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【完結】猫娘と化した緑谷出久

作者:炎の剣製
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猫娘と回想、I・アイランド編
  NO.098 回想《3》 デヴィット・シールド

 
前書き
更新します。 

 



とあるタワーの中で一人の男が一枚の写真を見ながらも憂いの表情を浮かべていた。
そこに映っていたのは若かりし頃のオールマイトの姿であり、その写真を見ながらも男の胸の内は複雑の境地に達していた。
これから自分がしようとしている事を友は喜んでくれるのか、それとも「なんてバカなことを……」と叱ってくれるのか……。

「(オールマイト……トシ……)」

それで物思いに耽っていたが、

「―――博士。デヴィット博士」

助手であり、今の今までこんな自身に従ってくれていたサムに声を掛けられて、男……デヴィット・シールドは写真から視線を外して返事をする。

「なんだい、サム?」
「こちらの片付けも終わりました」
「そうか、ご苦労様、サム」

デヴィットはそれで笑顔を浮かべながサムにねぎらいの言葉を掛ける。
そこにサムがある事を言う。

「最近お疲れでしょう。たまにはお嬢さんにお会いになって食事になどいかれたらどうですか?」
「今日もアカデミーに行っているよ」
「エキスポ中は確か休校のはずではなかったですか?」
「自主的に研究をしているそうだ。まったくどこの誰に似てしまったのか……」

そう言ってデヴィットは苦笑いを浮かべる。
そこにその質問を待っていたかのように扉が開いてメリッサが姿を現して、

「パパの娘だもの。似ちゃうのは仕方がない事だわ!」
「メリッサ」

メリッサはサムに挨拶と父のお手伝いをありがとう的な話をして、デヴィットに満面の笑顔を向ける。
そんな出来た娘の対応に「まいった、まいった」と降参の意をして、

「それよりメリッサはどうしてここに来たんだい?」

デヴィットは普段からのメリッサの行動をあらかた把握して知っているために、こんなところになんできたのか分からなかった。
するとメリッサはしてやったりな笑みを浮かべながらも、

「私ね、パパの研究が一段落したお祝いに、ある人をI・エキスポに招待したの」
「ある人……?」
「パパの大好きな人よ」

それを聞いて即座にデヴィットの脳内にとある人物の顔が思い浮かべられる。
それはタイミングがいいのか悪いのか分からないというものだが、しかし来てくれたのならそれは素直に嬉しい限りだ、と。
そして待っていましたと言わんばかりにメリッサの背後からデヴィットにとって慣れ親しんだ人の大声が響いてくる。

「私がぁぁ、再会の感動に震えながら来た!!」

そんなオールマイトの突然の登場に一瞬で心構えをしてもやはり嬉しいデヴィットは「トシ……オールマイト!?」と、サムと一緒に驚いていた。
そこから始まる二人のとても仲よさそうなやり取り。
オールマイトはデヴィットを持ち上げてかなり喜んでいた。
デヴィットはただただ驚くばかりであった。
そんな二人の後ろからメリッサが、「どう、驚いた、パパ?」と言ってきたためにデヴィットもまだ現実だと認識できていないために曖昧な表情を浮かべながらも「ああ……とても驚いたし、嬉しいよ……」と答えるだけであった。

「お互いにメリッサに感謝だな。しかし、こうして会うのは何年ぶりだろうな……」
「歳の事に関してはやめてくれ。お互いに考えたくないだろう?」
「違いないな」

そんな軽いやり取りが行われていたが、ふと二人は静かになり、

「会えて、嬉しいよ……デイヴ」
「私もだよ、オールマイト」

そうこうしたがこうしてお互いに落ち着いて再会の挨拶ができたのであった。
拳を合わせながらも、オールマイトは入り口でわなわなと震えている出久に顔を向けて、

「緑谷ガール。紹介しよう。彼はメリッサの父であり私の親友・デヴィット・シールド―――」

オールマイトが最後まで言い切る前に、

「知っています! デヴィット・シールド博士。数々の賞を受賞して、“個性”研究のトップランナー! そしてオールマイトの数々のコスチュームを開発した天才発明家!! まさか、こんなところで会えるだなんて……感激です!」

そう言ってデヴィットに駆け寄る出久。
そんな出久に「紹介はいらなかったみたいだな」とオールマイトは言う。
だが、デヴィットはオールマイトの口から出た『緑谷』という苗字にすぐに聞き覚えがあったのか鋭い視線を出久に向ける。

「ミドリヤさん……君はもしかして、あのヒーロー復帰は絶望的だと言われていたインゲニウムの脊髄損傷を治療したという……」
「えっと、はい。よく知っていますね」
「それはもう……」

それでデヴィットは鋭い目つき……表現するとしたら科学者の目だろうか?そんな視線を出久に向ける。
さきほどまでのオールマイトとのやり取りが嘘みたいに、出久は一瞬ではあるがその瞳に怯えてしまった。
ただ、メリッサはそんな二人のやり取りに気づかなかったのか、「パパ……?」と首を傾げるだけであった。
オールマイトも「デイヴ?」とメリッサ同様に首を傾げていた。
少しそこでシンッ……とした空気が流れるが、オールマイトの突然の咳込みでデヴィットの思考は現実に戻ってきたのか、

「トシ!?……メリッサ。オールマイトとの久しぶりの再会だ。すまないが、積もる話をさせてくれないか?」
「え? あ、うん……」
「それとミドリヤさんをI・エキスポの案内をしてやったらどうだ?」
「わかった。それじゃいきましょう?」
「う、うん……」

先ほどまでの興奮もなぜか無くなっていた出久はメリッサに従うままに部屋から出ていった。
ついでにデヴィットはサムも退出させていた。
三人が部屋を出ていったと同時に、オールマイトの体から煙が上がり始めて次第にトゥルーフォームの姿になってしまっていた。活動限界だったのだろう。

「トシ……大丈夫か!?」
「た、助かったよ、デイヴ……マッスルフォームを維持するのにももうかなり時間が減ってしまってな……」
「メールで症状は知っていたが、そこまで悪化していたなんて……」
「すまん……それより、先ほどの緑谷ガールに向けた視線はなんだったんだい、デイヴ……?」

まだ咳込みが続いている中でオールマイトはその事をデヴィットに聞く。
デヴィットはそれで内心で「気づかれていたか……」と思いながらも、隠す事でもないのでオールマイトに考えていたことを白状することにした。

「ミドリヤさん……彼女の治癒の個性は、君には適応しなかったのかい……?」
「やっぱり、そこに勘づくよな。さすがは科学者だ」
「笑いながらはぐらかさないでくれ。もしかしたらトシの体が治るかもしれないんだろう!? あの、リカバリーガールですら治せなかった脊髄の損傷を治すほどの治癒力……彼女の個性を研究すれば君の体が治るかもしれないだろ!?」
「デイヴ……」

オールマイトは鬼気迫るデヴィットの顔に、相当自身の事について心配をかけている事を改めて悟る。
それで横になりながらもオールマイトは出久について話し始める。

「……確かに、緑谷ガールのその治癒の個性の事を聞かされた時にはわずかな希望を湧いたものだったよ。だけど、それでも一度失った器官までは再生できるほど万能でもないんだよ」
「と、いうと……?」
「緑谷ガールの治癒の個性は、まだ完治していなくて手遅れでなければ元の状態にまで復元できるほどの強力な個性なんだ」
「すごいじゃないか!? だったらどうして……」
「言ったろ? 完治していなければの条件下で、だ。私の傷は胃の全摘出後に入院し療養して、外面だけでも一度は『完治』してしまっているんだ。だから緑谷ガールの個性『与える』という個性はただ寿命を延ばすだけの代物になってしまうんだ」
「寿命を延ばす……? それに『与える』だって……?」

それでデヴィットの脳内ではある事がいろいろと加速した。
ある意味でマッドサイエンティストとも言える事も考えに上がっている。

「トシ……もしかしたら、お前の傷は治るかもしれないぞ?」
「なんだって……? それはどういう……」
「ドナー提供だ」
「ドナー提供……?」

オールマイトは不思議そうに首を傾げるだけだった。
しかし、とも思う。

「しかし、それと緑谷ガールの個性がどう関係してくるんだい?」
「そうだね。手順を説明すると、まずドナー提供で健康な胃をもらい、そして手術で胃を移植するときにお腹に傷を開くだろう」
「うむ」
「そしてオールマイトのお腹に胃を移植した状態でまだ接合しただけでお腹を開いたままなら、まだ“傷”だと個性は認識するだろう。そこにミドリヤさんの与える個性を使い、傷だと誤認させたままで復元してもらうんだ。それならもしかしたら健康な体を取り戻すことも可能なんじゃないか?」

そこまで聞いてオールマイトは目を見開くが、

「しかし、そこまで精密な事をするとしたらどれだけの生命力を消費する事か……」
「生命力の消費……?」

そこで先ほどまで出てこなかった新たなワードにデヴィットは聞き返す。
それでオールマイトはまた説明をする。
他の誰にも話してはいけないよ?と前置きをして、出久とフォウの関係を話していく。
そして出久の中で渦巻いている四万はあるであろう生命力の事も……。
ただ、ここでワン・フォー・オールを出久に譲渡したことも話しておけば後の出来事もどうにかなったかもしれないが……。

「まさか、そんな個性があるだなんて……まだまだ謎だらけだな、個性は」
「緑谷ガールはただただ親友らとともに一緒に歳を取りたいと願っているが、それでも少し後ろめたく感じてしまうんだよ」
「しかし、それならミドリヤさんも快く了承してくれるんじゃないかい? 見た感じオールマイトの事を尊敬しているみたいだし……」
「そうなんだよな。だから尚更だけどな……」
「そうか。まぁ、とりあえず、トシ、君の体の検査をしたい。いいかい?」
「わかった」

それで二人の会話はまだ続く事になっていく。
 
 

 
後書き
今回はシリアスになりましたが、次回からみんなが出てくると思います。 
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