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人理を守れ、エミヤさん!

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陰謀と冒険の匂いだね士郎くん!




(やっこ)さん、留守だぜ。もぬけの殻だ。決行直前に引き払った感じだな」
「――何?」

 斥候に向かわせたクー・フーリンからの報告に、襲撃案を三通りほど練っていた俺は盛大に顔を顰めた。
 百貌のハサンから提供された情報をもとに、キャスターのサーヴァントが築いているという下水の工房へ出向いたのだが。其処に、キャスターはいなかった(・・・・・)のだ。
 切嗣の所在不明、アインツベルン陣営の強力化に続く差異である。俺の中で本来の第四次聖杯戦争とは異なるとの確信が強まる。と、同時に。やはり当時を知る者の証言は参考にしかならないと断定した。
 アルトリアの証言は多分に主観が入りがち。それに今回は特異点ということもあって、客観的な彼女の意見も無視していたが、それが正しい状況になったというわけである。

「どんな感じだ?」
「入れ違いって感じだ。で、オレの潜入には気づいてねぇ。単に事情があったか、他からの襲撃があったか。オレから見た感じ多分襲われたんだと思うぜ」
「……アサシンの情報通り、キャスターの青髭は正規の魔術師ではなく工房への潜入は容易だった訳か。で、なんで襲われたって判断した?」
「工房全体が、その痕跡すら残さず焼き払われてたからだ」

 焼き払われていた、か。それもクー・フーリンが言うほど徹底的に。
 焼き払う、即ち火。百貌のハサンの情報通りなら、火属性を扱う魔術師は遠坂時臣だ。
 ……なんらかの要因があって遠坂時臣がキャスターの所業を知り、英雄王を使ってキャスターを討ったのか? 英雄王が出てきたなら青髭のキャスターなんぞ瞬殺だろう。

 ――まあ、それはない。

 遠坂はキャスター征伐を教会を通して行い、令呪一画をせしめんとしていた。
 その動き方からして、遠坂は根っからの魔術師。そんな輩に迅速な対処は望めないだろう。
 遠坂の他に有り得そうなのは、百貌の情報通りの面子だとして、蟲翁だ。キャスターのマスターを襲い、キャスターを令呪で掌握。その霊基を媒介に新たなキャスターを召喚――といった裏技ぐらいやりかねない。
 もしもそうだったら切嗣並みに厄介な陣営と化すだろう。しかし、仮にそれ以外の可能性が通るとしたら……?

「今は考えるのは無駄か。引き返すぞ」
「確実にキャスターが倒されたって訳でもねえのにか?」
「今回の襲撃は、キャスターがアサシンの情報通りの存在で、情報通りの行動を取っていることが前提だった。それが崩れた以上は長居は無用だ。状況も状態も曖昧な戦争だ、臭い奴から消す。早急に間桐の消毒に移るぞ」
「了解だ。オレのすることはルーンで間桐って奴の塒を隔離しちまうことだったな?」
「ああ。間桐の特性はもう教えたな? 最後の仕上げも任せる。今回は俺の見つけた礼装が、蟲の妖怪に通じるか試す意味合いもある。本命じゃないから、危険だと思えば介入してくれ」
「応。念のため見切りをつけるのは早めにする。そっちの都合が巧く行かなくてもキレんじゃねぇぞ」
「その場合、ランサーは俺の命の恩人になってる訳だ。キレるわけないって」

 苦笑して俺は言う。流石にそれは逆恨みと言うものだ。それに、温厚な俺をキレさせたら大したもんですよ。――と、不意に一人の少女が夜の街を、魔力計を手に彷徨いているのを視界に捉えて。

 俺は発作的に怒号を発した。

「そこの小娘ェ! なぁにをしてやがるかこの戯けがァッ!」
「ひゃっ」






 所は夜の公園。思い出遥か、とは言い難い因縁の存在。目の前で膨れ面をしている幼き日の遠坂凛に、俺は心の底から溜め息を吐いた。
 ニヤニヤと笑いながら見守るクー・フーリンは、当たり前だが霊体化している。
 俺は影ながら聖杯戦争の神秘秘匿を担当する魔術協会の魔術師を自称していたが、流石に無理のある設定だと思う。が、どうにも幼い凛は素直な面があるらしく余り疑ったりはしなかった。
 ロンドンの冬、二度も俺を橋から落としてくれたあの悪魔が、随分と無邪気なものである。

「で。遠坂の令嬢が、どうしたってこんな時間に、こんな場所を彷徨いてる?」
「……別になんだっていいでしょ。あんたなんかに関係ないんだから」
「関係は大いにある。君が聖杯戦争に巻き込まれ死亡した場合、その後始末をするのは俺だからな」

 俺がそういうと、ロリ凛は怯んだように身構えた。少し言葉が強いが、これで素直に帰ってくれたらいい。子供大好き殺人鬼に見つかってたら大事だ。俺としても寝覚めが悪くなる。

「……家まで送ってやるから、大人しく帰れ。今は子供の時間ではないんだぞ」
「い、嫌よ! わ、わたしにはやらなくちゃなんないことがあるんだから!」
「あー……」

 幼いとはいえその気性はそのままか。道理を説けば聞ける利発さがありながら、聞き分けが悪いのは例の心の贅肉故だろう。どうせまたぞろお人好しの虫が騒ぎだしたに違いない。

「友人でも探してるのか?」
「えっ!? な、なんで……!?」
「顔に書いてる、困ってる奴助けなきゃー、ってな」

 嘆息して、俺は天を仰いだ。

「『お父様は忙しいし遠坂としてわたしが探さないと』?」
「!?」
「……ばか。圧倒的おばか」
「な、何よ! ばかって言った方がバカなんだからね!? ていうかなんで分かるの?! わたしになんか魔術使った?!」
「使ってたらそもそもこんな問答するわけあるか」

 そもそも使えないというね。魔術師としては二流止まりが俺だ。現時点の遠坂凛にすらレジストされかねないという。
 別にそれはいいのだ。問題は本当に凛の年頃で夜中を出歩くのが危険だということ。キャスターがどうしているか不明である中、もしばったり出くわしてみろ。一発で言葉にするのも憚られる悲惨な目に遭うことになる。

「まあいい。お前の利かん気の強さはよくよく思い知ってるんでな。悪いが実力行使させて貰う」

 凛の友達とやらは後で探してやるとする。
 素早く凛の腰を抱き、そのまま担ぎ上げた。

「なっ?! ど、どこ触ってんのよ変態! 変態! 変態!」
「誰が変態か! 親切に家まで送り届けてやるんだ、大人しくしろコラァ!」

 凛を抱え、肩に担ぐと盛大に暴れまわり謂れのない罵倒を受けた。俺は遺憾の意を表明するも、それは悪手であった。
 人気は少ないと言っても街中である。偶然にも騒ぎを聞き付けた誰かが叫んだ。

『た、大変だぁ! 子供が変質者に拐われそうになってるぞ!』

「やばっ」

 俺は咄嗟に強化の魔術を脚に叩き込み、脱兎の如く駆け出した。
 乗用車並みの速度で急に走り始めた俺に、凛は悲鳴をあげてしがみついてくる。霊体のまま並走してきたクー・フーリンが揶揄するように言った。

『客観的に見て絵面がまるっきり変質者だぜ、マスター』
「煩い! わかってるんだよそんなことは!」

 苦虫を噛み潰した貌で吐き捨て、俺は大いに嘆いた。なんだって、どうしてこうなった!?
 畜生、特異点復元したらなかったことになるんだから見捨ててれば良かった! ――ああでもだ、知った貌を見捨てられるほど薄情にもなれないんだよ!

『ははははは』
「クッソがぁ!」

 面白そうに笑うクー・フーリンに俺は悪態を吐くしかない。俺は記憶にある遠坂邸にまで凛を持ち運び、すっかり悲鳴を上げ疲れてぐったりした凛を、遠坂邸に乗り込んで送り届けた。

「へいお待ち! 娘さん一丁!」
「なっ!? り、凛!? 貴様凛に何を!?」
「うるさい黙れ似非優雅の顎髭野郎! 娘の監督も出来ずに優雅ぶってんな糞野郎!」

 遠坂邸の主にばったり出くわした俺は、もう叫ぶしかなかった。










 
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