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『魔術? そんなことより筋肉だ!』

作者:蜜柑ブタ
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SS16 アーチャーの不運

 
前書き
アーチャー、……泣く。 

 

 アーチャーは、部屋の隅で、丸まっていた。
 キノコ生えそうなほど、暗くなっていて、とてもじゃないが……声をかけられ…。
「ほら、いつまでも現実逃避してても無意味よ。士郎に、あんたの令呪があるんだから、令呪を使い切るか、士郎が死ぬかでもしないと座に帰れないわよ?」
 いや、いた。少し前までアーチャーのマスターだった、凛だ。
「それにしても面白いわね。時空がちょっと違えば、こういう未来もあり得たのね。」
「俺は考えたくなかったぞ。」
「どうするの? このままじゃ、自殺しかねないわよ?」
「よし、じゃあ、令呪で…。」
「それだけはあああああああああああああああああああああ!!」
 アーチャーが転がってきて、そのまま綺麗に土下座して号泣した。
「なあ、アーチャー……、そんなに鍛えるのがイヤか?」
「勘弁してください、勘弁してください勘弁してください…。こんなマッスルな魔力をこのまま吸ってたら、俺…壊れちゃうぅぅ…。」
「こりゃ、重傷ね…。」
 ガクガクガタガタと震えて、祈るように両手を組んで泣きまくり、更に声まで裏返るアーチャーに、凛が同情を隠せなかった。
「あの…先輩。」
「なんだ、桜?」
「提案なんですが…、アーチャーとセイバーをもう一度交換しませんか? なんか、アーチャーが可哀想で…。」
「うーん…。」
「ぜひ、ぜひ、ぜひぜひぜひぜひぜひぜひぜひ! そうしてくれぇぇぇぇぇぇ!!」
「いやよ。」
「なぜ!?」
「前のマスターを裏切るようなやつを誰が…。」
「謝ります。なんでもします。だからお願いします凛様!!」
「あんたプライドもへったくれもないわね。そこまでイヤなの? で、セイバー的にはどうなの? もしかして今の状態に異論ある?」
「そうですね…。強いて言うなら、ちょっと魔力が物足りなく感じて…。」
「これが普通なの。士郎の方に慣れちゃダメよ。」
「私としては、マッス…。」
「それだけはダメェェェェエエエエエエエ!!」
 マッスルなセイバーなど見たくないと凛が叫んだ。
 凛が自分を拒絶していて、そして己の早計に、アーチャーは、ますます涙を増して泣いた。
「おバカですね。」
「本当ですよ。先輩の未来なら、先輩より強くないといけません。」
 ライダーが呆れ、桜がプンッと怒った。
 自分に味方はいないのか…っと、アーチャーは絶望した。
 その時。

「おらぁ! 坊主、勝負だぁ!!」

「! ランサーぁぁぁぁぁあああああ!!」
「うお!? どうした弓兵!?」
「頼む! 衛宮士郎を殺してくれぇぇえええ!! もしくは、俺を殺してくれえええええ!!」
「ど、どうしたよ…?」
「実は…。」
 セイバーが説明した。
「あー…、そりゃおめぇ…運がなかったなぁ? ダハハハハハ!」
「笑うな!!」
「しっかし、キャスターの奴も、おまえの技で爆発に巻き込まれてお陀仏するなんてな。アイツも運ねぇな。」

 実は、キャスター、凛を始末しようとしてあの戦場に入り込んで、アーチャーが最後に放った百数本の贋作武器によるブロークン・ファンタズムに巻き込まれて死んでいた。
 しかも爆散して……。
 ハッキリ言ってお見せできない有様だったらしいが、そのおかげで、凛は、セイバーとアーチャーの令呪を取り返すことができたのである。
 なお、葛木は、キャスターの死を確認すると、自ら命を絶ったのだった……。

「で? 坊主は、この弓兵野郎を手に入れてどうすんだ?」
「鍛え直す。」
「おおっと…。そりゃ大変だ。がんばれよ。」
「見捨てないでぇぇぇぇぇえええええ!!」
「こら、泣きつくな!」
 ランサーの足にしがみついて必死に泣きついて、懇願するアーチャーだった。
「よーし、アーチャー。今から筋トレすっぞ。」
「い…いいいいやだああああああああああああああああ!!」
「ほれ、仮にも英霊なんだかよぉ。泣き言言うなって。ほら、離せって。」
「何ならランサーも…。」
「丁重に断る。」
「なら…、おまえも道連れだ!!」
「あっ、てめ、俺まで巻き込む気か!?」
「仕方ないな…。よし二人まとめて鍛えてやる。ほら、行くぞ。」
「てめぇえええ! 弓兵野郎!!」
「ハハハハハハハハハハ! ざまぁ!」
 ランサーとアーチャーが士郎に捕まり、引きずられて行った。

 その後、ご飯の支度をする時間になって、士郎が引きずって持って帰ってきた二人のサーヴァントは、ボロボロにやつれ、気絶していた。





***





 士郎と桜で、ご飯の支度をしていた時だった。
 家のチャイムが鳴った。
「はーい。」
「お兄ちゃーーーん!」
「イリヤ!」
「セイバーを取られたって本当!?」
「えっ、ああ…その話か…。」
「私が取り返してこようか?」
「私が…、なんですか?」
「あれ、セイバーいるじゃん!」
「今は私のサーヴァントよ。」
「リン! 私のって…、じゃあお兄ちゃんから取ったの!?」
「違うわよ。交換したのよ。アーチャーとね。」
「アーチャーと?」
「ああ。ちょっと色々とあってな。」
 そして、イリヤを家に上げ、事情を説明した。
「ふーん。そこにいるアーチャーが、お兄ちゃんの未来の姿なの? 全然違うじゃん。」
「うっ…。」
 ランサーと共に、ぐったり畳の上に倒れているアーチャーに、イリヤの言葉がグサリと刺さる。
「でも言われてみれば…、顔の骨格はお兄ちゃんに似てるかもね。髪の毛下ろしたせいかもしれないけど。目つき悪かったから全然気づかなかった。」
「私だって、この世界線の士郎と同一人物だったら、当たりだって思えたんだけどね。」
「うぐっ!」
 凛の言葉がさらに追い打ちをかける。
「アーチャー殿…、泣いていいと思います…。」
 背の高い身体を丸めてシクシクっと泣いているアーチャーに、セイバーが哀れむように言った。
「それより、良い匂いがするね! 私も食べたーい!」
「分かった分かった。イリヤの分も作るから待ってろ。」
「わーい!」
「はー…。」
「桜…。気を遣わなくて良いのですよ?」
「だいじょうぶよ、ライダー。」
「あっ…。」
 士郎は、ハッとした。
 慎二を殺した敵が目の前にいるのになぜ気づかなかったのだと。
「どっち道…、アイツ(慎二)は、いつか誰かに殺されていたでしょうね。」
 凛が冷たく言った。
「遠坂…。」
「引きずりすぎても、後に響くだけよ。でも…忘れることの方がもっと辛いでしょうね。」
「姉さん…。」
「いい? 桜。忘れちゃダメよ。でも、引きずリ過ぎないようにね。」
「……うん。」
 桜は、コクリッと頷いた。

 その後、夕飯となったが。
 その頃には回復したランサーと、アーチャーが士郎特製・筋肉増強食(?)を前に、再び気絶しかけるのはまた別の話である。

 
 

 
後書き
これ書いたときに、ハーメルンでの感想からの指摘で、サーヴァントが座からのコピーにすぎないということを知った。 
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