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遊戯王BV~摩天楼の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン4 荒波越える五星たち

 
前書き
前回のあらすじ:糸巻の向かったカードショップ「七宝」は、店主でありかつて名をはせたデュエリストである七宝寺による情報屋としての裏の顔を併せ持っていた。裏デュエルコロシアムの情報を求めた彼女はそこで彼の姪であるという少女、八卦九々乃と出会う。粗削りではあるもののその血統に恥じない才能の持ち主である若き天才を、つい血が騒いだ彼女は極めて大人げなく真正面から叩き伏せるのであった。 

 
「うし、いよいよ大仕事だぞ鳥居君」
「……えらくノリノリですね、糸巻さん」

 時刻は夜。ようやくオフィスに帰ってきた鳥居が目撃したのは、鼻歌でも歌いそうな勢いで待ち構えていた女上司の姿だった。安物のタイヤ付きチェアの上に乗ってくるくると回る三十路の上司に警戒を隠そうともせず近寄ると、糸巻が机の上に置いてあった1枚の紙を手に立ち上がる。

「まあ、近頃こんなデカい話とは縁がなかったからな。できるなら今からでもアンタと潜入担当代わってもらいたいぐらいだよ」
「俺もそうしたいんですがね。で、それはなんなんです?」
「おう、単刀直入に言うぞ。今日のコロシアム出場者一覧だ、極秘情報だから間違ってもゲロるんじゃないぞ」
「えぇ……どこで拾ってきたんですかそんなの」
「その話は後だ。それよりほら、少し情報アドをくれてやるからよく聞いとけよ」

 当然の疑問をばっさりと一蹴し、7人の名前が書かれたトーナメント表を見せる。覗き込んだ鳥居を片目に、手にしたボールペンで一番右端にあった鳥居の名前を丸で囲む。

「まず、出場者は7人。トーナメント方式だから全3回戦だな。で、これがお前だ。本来この対戦表はシードのこいつ以外ランダムにくじで決まることになってるが……まあこんな表が出てくるんだ、最初から枠の決まったイカサマの茶番だろう。ともかく、お前は1回戦から勝ち抜きで最大3回戦うことになる」
「3回戦ですか。どこもそんなもんなんですかね」
「どこも大体こんなもんだな。今回のお客さんはそれなりに名の売れた映画スターとかアイドルもいるから、主催者側も大事な金づるの次の仕事に支障が出ない範囲で終わらせたいんだろ。まあそんなことはどうだっていい、問題なのは対戦相手だ。まず最初のこいつ」

 そう言って、鳥居の隣の枠に書かれた山形仁鈴(にすず)、という名前に線を引いて消去する。

「ぶっちゃけこいつはアタシも知らん。まあ、つい昨日逃がしてやったチンピラの頭領だろうな。無名は無名どうし潰しあって、少しでもマシな奴だけ勝ち残ってこいってことだろ。だけどな、いいか鳥居。お前仮にもデュエルポリスの実技試験抜けてきたんだろ?チンピラごときに負けたら承知しないからな」





 そんな会話を思い返しながら、目の前の相手と相対する。お決まりの開会式や仕組まれたくじ引きを終えて向かい合った確かにその男は鳥居よりも背が高く、体格もいい。筋肉で膨れ上がった上腕に刻まれた、黒々とした鮫のタトゥーのせいでさらに威圧感も割り増しに見える……だが鳥居の眼はそれが実戦的でない、見せびらかすための筋肉でしかないことも見抜いていた。おまけに部下に対して威張り散らすことは日常茶飯事でもこうして観衆の前に出てくることには慣れていないのか、その巨体からは隠そうとしても隠し切れない緊張からくる怯えの色が見え隠れしている。場慣れしていないいかにもな素人だと結論付け、そのまま緊張していろとばかりに自分たちを見つめる観衆の視線に軽く手を振って応えることで自分の余裕を見せつけておいた。実際彼にとってはこの程度の緊張感、むしろ本調子を出すためのスパイス程度にしかなりえない。そう自らを鍛えてきたからだ。

「さあ、今日も命知らずたちが集まったデュエルの祭典が始まるぜ!観客の皆、お気に入りへの賭けは終わったか?今日は信頼と実績のいつもの奴らだけじゃない、なんと新人が2人も出る日だ。当たればデカい大穴デュエリスト、ご祝儀代わりに投資してやってくれよ!」

 非合法だから当然とはいえ、天井のスピーカーから流れるあまりに堂々とした賭博宣言。その言葉そのものよりもそれにより一層沸き立った会場の空気に辟易としつつも、それを顔には出さずにこやかに手を振り続ける。すでに彼の演技は始まっており、一攫千金を求め無謀にも裏の世界に首を突っ込んできた若いデュエリスト、としての自分の役柄に徹しているからだ。

「それじゃあ時間も押してきた、カウントダウンで一斉にデュエル開始だ!5、4、3、2、1!」

「「デュエル!」」

 すでにトーナメントの割り振りと共に先攻後攻の順番も決まっており、それを決める必要はない。鳥居は今回、後攻……相手の出方を窺おうとした矢先に、後ろで試合がいきなり動いた。

「俺の先攻、デス・メテオを発動。相手ライフが3000以上の時、1000ダメージを与える!挨拶代わりに病院送りにしてやるぜ!」
「ぐわああああ……あれ?なんか……温いぞ?」
「うん?」

 「BV」妨害電波は、常に彼のデュエルディスクから垂れ流されている。その有効範囲はこの会場程度なら丸々包み込めるはずだから、彼に疑いの目が向けられるとしてもまだしばらくの猶予はあるだろう。「BV」の効力が薄まり苦痛の悲鳴が上がらないということは、つまりこの会場に公権力が介入していることになる。そのことに気づいた客席がざわめく中、デュエル開始の宣言を行ったスピーカーから即座に先ほどの声が流れる。

「どうだい、今日の趣向は?観客の皆も、今のは心臓掴まれたかと思うくらいビビったろう?大丈夫、ポリ公は俺らのことなんて気づいてねえよ!今日はちょっとしたサプライズ、「BV」の出力を少し落としてみたのさ!今の顔、なかなかに見ものだったぜヒャッハー!さあてめえら、気にせずデュエルを続けやがれ!」

 なんだ心臓に悪い、ただの趣向かと浮足立っていた客席の著名人たちが安堵のため息とともに再び席に戻る。一方で鳥居も平静を装いながら、内心ではその対応の早さに舌を巻いていた。
 彼のデュエルディスクは依然として妨害電波を発信し続けている、つまり今の放送内容は何もかも真っ赤な嘘に他ならない。ただデュエルが始まったばかりのこのタイミングで実は情報が洩れて潜入者が公僕から入り込んでいたため全試合中止、ともなれば払い戻しにより生まれる損失は計り知れず、なによりも今後裏デュエルコロシアムを開く際のグループとしての信用問題にも大きく関わってくる。このまま踏み込まれて実害が出るよりも先に、彼らは「侵入者」を排除して全てを握りつぶすつもりなのだ。
 もちろん、妨害電波を出したまま入り込めば遅かれ早かれこうなることは彼自身よく承知していたし、むしろそのために苦労して入り込んだのだ。それでもこの的確な早期対応を目の当たりにして、「BV」案件の根の深さを痛感する。

「……オイ!オイ、聞いてんのかこのもやし野郎!」

 そこまで思考したところで、ようやく目の前で叫んでいる男の存在に気づいてようやく自分もデュエルの最中だということを思い出す。周りを見れば、すでに他のリングでも一時のパニックは落ち着き試合が再開されていた。ここでいつまでも固まっていては、かえって怪しまれるだろう。

『なあに、いざとなったらアタシもいる。めったなことにはならんようにするさ。だからそっちはあれだ、いらんことは任せて目一杯暴れてこい』

 そう言って笑った女上司の顔を思い出しつつ、フィールドに目をやる。セットモンスター1体に、伏せカード1枚。その見かけに反して随分と静かな滑り出しだが、だとしても彼に支障はない。

「……コホン。『本日こちらの会場にお集まりの皆々様、これより目くるめく世界へとご案内するショーの開演をお知らせいたします』」
「は、はぁ?」

 がらりと雰囲気の変わった対戦相手に不気味さを感じ、やや引け腰になる山形。しかし彼に言わせれば、観客のノリが悪いからといって思考停止でファイトスタイルをマイルドなものに切り替えるのは2流のやることでしかない。
 まずはやりきること。それでまだノリが合わないようなら、その時にアドリブでどうにかすればいい。

「『この大観衆を前に先陣切って皆様にご挨拶するのは、怪力無双の剛腕の持ち主……レフト(ペンデュラム)ゾーンにスケール1、魔界劇団-デビル・ヒールをセッティング!』」

 先日の卓上デュエルとは異なり、今回はソリッドビジョンによる視覚効果をフルに利用することができる。勢い良くカードを置いた彼の左手に光の柱が立ち、その中央では1、と書かれた数字の上に腕を組んで仁王立ちする青黒い体に太い腕を持つ巨漢の演者。

「ペンデュラム、それも【魔界劇団】か」
「『ご明察。それではここでもう1人、目くるめく世界への案内人に登場していただきましょう。ライトPゾーンにはスケール8、誰もを笑わす最高の喜術師。魔界劇団-ファンキー・コメディアン!』」

 その言葉に反応したかのように、彼の右手側にも光の柱が立ち上る。8と書かれた光の数字の上にはおどけたように4本の手を広げてみせる、黄色い体を丸々と太らせた相方に比べれば小柄な演者。これで彼のフィールドにはスケール1と8が出そろい、一気にレベル2から7のモンスターをペンデュラム召喚することが可能となった。
 だが。

「この瞬間に永続トラップ、虚無空間(ヴァニティー・スペース)を発動!このカードが存在する限り、互いにモンスターを特殊召喚することが封じられる!」
「『ああっと、これはどうしたことでしょう。これはいかなるアクシデントか、この空間のある限り当劇団の目玉、ペンデュラム召喚を執り行うことができません』」
「余裕ぶっこきやがって……」

 当然だ、と心の中で小さく呟く。デュエルモンスターズと演劇を両立させるこのスタイルを確立するまでに、あの子役時代に仲間と共にどれほどの修練を積んできたことか。たとえどんなピンチに陥ろうとも、どれほどアウェーとなろうとも、彼の芝居が揺らぎはしない。そう言い切るだけの自信が、彼にはある。

「『と、あらばこれよりお見せするのは、予定を急遽変更しまして下級モンスターによるソロ演舞と相成ります。ご登場いただきましょう、舞台駆けまわる若きショーマン。魔界劇団-サッシー・ルーキー!』」

 ジャンプからの空中縦回転を決めながら着地する、もじゃもじゃ頭にトンガリ帽子を乗せた新たなる演者。その登場にPゾーンではファンキー・コメディアンが隠し持っていたクラッカーを引き、デビル・ヒールがどこからともなく取り出したシンバルを力任せに打ち鳴らす。

 魔界劇団-サッシー・ルーキー 攻1700

「『それではバトルと相成ります。サッシー・ルーキーがセットモンスターに攻撃し、今ここにバトルの火蓋を切ろうとしております!』」

 鋭い爪を振り下ろし、セットモンスターに突撃をかける。正直なところ、ここは結果がどうなってもいい。破壊できたならばそれはそれでよし、仮に耐え切られ返り討ちにあったとしてもいわゆるひとつのオイシイ場面となる。そしてその一撃は、果たしてモンスターを切り裂いてみせた。

 魔界劇団-サッシー・ルーキー 攻1700→??? 守400(破壊)

「『さあお集りの皆さん、拍手をもって勝者の凱旋にお応えしてください!』」

 口ではそう言いつつも、目だけは鋭く光らせる。あの1瞬の攻撃の際見えた相手モンスターの独特のシルエット、あのカードには見覚えがある。もしかすると今の攻撃は悪手だったかもしれない、そんな思いが彼の脳を占める。

「そうなるよなあ、当然。特殊召喚を封じられたから、下級モンスターでとりあえず攻撃する……その通りだぜ、もやし野郎。気持ちいいぐらい俺の思い通りに動いてくれてな!俺の墓地にカードが送られたことで虚無空間は自壊するが、そんなことはもうどうでもいい。今戦闘破壊された俺のモンスターの名は、スクリーチ!こいつが戦闘破壊されたことにより、俺はデッキから水属性モンスター2体を墓地に送ることが可能となる。次の出番を待ちな、伝説のフィッシャーマン!黄泉ガエル!」
「フィッシャーマン?なるほど、そういうデッキか……なら、『なんということでしょう、手のひらの上で哀れに踊る道化、サッシー・ルーキーの打ち抜いたモンスターの名はスクリーチ!果たしてこれはこれから押し寄せる荒波の序曲なのか、はたまた凪いだ海を行く航海の船出なのか。いずれにせよ、ここはわが劇団にとっても雌伏の時。カードを1枚伏せ、ターンエンドです』」

 このとき彼の手札にはレベル7、魔界劇団-ビッグ・スターが既に存在していた。虚無空間が自壊したことで当然それをメイン2にペンデュラム召喚することも、その効果を使うことも。あるいはリンク2モンスター、ヘビーメタルフォーゼ・エレクトラムを呼び出すこともできただろう。
 だが今回、彼はそれをしなかった。その理由こそがたった今墓地に送られたモンスター、伝説のフィッシャーマンである。あのカードが採用されるとすれば、その理由は1つ。その召喚を止められるカードがない以上、手札は温存しておきたかった。

「俺のターンだ、そして最後のな。まずはこのスタンバイフェイズ、俺の場に魔法、罠カードが存在しないことで墓地の黄泉ガエルを蘇生することができる」

 黄泉ガエル 攻100

「そしてこの黄泉ガエルを、真下のリンクマーカーにセット。召喚条件はレベル1モンスター1体、リンク召喚!電脳の荒波に飲まれる豆粒、リンクリボー!」

 天使の輪を頭上に付けたカエルが、山形の前に現れた8つの印が浮かぶ円のうち真下の印へとその身を飛び込ませる。その印がオレンジ色の光を放つと、円の中から丸い体に小さな足と尾の生えたモンスターが飛び出す。

 リンクリボー 攻300

「魔法カード、蛮族の饗宴LV5を発動!俺の手札または墓地から合計2体、レベル5の戦士族モンスターを効果無効、このターンの攻撃不可にして特殊召喚することができる。来な、手札の剛鬼ライジングスコーピオ!そして墓地の伝説のフィッシャーマン!」

 対象こそ極めて限定的であるものの発動さえ成功してしまえば侮りがたき性能を持つ魔法カード、蛮族の饗宴により呼び出された2体のモンスター。出そろった3体のモンスターに身構える鳥居を、徐々に調子づいてきたらしい山形が笑い飛ばす。

 剛鬼ライジングスコーピオ 攻2300
 伝説のフィッシャーマン 攻1850

「どこのもやしかは知らねえがざまあねえな、ええ?おかげで1回戦を楽に勝ち上がれるんだ、感謝はしてやるぜ!」
「『いえいえ、勝負はまだついたわけではございません。クライマックスはまだ遠い、もう少しばかり演目の続きをお楽しみいただきましょう』」
「勝手に抜かしてな。もう俺の手札には、必殺のコンボが揃ってるんだからよ!俺のフィールドに存在する伝説のフィッシャーマンをリリースすることで、手札のこのカードは特殊召喚することができる!語り継がれし波濤の英雄、伝説のフィッシャーマン三世!」

 伝説のフィッシャーマン三世 攻2500

 2体の戦士のうち鮫にまたがり銛を持った海の男の姿が消え、一回り大きく鋭角的なシャチに乗り銛撃ち銃を片手で振り回す進化した伝説の戦士が場に現れる。すでに手札に握っていたか、と歯噛みする鳥居をよそに、腰に付けていた投網を大きく広げて海の男が放つ。

「伝説のフィッシャーマン三世が場に出た時、相手フィールドのモンスター全てを一網打尽に除外することができる。1体だけだろうが容赦はしねえ、サッシー・ルーキーを除外だ!さらに相手の除外されたカードをすべてその墓地に送り込むことで、このターン相手の受けるあらゆるダメージは1度だけ2倍になる!」

 投網に絡めとられたサッシー・ルーキーが涙目のまま勢いよく網ごと投げ飛ばされてどこかへ消えていき、デュエルディスクからもはじかれ墓地に送られる。蛮族の饗宴で特殊召喚されたライジングスコーピオはこのターン攻撃できず、除外効果を使用した伝説のフィッシャーマン三世もまた攻撃はできない。つまり今の山形が攻撃可能なモンスターはリンクリボーしか存在しない……だが、まだ彼には召喚権が残っている。

「俺は剛鬼ライジングスコーピオをリリースし、アドバンス召喚するぜ。こいつで締めだ、魔装戦士 ヴァンドラ!」

 魔装戦士 ヴァンドラ 攻2000

 サソリを模した戦士もまたフィールドから消え、竜のような被り物に金色の武具を左腕のみに装着した青い戦士が入れ替わるようにフィールドに現れる。そのモンスターは攻撃力こそライジングスコーピオを下回るものの、ダメージ2倍の状況でライフ4000を削り取るにはいまだ十分な数値であった。

「ライジングスコーピオがフィールドから墓地に送られた時、俺はデッキから別の剛鬼カード1枚を手札に加えることができる。剛鬼マンジロックをサーチし、バトルだ!やれ、ヴァンドラ!奴にダイレクトアタックしろ!」
「おーっと、Cブロックで動きがあった!ルーキー同士の対戦とはいえ山形選手、デビュー戦にしていきなりワンショットキルを成功させるのか!」

 デュエルの流れを追っていた運営が注意を促し、元プロの対戦を見ていた観客の視線が一時的とはいえ彼らに向けて一斉に注がれる。その中央で竜の戦士が、青い軌跡と共に一直線に駆けた。このままワンショットキルで勝負が付くかと思われた寸前、鳥居のフィールドで動きがあった。Pゾーンの光の柱を内部から叩き壊し、紫の巨漢がヴァンドラの行く手を遮るように立ちはだかったのだ。

「『攻撃宣言時に永続トラップ、ペンデュラム・スイッチを発動いたします。このカードは1ターンに1度モンスターとして、あるいはスケール要因としてフィールドに存在するペンデュラムカード1枚をそれとは逆の位置に移動させるカード。それでは皆様、改めまして彼の名を紹介いたしましょう。彼こそは怪力無双の剛腕の持ち主、馬鹿力ならば誰にも引けを取りません。魔界劇団-デビル・ヒールです!』」

 魔界劇団-デビル・ヒール 攻3000

 自分よりも攻撃力の高いデビル・ヒールの登場により、1瞬だけヴァンドラが動きを止める。だが山形は、その努力をすぐさま笑い飛ばした。彼にも地元のチンピラをまとめる頭としての意地があり、この程度の反撃で立ち止まる程度の実力ではそれすらも成り立たないからだ。

「モンスターを出してくる、だからなんだ!魔装戦士 ヴァンドラは、相手フィールドにモンスターが存在しても直接攻撃することができる!そんな図体だけのでくの坊飛び越えちまえ、イーサルウェポン・ハイキック!」

 言葉通りにヴァンドラが上空へ飛びあがり、両腕を広げ通せんぼするデビル・ヒールの頭上を軽々と飛び越える。しかしそのまま空中からの飛び蹴りで強襲しようとする竜の戦士に対して剛腕の演者がその太い腕を振り向きざまにかざすと、広げた手のひらから衝撃波が放たれた。

「何っ!?」
「『デビル・ヒールのモンスター効果を発動、ヒールプレッシャー!このカードが場に現れた時、自分フィールドの劇団員の数だけ相手モンスター1体の攻撃力をこのターンのみダウンいたします。私のフィールドにはデビル・ヒール1体のみのソロパート、よってヴァンドラの攻撃力は1000ポイントダウン!』」

 魔装戦士 ヴァンドラ 攻2000→1000→鳥居(直接攻撃)
 鳥居 LP4000→2000

「ぐっ……」

 攻撃力こそ半減したものの、ダメージ倍加の効力によりその威力は2000。大幅に効力が薄まっているとはいえ「BV」によりそのダメージは実体化し、武闘家の一撃を喰らったような衝撃がとっさにガードした彼の両腕を痺れさせる。

「俺の必殺コンボを耐えきったか。まあいい、ターンエンドだ」

 魔装戦士 ヴァンドラ 攻1000→2000

 ダイレクトアタッカーを持ち出してのより確実なワンショットキルを狙った山形、それを紙一重の防御で回避してのけた鳥居。誰にとってもノーマークだったであろう新人2人の思いもよらぬ攻防に、会場に小さなどよめきが起こる。そして、そんな観客の注意を掴めそうな絶好のタイミングを鳥居浄瑠は見逃さない。

「『それではお次は私のターン、場面は変わり再び我らが舞台に。ドロー、先ほどデビル・ヒールの参戦により空白となりましたレフトPゾーンにスケール2、数字を操る凄腕の新人。魔界劇団-ワイルド・ホープをセッティング!』」

 再びファンキー・コメディアンの対となる位置に光の柱が立ち、その内部には2と書かれた光の数字とおもちゃのようにカラフルな銃を手にウエスタン風の装いをしたモンスターが映る。

「『そして私のPゾーンにカードが存在することで通常魔法、デュエリスト・アドベントを発動。デッキからペンデュラムの名を持つ魔法、罠、あるいはモンスター1枚を手札へと加えます。選ばれしカードの名は、永続魔法魂のペンデュラム!このカードを発動しまして、これにて揃いしスケールは2、そして8。よってレベル3から7を、同時に召喚することが可能となりました。現れよ、栄光ある座長にして永遠の花形。ペンデュラム召喚、魔界劇団-ビッグ・スター!』」

 魔界劇団-ビッグ・スター 攻2500

 デビル・ヒールと共に並び立つ、鳥居のエースモンスター。除外経由で墓地に送られたサッシー・ルーキーを呼び戻すことはできないが、それでも彼にはこの2体のモンスターがいる。

「『この瞬間、魂のペンデュラムの効果が発動いたします。私がペンデュラム召喚を成功させるたびにこのカードへとカウンターを1つ乗せ、その数1つにつき300ポイント、私のペンデュラムモンスターたちはその力を増します』」

 魂のペンデュラム(0)→(1)
 魔界劇団-ビッグ・スター 攻2500→2800
 魔界劇団-デビル・ヒール 攻3000→3300

「『そして名優、ビッグ・スターの効果発動!1ターンに1度デッキから今宵の演目となる魔界台本を選択し、そのカードを私のフィールドにセットいたします。ビッグ・スターにデビル・ヒール、大物演者2人が織りなすその演目名は……魔界台本「魔王の降臨」!そしてセットしたこのカードをそのまま開演、いまここに恐るべき2人の魔王が舞台を支配するためにやってまいりました』」

 魔王の降臨のカードが表を向くと同時にビッグ・スターが漆黒のマントを身にまとい、デビル・ヒールがおどろおどろしい悪役メイクを全身に施された。そして魔王の暴力が、フィールド内を吹き荒れる。

「魔王の降臨は私のフィールドに攻撃表示で存在する魔界劇団1体につき1枚、場のカードを破壊。そしてこの際にレベル7以上の魔界劇団が存在するならば、魔王の暴威に屈することとなる相手はこの発動に対しチェーンを行うことができません。ビッグ・スターはレベル7、デビル・ヒールはレベル8。よって私の選ぶカードは、2枚!」
「だ……だがな、伝説のフィッシャーマン三世は戦闘で破壊されず、魔法も罠もその効果を受け付けない!いくらチェーンができなかろうと、効果そのものを受けないフィッシャーマンには無力だ!」
「『いかにも。今宵魔王が対峙するのは、荒れ狂う海を縦横無尽に行き来する伝説の漁師。海の力が彼についている以上、魔王の脅威も通用しないでしょう。よって私が破壊対象に選ぶのは、リンクリボー……そして私のフィールドより、ワイルド・ホープ!』」
「ヴァンドラを放置して……自分のカードを選ぶだと?」

 宣言通りに2枚のカードが魔王の力をもって簡単に破壊され、フィールドに再びつかの間の平穏が戻る。だが無論、それだけで終わりはしない。

「『この瞬間に私は、破壊されたワイルド・ホープの効果を発動いたします。このカードが破壊された場合、デッキより次なる演者を1体手札に加えることが可能となるのです。ここでデッキという名の舞台袖より日の当たる場面へと呼び出されるのはこのカード。魅力あふれる魔法のアイドル、魔界劇団-プリティ・ヒロイン!そしてこのヒロインには、この華の足りないフィールドに早速登板いただきましょう!』」

 魔界劇団-プリティ・ヒロイン 攻1500→1800

 コウモリ柄の魔法使い帽に、スカートから延びる2本の足をすっぽり包むハイソックス。緑色の三つ編みを揺らしつつ、いかにも魔法少女といったいでたちの新たなる劇団員がステッキ片手に呼び出される。登場早々に久々に見る大観衆を見回して目を輝かせ、ぶんぶんと大きく手を振りファンサービスに余念のないその姿に、いまだに魔王ルックをバシッと決めたままの背後の団員2人がやれやれと肩をすくめてみせた。

「『それではご挨拶はこれぐらいにして、そろそろ場面を次のステージへと移しましょう。ファンキー・コメディアンのペンデュラム効果発動!私のフィールドに存在する魔界劇団1体をリリースすることで、このターンのみその攻撃力を別の魔界劇団へと移行させます。リリースするのはビッグ・スター、そしてその力を得るのはもう1人の魔王、デビル・ヒールです!ああ、なんということでしょう。恐るべき2人の魔王の争いは、デビル・ヒールが辛くも勝利。敗者ビッグ・スターは、その力全てを吸収されてしまいました!』」

 ビッグ・スターがそのとんがり帽子を上空に放り投げ退場すると、デビル・ヒールがくるくると落ちてきたそれを器用に自らの頭で受け止める。明らかにサイズの合っていないそれをうまいことバランスを取ることで頭上に安定させ、改めて巨体を揺らしポーズを決めた。

 魔界劇団-デビル・ヒール 攻3300→5800

「『そしてこのターンもまた、ペンデュラム・スイッチの効果を発動。今度は私のライトPゾーンより、たった今ひと仕事こなしたファンキー・コメディアンに登場していただきましょう!』」

 彼の右側にあった光の柱がふっと消え、その中央に浮かんでいた肥満体の芸人が突然浮力を失ったことで4本の手をばたつかせながら真下に落ちる。丸々と太ったその体はボールか何かのように地面で1度バウンドするも、どうにか2度目の着地はその両足で決めることに成功した。

 魔界劇団-ファンキー・コメディアン 攻300→600→1500

「『ファンキー・コメディアンは舞台が賑やかになればなるほど力を発揮する根からの芸人、場に出た際に魔界劇団の数1体につき300の自己強化をターン終了時まで行います。そしてもう1つのモンスター効果を続けて発動、ハイテンション・エール!このカード自身による攻撃を封じる代わり、自らの攻撃力を他の魔界劇団1体へと分け与えることが可能となるのです。私の選ぶモンスターは当然、大魔王デビル・ヒール!』」

 いつの間にやら4本の手にそれぞれポンポンを装着していたファンキー・コメディアンが若干引き気味の視線を送るプリティ・ヒロインにお構いなくその場でノリノリの動きによるチアダンスを行い、デビル・ヒールの見せ場をさらに盛り上げる。

 魔界劇団-デビル・ヒール 攻5800→7300

「『それでは皆さんお待ちかね、一世一代の大バトルと参りましょう。背負いしすべての力を胸に、大魔王デビル・ヒールによる魔装戦士 ヴァンドラへの攻撃です!』」
「Cブロック、今度は鳥居選手が動いた!放たれたその攻撃力の差は……4700!ワンショットキルに対するワンショットキル返し、これは今年の新人はレベルが違う!さあ、今ならまだ賭けの相手は自由に変えられるぜ!」

 デビル・ヒールが力強く拳を握りしめると、その太い腕に筋肉が盛り上がる。問答無用で振りぬかれた拳が、回避する暇もなくヴァンドラに襲い掛かる。

「もやし野郎のくせにやるじゃねえか……でもなあ、手札から剛鬼マンジロックの効果発動!相手の攻撃によるダメージ計算時、このカードを捨てることで俺の受けるダメージを半分にする!」

 ヴァンドラをかばうようにして1瞬、デビル・ヒールの拳の前にタコのような被り物をした怪しい人影が見えた気がした。しかし止まらない魔王の一撃は、そんなことお構いなしに2体まとめて打ち砕く。

 魔界劇団-デビル・ヒール 攻7300→魔装戦士 ヴァンドラ 攻2000(破壊)
 山形 LP4000→1350

「うおおおお……!ど、どうだ!耐え切ってやったぜ!」
「『いえいえ、すでに幕は降りようとしております。ご来場の皆様方、どうかフィナーレまで目を離さずにお楽しみくださいませ』」
「なんだと?」
「『プリティ・ヒロインのモンスター効果を発動、メルヘンチック・ラブコール!どちらかのプレイヤーが戦闘ダメージを受けたその時、甘美なる彼女の魔法がフィールドへと降り注ぎます。すなわち相手モンスター1体を対象に取り、そのダメージの数値だけ攻撃力をダウンさせる魔法が!私が選択するのは当然、荒波越えし偉大な漁師!伝説のフィッシャーマン三世です!』」

 伝説のフィッシャーマン三世は強固な耐性を持つが、破壊以外の作用をもたらすモンスター効果に対しては無力。プリティ・ヒロインがステッキを向けるとその先端から星型のカラフルな魔法弾が連射され、それをまともに受けた漁師とシャチが力を失いぐったりとなった。

 伝説のフィッシャーマン三世 攻2500→0

「フィッシャーマン!」
「『それでは宣言通り、これにて幕引きといたしましょう。プリティ・ヒロインのラストキッスにより、ジ・エンドです!』」

 何が勝者と敗者を分けたのか、と問われれば、攻撃できるわけでもない伝説のフィッシャーマン三世をわざわざ攻撃表示で呼び出したことが勝負の分かれ目だったのだろう。そもそも先のターンでほぼ確実にワンショットキルが成立していた状況や貫通能力を持つモンスターへの警戒、さらに油断なく手札に加えていたマンジロックの存在を踏まえると、一概に致命的なミスであったと言い切ることもかわいそうなほどにほんのわずかな差。しかしその差が積もり積もった結果、勝敗へとダイレクトに結びつく。

 魔界劇団-プリティ・ヒロイン 攻1800→伝説のフィッシャーマン三世 攻0
 山形 LP1350→0





「決まったぁーっ!Cブロック勝者は新進気鋭の大新人、鳥居浄瑠!これは今夜の大会、思わぬダークホースとなりうるのかあ!?」

 勝敗を見届けたスピーカーから、熱の冷めぬうちにと景気のいい言葉がぽんぽんと飛び出して観客を沸きたてる。声援と熱気を一身に受け、鳥居は消えゆくソリッドビジョンと共にその場で一礼してみせた。
 優勝まで、あと2戦。 
 

 
後書き
エンタメデュエル方式は普通にデュエル作るのの倍近く脳細胞を酷使する感がある。
もう往復1ターンぐらいは使いたかったけど早くも力尽きそうだったので早期決着に切り替え。 
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