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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第6章:束の間の期間
  第195話「合間の出来事・後」

 
前書き
前回の続き。
葬儀の騒ぎの収拾と、後おまけ的な事を。
 

 







       =out side=







 彼女の接近に気付いていなかった者は、ほとんどが言葉を失った。
 何せ、伝説と言われる三人の一人なのだから。

「ほ、本局統幕議長がなぜここに……?」

「あら?一つの事件で大勢の局員が殉職されたのよ?彼らを悼むために来ても何もおかしくはないでしょう?」

 そもそも、葬儀の際に名前も挙がっていた。
 来ている事自体は余程話を聞いていなかった者以外は絶対に知っていた。
 尤も、小太りの男が聞きたいのはそういう事ではなかったが。

「あっ、こ、これは……!」

 ふと、男は今の状況を再認識して、どうにか取り繕おうとする。
 しかし、遅い。あまりに遅い。

「取り繕おうと無駄です。一部始終見た、と言いました」

「ッ……!」

 さすがに本局統幕議長が相手では、男は何も言えなかった。

「自分に出来る事を精一杯成し遂げ、死力を尽くした者を認めないどころか、このような場で侮辱するとは、恥を知りなさい」

「ぅ……ぁ……」

 男の顔は真っ青になっていた。
 自分が口にしたことで、自分の首を絞めているからだ。

「貴方達も、このような場で騒ぎ立てるのはダメよ。例え思う事があってもね」

「……分かりました」

 ミゼットはそのまま優輝達に向けて、宥めの言葉を掛けた。
 実際言った通りでもあるため、素直に優輝は返事した。

「……管理外世界だからと、下に見る事なんて出来ませんよ。管理外世界は、魔法文化がない、と言う訳ではありません。今回のように、途轍もない存在が眠っている。あるいは存在した世界もあるのですから」

 丁寧な物腰で、諭すようにミゼットは言う。
 それは、男だけでなく、周りにいる者にも聞かせているようだった。

「特に、今回のような事例は一歩間違えればさらに多くの死人が出ていました。……殉職された者達の頑張りがあったからこそ、これだけで済んでいるのです」

 ミゼットは既に幽世の大門に関しての報告に目を通していた。
 そのため、大門の守護者がどれほど危険だったかも理解しており、また守護者に対するティーダの奮闘についても知っていた。

「彼らのような未来ある者達を失ったのは管理局として痛いですが……同時に、大いなる脅威に立ち向かった勇気は称えられるものです。……本局統幕議長として宣言しておきましょう。彼らの働きは、偉大なものであったと」

 宣言した。
 伝説と謳われる者の一人が、ティーダを含めた殉職者達は立派だったと。
 心無い言葉に傷つけられたティアナにもしっかり聞こえるように、彼女は宣言した。

「……異論があるのなら、後で私の所に来なさい。この事は“他の二人”も認めています。その上で異論を言うのならいいでしょう」

 “他の二人”。それはミゼット含めた伝説の三提督の残り二人の事だ。
 法務顧問相談役レオーネ・フィルス、武装隊栄誉元帥ラルゴ・キール。
 名前を挙げずとも、ほぼ全ての者がその二人の事だと理解していた。
 そして、異論を言うという事は、ミゼット含めた三人と対立を意味する。
 ……伝説と呼ばれた三人と敵対する程、男に度胸などない。

「……ぅ……ぁ……」

「……そもそも、遺族のいる場で、亡くなった方を侮辱するなど、管理局員以前に人としての品位が問われます。……覚悟、しておいてくださいね?」

 怒りやそう言った感情を見せる事なく微笑むミゼット。
 だが、その言葉を言われた当の本人は、まるで死刑宣告を受けたかのように、絶望を宿した顔を蒼白させていた。

「では、私はこれで失礼します」

 ミゼットはそのまま、丁寧な態度を崩さず、この場を後にした。
 残ったのは、絶望して体を震わせる男と、呆然とする者だけだった。

「……上手く収めて行ってくれたわね」

「そうだね。……正直、あたし達じゃ強引な手でしか黙らせなかったかも」

 優輝達はその間に移動し、そこで先ほどの事について述べた。
 なお、葵の言う強引な手とは、殺気などを使った手法だったりする。

「私も動こうとしたから人の事言えないけど、だいぶ首を突っ込むようになったわね、葵。優輝の影響かしら?」

「かもねー。でも、あれは誰だって反応するよ」

 軽口を交わしながら、ティアナの家へと向かう。
 尤も、徒歩では遠い場所での葬儀だったため、交通機関が必要だが。

「……さっきからティアナが無言だが……」

「えっ、あ、すみません……」

 小太りの男の発言以来、無言になっていたティアナ。
 ずっと何かを考えていたようで、優輝の言葉でようやく発言した。

「……やっぱり、あいつに言われた事が辛い?」

「あ、えっと……」

 葵の言う“あいつ”とは、もちろん小太りのの男の事だ。
 ミゼットが場を収めたとはいえ、確かにティーダの事を悪く言われた。
 その事で深く傷ついているのではないかと、葵は思ったのだ。

「……確かに、兄の事を悪く言われたのは辛いです。兄は、死ぬ思いをしてまで戦ったのに、あんな言い方をされるなんて……」

 ただでさえ家族として大好きで、両親がいない今では唯一の家族なのだ。
 そんな兄を悪く言われれば、ショックなのは当然だ。

「……でも、それ以上にさっきのあの人が言った事に、ホッとしたんです」

「さっきの人って言うと……」

「本局統幕議長ミゼット・クローベル提督だな。管理局員であれば、知らない人はいないと言えるほどの有名人だ」

 椿も葵も管理局の内情にはそこまで詳しくない。
 そのために優輝がついでに解説するように補足する。

「……悪く言われて悔しく思ったのは変わりません。でも、兄が頑張った事をしっかり認めてもらえて……兄の死は、決して無駄じゃなかったんだって……!」

「ティアナ……」

 ショックだったのは間違いない。
 だが、直後に救われたのも間違いないのだ。
 自分の兄は最期まで……いや、死んでも誰かのためになったのだと。
 ティアナは兄を誇りに思って、その死と向き合えるようになった。

「付き添い、ありがとうございました。……これから、どうなっていくかは分かりませんけど、きっと、兄のように誇りに思える人になってみせます……!」

 家に着き、ここで優輝達の付き添いとしての役目は終わる。
 別れる際、ティアナは改まって優輝達に向き直り、力強く宣言した。

「……うん、その意気だよ!」

「辛くなったら、周りを頼るのよ」

 その意志が伝わったのか、椿と葵が激励を送る。
 優輝もまた、一歩近寄り、言葉を掛ける。

「“ランスターの弾丸に貫けないものなんてない”。……君の兄が遺した言葉だ。その事も忘れず、これからも頑張ってくれ」

「……はいっ!」

 その会話を最後に、優輝達とティアナは別れる。
 その時のティアナの表情に、悲しみはなかった。















『葬儀って聞いてたが、なるほど、そういや“原作”にもあったな』

「『そうなのか?』」

 地球に帰還し、一応の報告をしていた優輝達。
 分担してそれぞれに連絡する中、優輝は帝と念話をしていた。

『ああ。そういや、お前は知ってても詳しくはなかったな。俺も忘れてきてるが……確か、“原作”だとティアナはそいつの言葉で傷ついて、コンプレックスになってた』

「『だけど、そうならなかった』」

『元々死ぬ時期もずれていたっぽいし、他の局員と一緒の葬儀でもあったからな。それに、実際とんでもない布石を残したのは偉業とも言えるしな』

 “原作”とは違う部分を、適当な推察を交えながら話す。

『……しかし、このままだとstsの時期にどうなるか……』

「『既にかなり乖離している。参考にすらならんぞ』」

『だよなぁ……いや、それは分かってるんだがな……』

 歯切れが悪い帝。優輝としては今の帝は“原作”に執着していないと分かっており、だからこそここまで気にしている事が気になった。

「『何か気になる事が?』」

『……俺達の行動の影響や、実際の状況が違うとかで“原作”とかけ離れているのは分かってる。でも、その中で俺達の影響を受けていなくて、尚且つ“原作”とそう違いがない展開があった場合に……な』

「『乖離した分、その展開で犠牲になる人が見逃せないのか?』」

 帝が上手く言葉にしようと絞り出すように言う。
 その言葉だけで優輝は何となく理解し、尋ねる。

『……よくわかったな。まぁ、その通りだ。詳しい時期は忘れてしまったが、フェイトに保護されるはずの二人がいて、その二人がどうなってるか気になってな』

「『“原作”とは異なった道筋を歩んでいるから、フェイトがその二人を保護していない、もしくは保護しないかもしれないって事か』」

『そういう事だ』

 保護される二人……それはsts編でのレギュラーメンバーであるエリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエの事だ。
 地球から遠く離れた場所での出来事なため、展開に大した影響もない。
 そのために、フェイトの行動の変化でどうなったのかもわからなかった。

「『直接聞く……のは不自然だな。……はやて辺りが知ってたらいいんだが』」

『確か、はやてには転生とかについて話していたな。それと、“原作”についてはともかく、転生自体はアリシア達も知ってたな』

「『はやてが知っていたら楽だが、知らなかった場合はアリシアに事情を話して聞く方がいいかもな。フェイトの姉だし、何かしら聞いているだろう』」

 家族であれば、食事時などで自然と話しているかもしれない。
 そう考え、いざと言う時はアリシアにも“原作”の事を話すべきだと優輝は言った。

『……そうだな。じゃ、まずははやてから聞いておくわ。アリシアの方もその時は俺から話す。俺が気にした事だからな』

「『わかった』」

 そう言って、帝は通信を切った。
 今の優輝からすれば、そこまで気にする必要はない。
 そのため、帝は優輝の耳に入れておく程度に終わらせ、自分で調べる事にした。

「……念話は終わった?」

「ああ」

 念話が終わったのを見計らい、先に報告を終わらせていた椿が話しかける。

「……それにしても、まだ目覚めないわね……」

「やっぱり、あんな状態で現れたんだし、呪いみたいなの掛かってるんじゃないかな?」

 ちらりと椿が客室の方に視線を向ける。
 そこには未だに神の二人が眠っている。
 葬儀から帰ってきても、何も変わらずに眠り続けているのだ。

「でも、調べる事すらできない」

「そこが問題ね。干渉出来ないのは、本当に面倒ね」

 存在の“格”。その問題が非常に深刻だった。
 これさえなければ、一歩どころか何歩も進展させる事が出来る程に。

「……リヒト」

「却下よ」

〈却下です〉

 一考してからリヒトの名を呼ぶ優輝。
 それだけで椿とリヒトが即座に却下した。

「まだ何も言っていないんだが」

「大方、以前の時と同じ事をしようと言うんでしょ?」

「……宝具、だっけ?あたしも反対かな」

 葵も言っていなかっただけで、椿とリヒトに同意見だった。

「だけど、これ以外に進展する手立てはないぞ?」

「……それは……」

 宝具による“格”の一時的な底上げ。
 それを優輝は行おうとしている。……反動が凄まじいにも関わらず。
 しかし、実際にこの方法しか状況を変える手はない。

「ほんの少しの時間でも反動がきついから、反対するのは理解出来る。……でも、方法がこれしかないのならするしかないだろう?」

「ッ……そう、だけど……!」

 それでも、無茶をしてほしくない。
 それが椿達の想いだった。

「司ちゃんは……っ、いや、今のなし」

「葵?」

 葵が司の名前を挙げ、咄嗟にそれを取り下げようとする。
 だが、既に二人の耳には入っていた。

「……我ながら、最低な事考えた、あたし……。“だったら司ちゃんが代わりにチャレンジすれば”……なんて……!」

「ッ……!……いえ、自分で言った事に嫌悪感があるなら、何も言わないわ」

 別の人を犠牲にすればいい。……そんな考えを持った事に嫌悪感を示す葵。
 椿は葵の発言に憤りを見せたが、すぐに葵も嫌悪感があると分かり、抑える。

「……いや、この際司に試してもらうのも手だ」

「優輝!?」

 しかし、優輝はその考えを肯定した。
 その言葉に、椿は驚愕と共に叱責の念を込めて名前を呼ぶ。

「何も僕の代わりに……と言う訳じゃない。今の所、理論上司にも僕と同じことが可能と言うだけで、実際に出来るのかはわかっていない」

「っ、確かめるために……と言う事?」

 そして、続けられた言葉に、少し納得する。

「ジュエルシードが必要になるかもしれないが、確かめておくに越したことはない」

「もし、あの時の男と同じ存在が襲って来た時を考えて……ね」

「そういう事だ」

 少しでも確実な戦力が整えられるように……。
 そう考えての、優輝の発言だった。

「……まぁ、実際その時になって出来なかったなんて事になるよりはマシね。でも、試すのを判断するのは司の意見が最優先よ」

「分かっている」

「……尤も、優輝の提案なら、あの子は喜んで試すだろうけど」

 そもそも“実際に出来るか試す”だけなため、面倒臭がりな性格でもない限り試してみるのが普通で、断る理由がない。









「……さて、早速聞いてみるか」

 一方、帝は念話が終わって早速行動を起こしていた。

「『はやて、今いいか?』」

『なんや?藪から棒に』

「『以前話した“原作”に関して、ちょっと気になる事があってな。そこまで重要……かは知らんが、知ってたらと思ってな』」

 はやてに念話し、先程優輝と話していた事について尋ねる。

『気になる事?』

「『既に、この世界は俺達の言う“原作”からかけ離れているのは分かるな?でも、その中でも“原作”に近い展開もある。例えば、地球やミッドチルダに関係ない次元世界での出来事とか』」

『……バタフライ効果って奴やな?』

 ほんの僅かな差異でも大きな変化を齎すかもしれない。
 “原作”と違う事での変化で気になる事があるのだと、はやては理解した。

「『ああ。……本来、この“原作”には描写されない空白期間において、フェイトは二人の子供を保護するんだ。どちらも、フェイトに保護されたからこそ、変に利用されずに済んだ……と、俺は記憶している。でも、ここだとどうなってるか分からないんだ』」

『下手に知ってしもうてるから、気になるっちゅう事やな。その気持ちは分かるで。……でも、悪いんやけど聞いてないなぁ……。管理局員としては、保護するのも仕事の内やし、そんな話す内容でもないと思ったんちゃうかな?』

「『そうか……』」

 はやては知らないとなり、少し落胆する帝。

「『やはり、アリシアに尋ねてみるか……』」

『アリシアちゃんも“原作”とか知ってるんか?』

「『いや。けど、転生については知っている。どうせ散々常識外な事が起きてるんだ。神様転生ぐらいなら受け入れてくれるさ』」

 既に別世界からの転生については知っているのだ。
 この世界に似た“物語”がその世界にあっても、“そういう事もあるだろう”と言った感覚で受け入れてくれるだろうと帝は思っていた。

「『時間取って悪かったな。元々これは俺が個人的に気にしている事だから、後は俺の方でやっておく。じゃあな』」

『了解や。まぁ、いざという時は頼ってもええで』

「『考えておく』」

 冗談めかしたはやての発言に苦笑いしつつ、帝は念話を切る。

「さて……となるとアリシアに頼らざるを得ないが……念話は意味ないしな」

〈さては失念していましたね?〉

 帝は霊術を習得しておらず、アリシアは魔力が極端に少ない。
 そのために念話も伝心も出来ないという今更過ぎる事実に、エアが突っ込む。

「そそそ、そんな訳ねぇだろ!?」

〈動揺が丸わかりです。マスターも霊術を習得しては?〉

 動揺する帝に、エアは冷静にアドバイスをする。

「……実戦に使わずとも、伝心ぐらいは出来た方がいいよな」

〈はい〉

 今までは両方を一遍に鍛えるというのは効率が悪いと言う事から、霊術よりもポテンシャルの高い魔法のみを鍛えてきた帝。
 だが、戦闘に使えなくともこういう場面で必要になるのだと実感した。

「転生者だし、人並み以上には霊力があったよな?」

〈そうですね。特典で英霊の力を持っている分、さらに質も高いようです〉

「エミヤの方はともかく、もう片方はギルガメッシュだしな……。ガワが俺だとしても、質に影響は出るのか……」

 特典なため、魔法やレアスキルとして使っている帝の能力だが、英霊の力と言うのはどちらかと言えば霊力に似ている。
 そのために、霊力にも影響が出ているのだ。

「……って、そうじゃなくて、とりあえずアリシアに連絡を……」

〈それならご安心を。私のデバイスネットワークより、フォーチュンドロップに繋げました。元々通信端末としても使えるので、電波さえ届けば通信出来ます〉

「いつの間に!?多彩なのは分かってたが、デバイスネットワークってなんだよ!?」

 会話中にエアが色々仕込んでいたため、帝が思わず突っ込む。

〈デバイスネットワークとは、霊力仕様のデバイスも含めたデバイス間でのネットワークです。まぁ、文字通りですね。ちなみに、今の所霊術の特訓で集まったメンバーのデバイスとしかネットワークは築けていません〉

「思ったより狭いな、そのネットワーク」

〈所詮は独自のネットワークですから〉

 ともかくとして、これでアリシアと通信が出来る。
 そう帝は考え、早速通信を繋ぐ。

『わ、いきなりフォーチュンドロップに通信が入ったと思ったら……帝?』

「デバイス間での通信ネットワークだとよ。それより、今時間とれるか?」

 突然の通信に驚くアリシア。
 ちなみにだが、さすがに念話や伝心と違い、頭の中だけで会話は出来ない。

『時間?何かあったの?』

「いや、聞きたい事と……後、出来るだけ秘密にしておいた方がいいって前提で、説明する事もあってな」

『聞きたい事はともかく……後者の方は一体……』

 凄く思わせぶりな言い方に、アリシアはむしろ警戒する。

「はやてと土御門の、えっと……鈴さんも一応知っているんだが、まぁ、俺達の転生前に関係する話だ」

『転生前……また重要そうな……』

「そこまで重要にはならんから安心してくれ。でも、聞きたい事には関係するから、話しておかないとダメだったからな」

 そう言って、帝は転生前の世界には、この世界に起きた事件に似た物語があった事をアリシアにかいつまんで話した。
 ただ、アニメとして存在していた事と、実際にこっちの世界で起きている事とはかなり違いがある事だけを大まかに話し、アリシアや一部の人は死んでいる事は省いていた。





『……つまり、帝が以前不可解な行動をしていたのって……』

「……出来れば、忘れてほしい。まぁ、架空だと思っていたキャラが現実として目の前にいるようなものだからな……」

 アニメとして存在していた。
 その事実を理解したアリシアは、むしろ以前の帝の行動に納得がいった。
 尤も、納得がいっただけで理解には程遠いが。

『でも、私達はアニメのキャラじゃないよ?』

「ま、そこが結局の所現実と架空との違いだな。まぁ、この際前の世界にアニメとして存在してた、なんて話はそこまで気にするな。俺達も気にしていないからな」

『本題の聞きたい事には関係するんだよね?』

「ああ。……つっても、飽くまでアニメと同じならって場合だが―――」

 そのまま、帝ははやてにも言ったような事を尋ねる。



『フェイトが保護……あ、それなら一つだけ聞いた事があるよ。確か、フェイトに似た境遇だったから印象に残って、私達にも話してたよ』

「本当か!?名前とかは聞いているか?」

『えっと……確か……エ、エリ~……なんだっけ?』

 さすがに一度聞いただけなので、はっきり覚えていないアリシア。
 だが、そこまで言えば、帝の方は何となく察する事が出来た。

「……エリオ・モンディアルじゃないか?」

『あー、確か、そんな感じだった気がするよ。って、名前が出るって事は……』

「まぁ、まず間違いないだろうな。とりあえず、そっちは大丈夫か……」

 二人の内、片方は無事に保護されていたと安心する帝。

「でも、もう一人は……」

『うーん……聞いてないなぁ……』

「そうか……」

 しかし、キャロの方は聞いていないと言われ、落胆する。

〈……マスター。その件についてですが、キャロ・ル・ルシエがフェイト様に保護されるのは、今から三年後辺りになります。ちなみに、追放自体は約二年後です〉

「って、まだ未来の話かよ!?」

『ちょっ、帝……。拍子抜けだよー……』

 そこへ、エアによる情報で、まだ未来の事だと知り、力が抜ける。

〈もしかしたら時期が早まっている可能性もありますが……〉

「そんな事言ったら常に不安になる。……まぁ、本来ならまだ未来なんだ。それが分かっただけでも御の字だ」

『えっと、つまり大丈夫って事だよね?』

「ああ。悪いな。こんな時期にいらない事聞いて」

 何とか一件落着し、帝はアリシアに手間を取らせた事を謝る。

『まぁ、これぐらいならお安い御用だよ。でも、どうしてそんなに気になるの?』

「……これは、大まかな道筋を知っているからこその、俺のエゴに過ぎない。……でもさ、何もしなければ救われない。もしくは何かしたから救われなくなった。なんて人がいると分かっていると、どうにかしたいんだ」

『帝……』

 それはエリオやキャロだけでなく、アリシアやリインフォースにも言えた事だった。
 アニメとしての未来を知っていたからこそ、何とかしたかった。
 帝のような転生者なら持っているエゴであり、理想だった。

「自分が何かしら行動していたら何とか出来たのに……って後悔するかもしれないって考えるとな。……ま、要は俺の自己満足だ」

『……私も、アニメとかは見るから、何となくわかるかな。少なくとも、悪い事じゃないとは思うよ。まぁ、だからと言って以前のあの言い寄ってくる態度はどうかと思うけど』

 物語で報われない人を見ると、その人物が救われて欲しいと思う。
 それは何もおかしい事ではないと、アリシアは言う。

「だから掘り返さないでほしいんだが!?」

『あははっ!まぁ、帝がしたいようにすればいいよ。もちろん、悪くない範囲でね!』

「ったく……ま、そうさせてもらうわ。じゃあな」

 軽口を挟み、通信は終わる。

「あー、これで懸念事項が一つ消えた……良かった良かった……」

〈現状には変化がありませんけどね〉

「目の前の事に集中できるようになったんだ。プラスではあるぞ」

 傍にあったソファーにもたれこみ、帝は安心する。
 大きな問題は残っているものの、少しでも悩みが消えたのは前進だ。

〈ちなみに、私のデータにある“原作”の記録によると、約二年後に機動六課設立のきっかけにもなるミッドチルダの臨海空港での火災が起きます〉

「…………」

 しかし、続けられたエアの言葉に、帝は固まる。

〈……マスター?〉

「……そ、それもあったぁあああああああああ!?」

 “原作”の知識を持つが故の悩みは、まだ尽きないのであった。



















 
 

 
後書き
エアは一応原作全ての知識がデータに入っています。
ちなみに、後半の帝視点は完全におまけです。
飽くまで“合間の出来事”なので、話の流れにはあまり関わらないような内容にしました。

なお、空港火災はレリック関連で、さらにジェイルが原作とは違う形で裏で動いているために、バタフライ効果で起きないようになっています。
もしかするとキャロも管理局より先にジェイルが保護する可能性も……? 
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