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【ユア・ブラッド・マイン】~凍てついた夏の記憶~

作者:海戦型
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吹雪く水月

 
 記録復元、開始。時系列、現代より■■■日と■■時間前。

 座標、■■■■■■■■■■。記録内容、会話。


「では、この中に?」

「ああ」

「この■■の経歴が■■■■■あるのは?」

「■■■■の者が隠匿している。であるからには、逆説的に■■である」

「では、■■■■■をこちらに。末■とはいえ■■■■■だ。■■■■も丁度良い」

「御意に」

「さて、■■■■■の■■■■が先か、はたまた■び■■間■■■の■■か」

「どち■■■■、■■はあ■■■ま■。■等■揺る■■■」

「■■■■■■■■■■■■■■■」

「■■■■■■■■■■■■■」

「偉■■る皇■ラバル■■遺■を握■■■、我々■」


 警告。記録復元が外的要因によって阻害さています。

 パラダイムインフェクションの危険性を排除するため、現時点を以て記録の破棄を実行します。



 = =



 課外授業。それはやる義務はないけどやった方がいい授業……なのだろうか。
 そろそろ肌寒さとは逆の風を感じ始めてきた6月初旬、特組はリック先生が担任権限でぶっこんだ課外授業のために学校の敷地内にある「学内都市」に来ていた。

「今回は特別にお前らをここに連れてきたが、本来であれば原則この時間に生徒が町に入ることは出来ない。授業やってる筈の時間だしな」

 学内都市というのは、広大な敷地を誇る聖学園が有する学校内の小さな町のようなものだ。そこには学校を維持するために働く人々やその家族のための町が出来ており、娯楽から何まで生活に必要な一通りの店や設備が揃っている。
 もちろん聖学校の敷地内ということもあって、通常の町にあるものがなかったり特別なルールがあったりするし、学生が授業をさぼって遊びに来たり変なものを買おうとすると町の管理システムから職員室まで一発でデータが送信される。

 ここはあくまで聖学校の職員の為の都市であり、学生はそのおこぼれに預かっているようなものだ。
 とはいえルールさえ順守すれば何の問題もなく遊べるだけの施設やお店が揃っているのだ。移動も無料モノレールを使えるのだから、学生としては十分に贅沢が出来ている。

 実をいうと、エデンもエイジと共に何度かこの町に来ている。友達と少し遊んだり、エイジの欲しいパソコンのパーツを買ったり、ちょっと寂しい寮の部屋を飾るものを求めてさ迷ったり、暇つぶしにウィンドウショッピングに洒落込んだりだ。
 しかし、こんなにいい場所なのに来たこともない人がいるのは少し驚いた。しかもそれが、このクラスで最も長く学校生活をしている天馬と朧だというのだから意外だ。エイジもそう思ったのか、天馬に問いかける。

「来た事ないの?」
「ない。ここの商品って通販システム使えるから、意外と来なくても困らないんだよな」
「必要なものは天掛家(じっか)から取り寄せるものばかりですし、この町はどうも合いませぬ」

 エデンとしては、それでも知り合いに誘われて一度遊びにいくぐらいはするのでは、と思ったが、そういえば二人は放課後にちょっと遊ぼうみたいな誘いは常に断っている。これについては朧の巫女としての習慣に天馬が付き合っているということらしい。
 六天宮の巫女ともなると、確かに都会都会した空間は馴染みづらいものがあるのかもしれない。昔、六天宮の一つである天輝(あまてり)天宮にお正月の初参りに行ったことがあるが、敷地内の雰囲気や空気が外と別物だったのをよく覚えている。上手くは言えないが、浮世離れとはああいうことなのかもしれない。

「美杏と美音はよく来るよー?服とかアクセサリとかお化粧とか、流行りの物も一通り網羅したラインナップだからね~」
「お化粧はしすぎるとルーシャ先生に強制的に落とさせられるけどねー。ま、美杏たちくらいになるとすっぴんでもプリティだけど!」
「わたくしは凪原さんと同じく取り寄せますが……あざねは確か足を運んでいたわよね?」
「パソコン越しでは商品の目利きが困難ですので、購入する品はこの目で品定めしております」

 永海と悟は聞くまでもない。アウトドアの永海とインドアの悟、それが全てだろう。

「さて、お喋りもいいがまずは授業だ。全員よく聞くように」

 ぱんぱんと手を鳴らして注目を促したリック先生は、改めて今日の授業内容を発表する。

「今日の授業内容は、魔鉄器射出システム、通称『BIS』についてだ」

 BIS。あまり聞きなれない言葉だ。今回も勉強できない組は首を傾げているが、分かってるメンツは分かってるようだった。

「俺たち製鉄師は、こと実戦に出るプロになると契約魔鉄器も大型化したり攻撃的な形状になったり、日常生活に持ち歩ける品ではなくなる場合がある。アタッシュケースに入れて運べるならまだしも、俺のなんぞ棺桶並みのサイズだぞ」
「そんなゴツイの持った人が町中をうろうろしたら嫌だよね?物理的にも邪魔だし怖いし」
「あれ、そういや今日は先生あの鈍器持ってねーのな」

 永海が今更気付いたように先生たちを見る。普段は授業にも持ち込んでいる例のアレは、確かに持ち歩いてたらカチコミでもあるのかとか、そもそも何だアレとかで周囲の人は気が気ではないだろう。

「そう、今日は持ってない。しかし緊急時、製鉄師はその多くが万全の力を発揮できる契約魔鉄器を必要とする。天災、反社会勢力、侵略者、色々だ。それが起きる可能性を考慮して常に持ち歩くなんてのは面倒だし、かといっていざというときに持っていないと困る。そこで日本が開発したのがBISだ」
「そのBISを使うとすぐに手元に魔鉄器が届くんですか?」
「そういうコト!といっても魔鉄器を管理する施設に預けておかないといけないんだけどね?じゃあリック、実演どうぞ!」
「ああ。念のため少し離れてろよ、お前ら」

 リック先生は学内都市の広場に足を運ぶ。
 ちらほら人通りが見えた通りと違って広場は今は誰もない。
 訓練のために貸し切っているそうだ。
 リック先生は広場の中心に来ると、懐から小さな金属の板――ドッグタグに似ている――を取り出してぐっと握った。

「射出承認」

 ……………。

「終わりだ。国内ならばどんなに遠くとも1分以内には魔鉄器が届く」
「え、そんだけなんですか?なんというか、盛り上がりに欠けますね」
「暁、お前なぁ……今急いでるんだって時に面倒な手続き踏まないと呼べないんじゃ不便だろうが。なにか?俺がこの伝票(タグ)を空高く掲げて『クリスタルドラグゥゥーン!』とか叫べばよかったのか?」
「その方が断然盛り上がると思います!」
「……まぁ、とりあえず明確な意思を持って呼べば来るから、自分が使うときは雄叫びなりポーズなり好きにするといい。言っとくが面白半分に呼んでも反応しないからな」

 割かし呆れられた。ダメなのだろうか。
 ちなみに先生の言うクリスタルドラグーン!というのは今日本皇国で大人気のロックバンド「クリスタルドラグーン」略してくりドラがライブ開始直後に叫ぶ奴である。ただ自分たちのバンド名を叫んでいるだけなのだが、世間ではむやみやたらと子供に人気だ。エデンも割かし好きである。

 と、隣のエイジが空を指差した。

「来た」

 何が?と思って空を見上げると、何がかキラリと光り、次の瞬間には文字通り目にも止まらぬ速さでドガァン!!と大地に――衝突せず、落下直前でピタリと止まった。それは流線形で、金属製で、大きさは3メートル近くある……なんというか、そう。まるで子供の書いたロケットをそのまま小型化したような物体だった。

 ロケットの胴体がバカリと開いて中から見慣れた鉄塊が取っ手から落下し、リック先生がそれを拾って引き抜くと、ロケットはまるで時間が巻き戻るように落ちてきたラインを辿って空の彼方に消えていった。

「これがBISの使い方だ。あの魔鉄製ロケットと伝票(タグ)で一対となる。基本的には軍などのプロ用システムだが、国の認可した民間BISも存在する。金はかかるがな」

 そう言うと先生は再びロケットを呼び出し、その中に魔鉄器を放り込んで元の場所に返した。
 そこからはざっくりとした質疑応答になる。

 まず、何故あれほど速いのに音が鳴らず風も起きず、しかも落下前に停止して元の場所に戻るなんて真似ができるのか。これについてはロケットそのものが魔鉄器であり、発射装置も魔鉄器という魔鉄器を複合的に組み合わせたことで静音や停止等の多機能化を可能としているらしい。

 どうして呼び出した人の元にピンポイントで到達するのかについては、伝票(タグ)がビーコンと発射スイッチを兼任しているから。ちなみにビーコンがないと宇宙に旅立って二度と帰ってこないなどの様々な事情から、兵器への転用は不可能らしい。出来たらお手軽ステルス爆弾完成だから仕方ないだろう。

 また、射出承認が面白半分では上手くいかない理由は、単なる意志の出力の問題を利用したセーフティだという。簡易化・小型化した分、強く念じないと現実を歪めるためのエネルギーが足りないんだそうだ。半面、必要だと絶対の自信があればあっさり通るので、いざというとき使えないとはならないという。
 
 ちなみにエデンも質問した。このロケット撃ち落されたらどうするんですか?と。
 返ってきた答えは、「こいつは丈夫かつ極超音速で飛行してるシロモノだ。これを撃ち落せる奴が相手なら相対した時点で既に手遅れだ」、とのこと。多分先生なら出来るんだろうなぁ、と思った。大気圏外ホームランとか決めても別に驚かないと思う。
 
「という訳で、お前らの魔鉄器もBIS登録してあるから試しに呼んでみろ。悟のには予備魔鉄器が入ってる。学園用設備での発射だから、学園を卒業するまでは使える」

 そう言って先生が各製鉄師にタグを渡していく。途中で美杏と美音を間違えて渡すフリをするという小粋なジョークを飛ばしつつ、全員がタグを手にした。という訳で、一斉にシャウト。

 「来い!双牙追(そうがつい)!」……と、武器名らしいものを叫んでみる天馬。
 「射出承認」……と、先生の言ったままでやる真面目なエイジ。
 「「ジェミニプリティ☆ふらーっしゅ!」」……と、変身少女的キメポーズを二人でする双子。
 「出でませい!」……と、とりあえず叫ぶ派に合わせてポーズをとってみるお茶目な八千夜。
 「来い」……と、ぶっきらぼうに呼ぶものぐさな悟。

 ……実に性格の出る呼び出し方であった。

 その後も課外授業は続いたが、そんなに難しい話はせず、なんだか社会見学みたいな雰囲気で続いた。どうやらこのタグも万一の際のための渡してくれたそうだが、普通に考えて学校内で襲撃される可能性はほぼないと思う。ヘタな軍の駐屯地より戦力あるし。

「先生って結構心配性だよね。なんかパパみたい」
「パパ~美杏に服買って~!」
「パパ~美音あのネックレス欲しい~!」
「自分で買え、俺にたかるな双子共!」


 ――このBISを予想より遥かに早く使うことになる事を、この頃のエデンは想像もしていなかった。
  
 

 
後書き
BISは戦闘テリトリー以外での突発的戦闘に魔鉄器を持ち込むために考案したシステムです。 
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