参謀長はさすがに無理かと」

「そこを何とかする為の権力だろうに……まあいい、とりあえず行ってくる」

俺の出る幕は無いと思うけどな、会議。


* * *

宇宙暦795年/帝国暦486年 2月20日。

先発した同盟軍の4個艦隊は、帝国軍に先んじてティアマト星域に到着し布陣を終えていたが、総司令官たるロボス元帥は依然後方にあった。
後続の2個艦隊の動員が国防委員会の承認を得られず、全陣容が整っていないためである。

だが、その日の内に帝国軍もティアマト星域に進出し、両軍の間で戦端が開かれた。


<アドルフ>

こちらは4個艦隊47400隻。
いつもの如く、原作に俺の艦隊が加わった形だ。

対する反乱軍も4個艦隊48200隻。
まあ、こちらが増えてるんだから敵さんも当然増やすよね~。
って、しかもボロディンの第十二艦隊かよ!!
てっきりパストーレの第四艦隊かムーアの第六艦隊かと思ったが……。

この乖離がどんな影響を及ぼすか想像もできん。
ここは可能な限り戦力を温存しておくべきか。

・・・・・

原作通り、原作の第三次ティアマト会戦における二大馬鹿の一角であるホーランドが芸術的艦隊運動(笑)を始めた。
俺の艦隊はラインハルト艦隊のように後方待機は命じられてないため、巻き込まれる前に艦隊を下げる。
ホーランドの第十一艦隊が攻撃してきても、装甲の厚い戦艦を盾にしながらひたすら後退。
そんな俺の艦隊に興味を無くしたのか、第十一艦隊は別の艦隊の方へと行った。

俺とラインハルトの艦隊以外は完全に混乱状態だ。

「敵ながら見事な用兵ですな~」

もう一人の二大馬鹿であるノルデン少将がこっちへやって来た。
来んな、ウザい!

「敵将の用兵は既成の戦術理論を超えております。一定の戦闘隊形をとらず、さながらアメーバのように自在に四方に動き回り、意表を突いて痛撃を加えてきます。なかなか非凡と言わざるをえません」

「ハァ? あのふざけた艦隊運動がか? 俺の見るところ敵将は無能としか言いようがないが」

「無能とおっしゃいますが、事実、我々の軍は敵に翻弄されています。彼らはそれでも帝国軍人として勇敢に戦い、その本分を尽くしています。翻って我が艦隊は味方の苦戦を傍観しておりますが、閣下のお考えは?」

「あの艦隊は他の艦隊との連携を完全に欠いている……というか意図的に無視している上、あんな艦隊運動がいつまでも続くわけないだろう。長距離走を最初から全力で飛ばしているようなものだ。補給線が伸びきるのは目に見えている。ならば、こちらは無用な交戦を避け敵が行動の限界に達した時点で反攻に移ればいい」

「ほお、それはいつのことです? 1年後ですか? それとも100年後ですかな?」

うざっ!
こいつマジうざい。
殺虫剤でもかけてやろうか?

ラインハルトがあれだけストレスを溜めてた理由が良く分かったわ。

「もういい、下がれ」

俺はノルデンを下がらせると、「ハァ~」と溜息をつきながら椅子に座りこむ。
疲れたわ………。

「お疲れのようですね」

「ミュラー、お前とシュタインメッツだけだよ俺の苦労が分かってくれるのは。というか、なんであんなのが少将なんだ?」

「小官にはなんとも………」

「敵もあんなのが艦隊司令官やってるしな。案外世の中ってのはそういうものなのかもしれん」

まあ、それを言えば俺自身もそのカテゴリに入るわけだが……そこはスルーだろw

…………

あ、また敵がこっちの方に来た。

「全艦、後退」

と、そこら辺をうろうろしていたノルデンがこっちへ走ってくる。

「閣下! 総司令部の指示も無しに、しかも敵と一撃も交えず後退するとはいかなるご了見か!」

こいつは……。
ていうか一撃ならさっき交えただろ!
寝てたのか?
職務怠慢で減給だな。

「何度も言わせるなバカが、今我々があの混戦の中に入ればよけい混乱するだけだろう。むしろ後退して味方にも後退する余地を作り、バカみたいに前へ出た敵をさらに前進させ、その行動性を限界まで引き延ばすことこそ我々がすべきことだろうに」

「しかし総司令部からの指示は――」

「何のために各艦隊に司令官がいると思ってんだ? 個々の局面では司令官の判断で行動する、そのための司令官だろうが」

「ですが――」

「そもそも、総司令部の作戦を墨守するだけなら艦隊参謀長なんて必要ないだろうが」

「っ………」

やれやれ、このバカほんと使えねぇ。
誰か他のに変えてくれ……。


* * *


16時40分から19時20分の間、戦況は同盟軍有利のうちに推移していた。
ホーランドはさらに艦隊を前進させ、先覚者的戦術(笑)によって帝国軍の間を荒れ狂っていた。

これに対し、帝国軍の惨状はむしろ醜態というべきであったと言えよう。
ミュッケンベルガー元帥は懸命に艦隊を立て直そうとしたが、麾下の提督たちの大半が浮足立って暴走していたため指揮系統が確立できず、そこを一方的に攻撃された。

しかしながら、第十一艦隊の行動は徐々に限界に近付きつつあった。


<アドルフ>

「そろそろ……か」

「はい、まもなくでしょう」

俺とミュラーが敵の行動限界点を見極めていると、またノルデンが話しかけてきた。

「司令官閣下、最早大勢は決したように思われます。損害を被らぬうちに退却なさるべきでしょう」

はぁ?
原作で分かってたが……やっぱこいつは真正のバカだ。
先ほどの俺の話を理解できなかったらしい。

「敵の攻勢はそろそろ限界だ。敵の行動が限界に達した瞬間に、敵の中枢に火力を集中させればそれで蹴りがつく。撤退など論外だ」

「それは机上のご思案、そのようなものに捕らわれず後退なさい」

あ~……、こいつに構うのはもう疲れた。無視だ無視。

「全艦砲撃用意。命令が有り次第、敵に向け斉射三連」

「全艦砲撃用意」 ← ミュラー君です


このとき、暴風の如き破壊力で戦局をリードし続けていた第十一艦隊の動きが………止まった。
攻勢の終末に達し、拡大から収束へと向かう一瞬にその動きが凍結したのである。
そして、それが解けようとした刹那―――

「全艦、主砲斉射!」

ハプスブルク、ラインハルト両艦隊の全艦が第十一艦隊に向け主砲を斉射。

この一撃(二撃?)で第十一艦隊の旗艦エピメテウスが撃沈され、ホーランドは戦死した。

「第二射用意、撃てぇー!」

止めの一撃であった。
指揮官を失った同盟軍第十一艦隊はもはや烏合の衆に過ぎず、出来ることは一目散に撤退することだけである。

ラインハルト艦隊を除く帝国軍の艦隊は敗走する第十一艦隊を嵩に掛かって追い立てたが、これに備えていた同盟軍第五、第十、第十二艦隊がその前に立ちはだかり、巧妙に連携しながら数度に渡る帝国軍の突進を食い止め、追撃を断念させた。

結局、この第三次ティアマト会戦は帝国軍の勝利で終わり、ハプスブルク、ラインハルト両中将は共に勲功第一と評価され大将へ昇進。
ミュラー、シュタインメッツも准将に昇進した。

ただし、ノルデン少将はとある門閥貴族が「こいつ使えねー」といった内容の報告書を出したため昇進しなかった。
それどころか、職務怠慢による減俸1ヵ月の処分を受けた。
 
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