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ドラゴンクエストⅤ〜イレギュラーな冒険譚〜

作者:むぎちゃ
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第六十四話 王の帰還

 
前書き
ドラクエ5が映画化すると聞きました。喜ばしい限りです。なんとか今年中にこの小説完結できればいいなぁ。

 

 
 ストロスの杖の力によって石の呪縛から解放されたアベルだったが、反応が朧げだ。一応目を動かして私たちに反応はしているものの、言葉も意味をなしてないし、体の動作も不安定で起き上がろうとしても起き上がれない。長年体を思うように動かせなかった弊害だろう。
 レックスとタバサが、立とうとして倒れそうになった父親を慌てて支えた。
「こ……、これはどういう事だ!目の前で石が人になった!私は気がふれてしまったのか?!」
 「落ち着いてください、ブルジオさん。石が人になったのではありません。この人はグランバニアの国王であるアベル様。彼は邪悪な魔物に呪いをかけられ、その姿を石に変えられていたのです」
 動揺するブルジオさんに、フローラさんが冷静に説明した。
「石像ではなく人だった……?彼は、魔物に呪われていた……?……私は、私は知らなかったとはいえ宣伝文句にあっさりと騙され、何の罪もない哀れな人に酷い仕打ちをしていたというのか…………」
 両手で顔を抑えしばらくブルジオさんはそのままそこに立ち続けたまま、動かなかった。そして顔から手を離し、彼はアベルの元へと近寄った。
「知らなかった事とはいえ、あなたにはとんでもない非礼をしてしまい、大変申し訳ございませんでした……。そして、お願いがあります」
 ブルジオさんの声が震え始め、頬に涙がつたい、滴り落ちる。自らの体に落ちる涙にも反応する事なく、ただそれをアベルは見続けている。
「魔物達に連れ去られてしまった我が息子、ジージョを、どうか、助けてくださいお願いします、…………お願いします」
 その言葉を受けたアベルはゆっくりと、おぼつかないながら腕を伸ばしブルジオさんの肩に手を当てた。そして何とか唇を動かして言葉を振り絞った。
「か……な……ら……ず……」
「ありがとうございます……、本当にありがとうございます……」
 ブルジオさんは純粋な感謝の言葉を涙と共に零した。
「それじゃ、ルーラで帰りましょう。タバサ、準備は出来てる?」
「はい。大丈夫です」
 タバサは自信を顔に浮かべストロスの杖を構えた。
「ルーラ!」
 詠唱と共に青い光が私達を包み込み、一瞬の軽い浮遊感の後一気に体が上昇するのを感じた。と思えば束の間気がつけばグランバニアの城門前に着地していた。
「それでは私はこの辺りで。また何かありましたらご連絡下さい」
「本当にありがとうございました、フローラさん。この恩は必ず返します」
 フローラさんとはそう言って別れ、彼女はルドマンさんの使者の船へと乗って行った。
「さて、私達も早くアベルを寝かせてあげなきゃ」
 急激に石化から解放された影響かどうかわからないけれど、アベルはこの短い間に意識を失ってしまっていた。ただでさえ私より背が高くて体付きもがっしりしているのに意識を失った彼の体を支え続けるのはかなりの負担だ。この8年間魔法力が衰えた分、筋力も鍛えのだがそれでも結構大変だった。
 幸いにもすぐに兵士が来てくれて、アベルを部屋まで運んでベッドに寝かせてくれた。

 *

「それで王のご容態は?」
 オジロンさんが深刻そうに医者に尋ねた。
「肉体的には何ら問題はありません。呪いの力も完全に消えています。ただ……」
 医者は一回そこで言葉を切った。
「8年という長い月日で自らの肉体を全く動かせなかった事で体の機能を再び把握するのにそれなりの時間がかかりますかな。時間をかけ、睡眠と食事と運動で療養する。これしかありません」
「そうか……。いや、王が生きて戻っただけでもありがたい」
 ベッドで死人のように眠りこけるアベルを見てオジロンさんはそう呟く。
「後は、一刻も早く王が回復するよう祈るだけだな」

 *

 アベルは3日間の間死んだように眠り続け、やっと目を覚ましても反応に乏しく相変わらず目の前の事を認識しているかどうか不明瞭で。手もうまく扱えない為メイドに水や食事を口に運んでもらう必要があった。8年ぶりの食事に対してもアベルは特に表情を変える事なく無反応のままで1日分の食事を取り終えた後はひたすら眠り続ける日々を送っていた。
 そんな彼の容態がやっと回復し出したのはグランバニアに戻ってから2週間後の事。
 アベルの起きている時間は日に日に増えていき、乏しかった意思も次第に鮮明になっていき、大分受け答えが出来るようになった。まだ体の方は万全ではない為、ベッドから出ることはできないがそれでも著しい回復と言えた。
 しばらく会話しても大丈夫と、許可が出たので早速私はレックスとタバサを連れてアベルの元へと向かう事にした。
「2人とも緊張してる?」
「う、うん」
「どう接したらいいかわからなくて……」
 実の父とはいえ8年間も生き別れていたのだから、2人の緊張も当然だ。今まで家族はお互いの存在しかいなかった2人とって新たに父親という存在が入ってくるのは想像できないし、だからこそ緊張しているのだろう。
「先生は緊張しないの?」
 レックスの問いに少し思考を巡らせた。8年越しの再会(と言えるかどうかは微妙だけど)をした時にアベルに対して私が思った事は何か。ただアベルが石から戻って良かった。それだけをただ純粋に、強く思っていた。あの瞬間は私は8年という時間など忘れていた。あの時の私はアベルと共に冒険していた『ミレイ』だった。
「緊張はしないかな。最初は私も8年という時間を意識していたけれど、でも全然そんな事なかった。だから、あなた達も大丈夫よ。きっとあなた達は家族になれる。人の繋がりは、呪いに壊されて直らないようなそんな弱いものなんかじゃないから」
 話をしているとアベルの部屋のドアが見えてきた。扉を開くとそこには8年前と変わらない姿のアベルがいた。
 私達に気づいたアベルは8年前と変わらない優しい笑みを浮かべた。
「久しぶりミレイ。それに……」
「あの、僕お父さんの息子のレックスです!」
「私、お父さんの娘のタバサです!」
 2人は勢いよく駆け出し、アベルに近寄る。
「僕達ずっとお父さんに会いたかった!」
「お父さんを助けるためにいっぱい魔法を覚えたりしたの!」
「僕、お父さんが残していった天空の剣装備できたんだ!」
「私達、ストロスの杖を探しに色んなところ旅したの!」
 堰を切ったように、今までの空白を塗りつぶすように、自分たちの事をものすごい勢いで2人は語り始める。話し始めているうちに感極まってきたのか2人の目から涙が溢れ出してきた。
「2人が僕を助けてくれたんだね。ありがとうレックス、タバサ」
 アベルは手を伸ばし我が子の頭を優しく撫でる。とうとう2人は何も言えなくなり、父親に抱きついたままただ涙を流していた。
 
 

 
 
 
 
 
 

 
後書き
ちなみにアベルは上半身だけ起こしてて下半身だけ寝てる状態です。私の今の文章力じゃどう地の分に落とし込めていいのかわからなかったのでこんな形になりました。

 
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