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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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貉(むじな)共の悪巧み・1

 ニライカナイ艦隊の艦娘戦闘指揮所母艦『みのぶ』が、ブルネイ鎮守府港湾部に接舷する。素早く出迎えに現れた艦娘達によってタラップが設置され、中に居た勇士達が1人、また1人と降りてくる。その視線は初めて降り立つ巨大な鎮守府に興味津々の者、はたまたそこで出される食事の数々を想像してか軽くニヤけている者、普段と変わらぬ憮然とした表情の者等々様々だった。

「ニライカナイ艦隊の皆さん、この度はお疲れ様でした。此方で主計課長を任されております、鳳翔です」

「出迎え感謝する。……どうやら、既に祭りは始まっているようだが?」

 鳳翔の出迎えに敬礼で返す壬生森。しかしその視線は鳳翔の背後で繰り広げられるどんちゃん騒ぎに向いていた。その視線の先には、建物の間の通路などにテーブルや椅子を持ち出し、料理を並べ、杯を傾ける艦娘達の姿が見えている。

「すみません、ウチの娘達は宴会や祭りと聞くと我慢が効かなくて……せめて、お客様が到着するまでは待つように言ったんですが」

「いや、押しかけたのは此方だ。途中参加でも文句は言うまい。それで、私達は何処へ向かえば良いのかね?」

「えぇと、提督からはお好きな場所へどうぞと」

「……?言っている意味がよく解らないのだが」

「本日は鎮守府施設の殆どが解放されております。提督の『Bar Admiral』は勿論、『甘味処 間宮』、私のお店である『居酒屋鳳翔』も朝までお店を開けています」

「成る程」

「他にも、鎮守府の食料生産設備である『山雲農園』では野菜を収穫してその場で食べる体験企画を準備しておりますし、温泉を引いている大浴場、模擬戦も可能な『訓練場』や『工廠』等は見学も使用も可能です」

「大盤振る舞いだな」

「他にもダーツや麻雀卓、カジノのゲーム等を揃えたプレイルームやゲームコーナー、プール等もございます。その施設全てをお好きに、との事です」

 壬生森の後ろで話を聞いている艦娘達は、総じてポカンと呆けたような顔をしている。話を聞く限りおおよそ軍の基地のようではない。むしろまるで……

「さながらリゾート地だな」

 壬生森のその一言が艦娘達の頭に浮かんでいた言葉を総括していた。本当にここは鎮守府なのか?と疑いたくなるだろう。

「我がブルネイ第一鎮守府は独立採算の経営方針ですから。その辺りは元内務省の壬生森提督ならばお詳しいのでは?」

 と鳳翔がニッコリと微笑んでみせれば、

「無論だ。……だが、ここまで設備が整っているとは知らなかった」

 と壬生森が返す。傍らに控えている叢雲と熊野も、壬生森にジト目で視線を送っている。その視線は『想定外じゃないか、どうしてくれる』とありありと語っていた。

「誰もお訊ねになりませんから、お答えになった事が無いだけです」

 しれっと語る鳳翔。既に提督が裏から手を回して、鎮守府の土地・建物の権利は国から買い上げて提督の手中にあるのだから、好き勝手やった所で違法性はなかったりするのだが。

「提督は戦後も見据えてこの鎮守府を整備している、と語っておられました。『戦争が終結してからもこの場所が負の遺産にならないように』……と」

「そんな事よりよぉ、とっとと飯食わせてくれよ。俺達腹ペコなんだよ」

 話し込んでしまっていた鳳翔と壬生森に割って入ってきたのは、ニライカナイの天龍だった。もう待ちきれない様子で、どんちゃん騒ぎをしている艦娘達の方を凝視していた。

「すみません、つい……」

「しょうがないさ、この鎮守府での過ごし方の説明だったのだ……聞いての通り、自由行動とする。だが、節度ある行動を心掛けるように。以上だ」

「では、ご案内します!『居酒屋鳳翔』に向かわれる方は私に付いてきて下さい!」

 その場で解散したニライカナイ艦隊の面々が、それぞれに行きたい場所へと向かっていく。その場に残ったのは壬生森提督とその秘書艦2人。それに噂の『Bar Admiral』に向かうと決意を固めた艦娘達と、何が何だか解らない内に連れてこられた可哀想な見慣れぬ艦娘が約1名。総勢9名。

「さて、我々も向かうとしようか」

「そうね。こっちよ、付いてきて」

 一度訪れた事のある壬生森と叢雲の先導で、一行はノロノロと動き出した。







 巨大な敷地を誇るブルネイ鎮守府、その中でも一際大きい建物である本庁舎に壬生寺とその一行が入っていく。その壁面には痛々しい銃撃の跡や煤けた跡が見て取れる。

「随分と手酷くやられたようだな」

「これでも最小限に抑えた方でしょ?錬度の高さが窺えるわね」

「巻き込んでおいてその他人行儀っぷりは逆に尊敬できますわ……」

 そんな会話を交わしつつ、建物内を進んでいく一行。よく見れば、他の建物にも焼け焦げの跡や舗装の抉られた通路など、空襲の跡が所々に散見する。相当な規模の空襲だったようだが、目立った被害が無いのは流石というべきか。

「さぁ、着いたぞ。ここだ」

「本当に執務室なのね」

 感心したのか呆れたのか、ぼそりと加賀が呟く。一度訪れた者なら何という事はないが、初めて来た者は必ずといっていいほどそこに食い付く。叢雲が待ちきれないといった様子でドアを開く。するとそこには、

「らっしゃい。待ってたぜ」

 以前来た時とは内装がまったく違う店内に、不敵に笑う金城提督とその艦娘達が数人待ち構えていた。




「これはまた……barは店仕舞いかね?」

「生憎とどっかの誰かさんに巻き込まれたお陰で、いつもの店は穴だらけになっちまってな。今日は鉄板焼きスタイルだ」

 壁から半円にグルリと厨房を囲むように設置された、鉄板と一体化したテーブル。成る程、高級なステーキハウス等に見られる店の作りだ。

「酷い事をする奴も居たものだ。あの店は居心地が良かったのに」

「全くだ。キッチリと落とし前着けなきゃな」

 視線を交わす2人の間に、一瞬バチリと火花が飛んだ(ように周りの艦娘達には見えた)。

「まぁ、今夜は祝勝会だ。楽しんで行こうぜ」

「あぁ、勿論そのつもりだ」

 ニライカナイの一行も、カウンターに腰かける。金城提督はそこに、見馴れない艦娘がいるのを見つけた。

「そちらの金髪のお嬢さん、お名前は?」

「ふえぇ!?あああっ、あのっ、私っ……」

「彼女は『ガンビア・ベイ』。アメリカから試験的に譲り受けた護衛空母艦娘なんだが……生憎とウチでは運用する余裕が無くてね」

「ほう」

 ギラリ、と金城の眼が光る。ガンビア・ベイが睨まれた訳でもないのにその眼光でビビったのか、ピッと小さな悲鳴を上げる。

「どうかね?君の所で預かって貰えると有り難いのだが?」

「そうだなぁ、ウチはいつでもウェルカムだからな」

 白々しいやり取りだが、こういうのは建前が大事だと2人の提督はよく理解しているのだ。この新しく生み出された艦娘が、ブルネイに迷惑をかけた事に対するニライカナイからの『誠意』である事は、誰の目にも明らか。しかし、それをハッキリと口には出さない。出してしまえば壬生森は越権行為に問われて投獄されてしまう恐れがあるからだ。グイッと金城提督が顔を近付けると、サッと顔を青ざめさせて、カタカタと小刻みに震え始める。

「darling、怖がってるからやめたげるネ~」

「わ~ったよ、ったく……。大丈夫かコレ?」

 実戦で使い物になるのか?と聞きたいらしい。金城提督自身、臆病な位で兵士は丁度いいと考えているクチだが、臆病を通り越してただのビビリでは役に立たない。

「まぁ、その辺はウチの方針で鍛え直せばいいか」

 と金城が呟くと、ブルネイの艦娘達は一斉にガンビア・ベイに哀れみの視線を向けた。遅かれ早かれ、ブルネイ鎮守府に着任した新人歓迎の『アレ』は待っているのだ。今はまだ、地獄の釜の底を知る必要は無い。ブルネイの艦娘達は心の中で、新たなる仲間(と書いて被害者と読む)に合掌した。

「さぁて、新入りの紹介もしてもらった所で、乾杯といこうかい」


 
 

 
後書き
予想通りだけど、1回じゃ終わらなかったよ……( ;´・ω・`) 
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