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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第1部
ロマリア~シャンパーニの塔
  ロマリアにて

 旅の扉を通り、見知らぬ土地に放り出されて路頭に迷いそうになった私たちは、ナギのおかげもあり、なんとかロマリアの町にたどり着くことが出来た。
ユウリはナギに負ぶわれている間ものすごく具合が悪そうだったし、眠そうだったシーラも、私に手を引っ張られなんとか歩かされている状態だったが、幸いにも大きなアクシデントに見舞われることはなかった。
 それから宵闇の町の中を何十分歩いただろうか。初めて宿屋を見つけたときは、夜明け前にもかかわらず、ナギと二人で歓声を上げずにはいられなかった 。
 宿を取って二人をそれぞれ別の部屋に寝かせたあと、疲労困憊だった私はそのままベッドに突っ伏す。もう朝日が昇る時間帯ではあったが、泥のように眠り込んだ。
 やがて、太陽が真上に差し掛かろうとしたとき、ようやく私は重いまぶたを開けた。
「……………………?」
 熟睡してたせいか、寝る前の出来事をほとんど覚えていない。ぼんやりした頭を二、三度振って、ようやく今の状況を把握した。
 私はのろのろと支度をし、いまだに寝ているシーラを起こした。さんざん身体を揺らしても全く起きてくれなかったが、急に跳ね起きて叫んだ。
「そのテキーラあたしのなんだからねっっ!!」
 がばっと布団をはねのけて、朝一番に放った言葉がこれだった。いったいどんな夢を見てたんだろう。
「お、おはよう、シーラ。私これから下に下りて朝食食べるんだけど、シーラはどうする?」
「ん~……。さきにお風呂入りたい……」
 目を擦りながら、さっきとは打って変わって低いテンションで答えるシーラ。
 そういえば私も昨日そのまま寝ちゃったんだよな……。ま、ご飯食べてからでもいっか。
 私は寝ぼけ眼のシーラとともに部屋を出た。すると、ちょうど隣の部屋の扉が開いて、中から人が出てきた。
「あ、ユウリ!! もう起きて大丈夫なの!?」
「…………」
 寝起きが悪いのか、ものすごく不機嫌な顔で私をにらみつけてくる。昨日の弱々しい姿とは180度違う。でも、こんなことでひるむわけには行かない。
「ゆ、ユウリも朝食食べに行くの? だったら一緒に行かない?」
 断られるだろうとは思いつつ、私はあえて聞いてみた。
「…………」
 やっぱり無言。特に答えを期待していたわけでもないので、気まずい空気は続きつつも、私は彼の返事を待たないまま階段を下りる。
 すると、階段を5、6段下りたところで、ユウリが私の後をついてくるではないか。
 これってどういう意思表示なんだろう。OKってことでいいんだろうか? ひとまずこちらも黙って一緒に歩く。
 1階に下りて、先に風呂場に向かうシーラと別れたあと、カウンターにいるおかみさんに頼んで、かなり遅めの朝食……いや昼食を作ってもらうことにした。
とりあえず全員分の食事を頼んだのだが、まだ起きてない仲間がいることに気付いた。
「そういえば、ナギはまだ寝てるの?」
「…………」
シーラと同じで寝起きが悪いのか、こちらの呼び掛けにまともに答えようとしない。もうこれは彼の平常運転ということにして、とりあえず落ち着いて座れる場所を探すことにした。
カウンターの奥には食堂があり、四人掛けの木製のテーブルがいくつか並んでいる。私は一番陽当たりの良い窓際のテーブルを選ぶと、ユウリと向かい合わせに座る。時間帯のせいか、私たちのほかにお客さんは誰一人いない。窓の外を眺めると、眩しいくらいの真っ白な雲と真っ青な空が見事なコントラストを描いている。
 ………………………………。
 うーん、会話がない。
 ナジミの塔に行くときなんか、さんざん人の文句ばっかり言ってたくせに、なんでこんなときに限って何も喋らないんだろう。
お互い視線を合わすことなく、時間だけが過ぎていく。
 さすがにこの空気に耐え切れなくなった私は、意を決して行動に出ることにした。
「えーと、ユウリ、好きな食べ物って何?」
「それを聞いてどうする」
「いや、あの、えと、い、言いたくないなら別にいいんだけど」
 思わぬ反論で、急にどもる私。いや、これは私の質問のチョイスが間違ってたんだろうか。ハラハラしながら次の言葉を待ってみる。
「…………………………………………甘いもの以外なら大体食える」
 たっぷり間が空いたあと、ぼそっと、近くにいなければ聞き取れないほどの小さな声で、確かにユウリは答えた。
「え!? あ、じゃあ今度、料理作ってあげるよ。こう見えても料理は結構得意なんだよ」
私はぱっと顔を上げ、思わずそんな約束をしてしまった。
「お前が料理だと? ふん、お前ごときでも何かひとつぐらいとりえがあるんだな」
 …………やっぱ約束するんじゃなかった。私は5秒前の自分を呪った。
 私が項垂れていると、急にユウリが声をかけてきた。
「…………おい」
「へ?」
 けれど、何をためらっているのか、なかなか続きを言おうとしない。
 変に口を出したら怒られること必至なので、私は彼の顔をじっと見つつ次の言葉を待った。
「…………なんでもない」
 私は心の中で思わずずっこけた。ユウリの「なんでもない」は良くも悪くも心臓に悪い。
 詳しく聞こうと思ったが、タイミングが悪いのか、急に上からものすごい勢いで階段を下りていく音が聞こえてきたので、話は中断されてしまった。
「あっ、何だよお前ら、こんなとこにいたのかよー!!」
 場違いなくらい大きな声で私たちに近づいてきたのは、言うまでもなくナギだ。
 寝起きなのか、寝癖がものすごくひどいことになっている。子供に悪戯でもされたんだろうかってくらいの有り様だ。
「ナギもごはん食べる? 一応四人分頼んどいたんだけど」
「もちろん!! 丸一日メシ食ってねえから腹減って死にそうだぜ!!」
そういうと、すぐに私の隣にどかっと座り、テーブルに突っ伏した。
「そのまま永遠に寝てろサル」
 ユウリの攻撃に、ナギの眉がひときわつり上がる。
「ぁあ!? 何だと!! 昨日あんだけヘタレだったくせに、よくそんなえらそーなこと言えるよな!! つーか助けてやったんだから礼ぐらい言えっつーの!!」
「俺はお前みたいな野性のサルと違って繊細なんだ。それにお前あのジジイに言われたじゃないか。勇者である俺の手助けをしろと。俺を助けることはすなわち義務。よってお前に礼を言ういわれはない」
「だーっ!! なんなんだよ、めんどくせえよ!! 義務とかマジわかんねーんだけど!!」
そう怒鳴りながら、頭をぐしゃぐしゃに掻き乱すナギ。
「まあまあナギ、怒ったところでお腹減るだけだし、とりあえずご飯がくるまで待ってようよ。ユウリも病み上がりなんだしさ」
「はあ? お前はそれでいいのか? そんな甘いこと言ってると、こいつどんどんつけあがるぞ!」
「今はそんなことで揉めてもしょうがないって。それよりご飯だよ、ご飯」
「そんなことってなんだよ、重要なことだぞそこは」
 それでも腑に落ちないナギをなんとかなだめて、私たちは食事が来るまでとりとめのない会話をして時間をつぶした。といっても、ほとんどナギとしか話してないけど。
「そーいやミオってさ、この近くの村に住んでたんだろ? どの辺なんだ?」
 ナギがぼさぼさの髪の毛を手ぐしで整えながら、たずねた。
「そんなに近いわけじゃないけど……。ここから北にずっといったところにあるカザーブって村だよ」
「カザーブ……? ああ、あの山に囲まれた田舎くささ満開の村か。まさにお前にぴったりな村だな」
 いきなり横からユウリが口を挟んできた。いろいろ突っ込みたかったが、ふとある疑問がわいた。
「ユウリ、私の住んでた村知ってるの?」
「当然だ。世界を回るためには世界のことを知る必要がある。これでも世界各国の村や町、遺跡などの情報は前もって頭の中に入れてある」
「つーか頭でっかちなだけだろ」
 得意げに言うユウリ。横にいるナギはかなり不愉快そうにしている。
「お~い、おまたせ~♪」
 かわいらしい声でやってきたのは、お風呂から上がった金髪の美少女だった。お風呂上がりの彼女は上気して、白い肌がほんのりピンク色に染まり、ますますかわいらしさがアップしていた。けれど、違和感を感じて、すぐそれに気づく。
「ねえ、シーラって本当は髪の毛ストレートだったの? 一瞬誰かわからなかったよ」  
 いつもはボリュームのある巻き髪の彼女だが、レーベの村で泊まったときは、シーラはすぐに寝てしまったので、髪の毛を濡らしたシーラの姿を見たのはこれが初めてだったのだ。
「えへへ。本当はこの後乾かしながら髪の毛巻くんだけど、今はご飯中だから後回しにするんだ♪」
 まっすぐになったシーラの金髪は、愛らしい顔立ちによく似合い、その姿はまるでおとぎ話に出てくる泉の妖精のようだった。
 正直、普段の巻き髪よりも、こっちのほうが似合っていた。でも今はナイトドレスを着ているから、バニーガール姿になったら、またイメージが違って見えるんだろうか。
 そんなこんなでやっと食事が来た。空腹だった私たち4人は、ふんわり湯気の立った食事がテーブルに置かれるや否や、瞬く間に胃袋の中に食べ物を収めていった。
 あのユウリでさえ、掻き込むようにクリームシチューを平らげていたのだから、みんな相当空腹だったに違いない。
 気づけば、4人同時に空になったお皿をきれいに重ねていた。
 こういうところだけは、みんな気が合うのかもしれない。
 食後のデザートを頼んだところで、ユウリが三人を見回しながらこういった。
「食事が済んだらロマリア王に会いに行くぞ」
『へ?』
 三人そろって間の抜けた声を出す。ユウリは眉間にしわを寄せた。
「お前ら、この俺を誰だと思っている? この世界を救う勇者だぞ!? 異国にたどり着いたからにはその国の代表に会うのが、世界を救う勇者としての礼儀というものだろうが」
「そ、そういうものなの?」
「あたしに聞かれてもわかんな~い」
「つーかただ単に目立ちたいだけなんだろ」
 ナギの一言で、ユウリの周りの温度が10度下がったような気がした。
「ベギラ……」
「だめだよユウリ!! こんなところで呪文なんか……」
「そうよぉ!! まだ食後のデザートが来てないのに!!」
「そういう問題かよ!?」
 シーラの言葉に、ナギが突っ込みを入れる。というかシーラのデザートって、さっき頼んだウイスキー8本のこと?
「あのさ、前から気になってたんだけど、シーラっていくつなの……?」
「ふふふ♪ ナイショだよ☆」
私の問いに、意味深な笑みを浮かべるシーラ。私より年下に見えるのに、こんなにお酒飲めるなんて不思議だ。というか体は大丈夫なのだろうか?
「そんなことより、早く支度するぞ。日が傾く前には用事を済ませるからな」
シーラの年齢に全く興味がないのか、すぐに席をたつユウリ。もっとのんびりしたかったのになあ。
けれど『王様に会う』と言う一般人には到底縁のない出来事に、私は内心浮き足立っていた。
そのせいで結局食事の後に済ますつもりだったお風呂に入れなかったことに気付き、ロマリア城の門前で後悔したのだった。 
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