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人理を守れ、エミヤさん!

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安定のスルー力だね士郎くん! & 割と外道だね士郎くん!(二話合併版)




「余の名は征服王イスカンダル! 此度の聖杯戦争ではライダーのクラスを得て現界した!」

 セイバーとランサーの間に割って入り、両腕を広げて高らかに名乗りを上げたのは。
 二頭の雷牛の曳く戦車に乗った赤毛の巨漢、ライダーのサーヴァントである。

 聖杯戦争の常識を無視したその破天荒な名乗り上げに、アイリスフィールやセイバーは唖然としてクー・フーリンは軽く口笛を吹く。
 奔放な振る舞いは、世に冠絶せし傑物の波動を放つ。登場一つのただ一撃、それのみで周囲の空気を一変させる様は圧倒的だ。
 士郎もまた、一瞬虚を突かれたように反応が遅れ。しかしすぐに何かを思い出したように、忌々しげに眉根を寄せた。

「其の方らの正面切っての果たし合い、真に見事! 特にランサーよ、うぬの武勇まさに神域のそれよな!」
「そりゃどうも。だがアンタも大概だぜ? ライダー」
「ふははは! 誉め言葉として受け取るぞ! セイバーにしてもよくランサーの猛攻を堪え忍んだ! 其の方らの打ち合う剣戟の音色に惹かれ、ついつい出張ってきてしまったわい!」
「……そうか。だが攻められただけの無様を称賛されても、決していい気はしない」

 起死回生の策は不発だった。セイバーは不満げで。それにライダーの前で宝具を使う所だったのだから面白いはずもない。
 ふと、クー・フーリンは士郎を見た。何やら苦虫を噛み潰したような顔。どうしたと訊ねる前に、ライダーがクー・フーリンらに問いを投げ掛けてきた。

「うぬらとは聖杯を求めて相争う巡り合わせだが……矛を交えるより先に、まずは問うておくことがある。うぬらが聖杯に何を期するのかは知らぬが、今一度考えてもみよ。その願望、余の天地を喰らう大望に比してもなお、まだ重いものであるのか」

 はあ? と露骨に顔を顰めたのはセイバーとクー・フーリンである。
 「それ、どういう意味?」とアイリスフィールが反駁すると、にかりと歯を見せたライダーが言った。

「うむ、噛み砕いて言うとだな。ひとつ我が軍門に降り、聖杯を余に譲る気はないか? さすれば余は貴様らを朋友として遇し、世界を征する愉悦を共に分かち合う所存でおる」
「なんだと?」
「はン」

 軍門に下れ。その言葉に、険悪な声音でセイバーとクー・フーリンが反応した。セイバーは王として。クー・フーリンは、槍を捧げた主君の面前ゆえ。
 特にクー・フーリンの形相は一変していた。青筋が浮き上がり、発するは凄まじい怒気。情けのない、ひゃ、という悲鳴が上がる。戦車の中のウェイバーが腰を抜かしたのだ。
 セイバーは咄嗟に剣を構える。ライダーも表面上はそのままだが、その手綱に手が掛けられた。

「テメェ、言うに事欠いてこのオレに『軍門に下れ』と来たか。戦士の矜持に真っ向から泥を引っ掛けやがるとはいい度胸じゃねえかよ」
「……ふむ。反応からするに、うぬはそこなマスターに忠義を誓っておるのだな」
「応よ。生前通して得られなかった理想の主って奴だ。槍に懸けて忠誠を捧げたこのオレが、ちっちゃい野心を掲げるテメェなんぞに膝を屈するなど有り得ねぇな」
「余の野心が『小さい』とな!?」

 小さい。そのように評されたことがライダーの矜持を傷つけたのか、ライダーの目から稚気が消えた。
 腹を据え、ライダーが覇気も露に問う。

「では聞かせて貰おうか! うぬのマスターの野心とは何かを!」
「は。答える義理はない……が、それでマスターを小さく見せたんじゃオレの沽券にも関わる。いいぜ、その耳かっぽじってよく聞きな。オレのマスターはな――この世の糞溜めも、日溜まりも、丸ごと引っくるめた全部の歴史を保障すんのさ。目の前の世界しか見えてねぇテメェと比べることすら烏滸がましいんだよ」
「――なんと」

 ライダーが、呆気に取られる。目を丸くして士郎を見た。
 眼中になかったマスターが、そんな存在だとは想像もつかなかったのだ。クー・フーリンの言葉に偽りは感じられず、その言葉の意味の半分も捉えられなかったが、スケールのデカさは伝わった。

 そしてそれは、ライダーに重々しく受け取られる。

 征服する星の歴史の保障。ライダーは、そこに敗北を見た。ぬぅ、と呻き、腕を組んだ。
 セイバーやアイリスフィール、ウェイバーにはなんの話かも分からない。しかし、ランサーの言葉に真実が宿っているのは伝わった。そのために誰も馬鹿には出来ず、法螺吹きとも謗れなかった。

「喋りすぎだぞランサー」
「っと、出過ぎたか。すまねぇなマスター」
「いいが。それよりさっさと退くぞ。嫌な空気だ」
「待てランサーのマスター!」

 何やら嫌な予感を得た士郎に促され、クー・フーリンは撤退を了承する。
 それに待ったを掛ける征服王。だが、士郎は足を止めなかった。クー・フーリンに言う。

「俺はあの手の輩をよく知っててね。たとえばウルトラ求道僧とかな。ああいう手合いに付き合えば、最悪の騒動に遭うのもざらだ。関わる方がマズイ。ウルトラ求道僧に付き合ったせいで、またぞろ魔性菩薩とかと出くわす羽目になるのは御免だぞ」
「あー、なんのことかは知らんが、言わんとすることは分かった。なるほどな、確かに騒ぎを大きくする奴ってのはいるもんだ」

 ランサーは女王メイヴを思い出す。なるほど確かに、さもありなんと頷かざるを得ない。
 征服王の制止を完全に無視して士郎とクー・フーリンは倉庫街より離れていき、場の空気を完璧に無視出来る士郎は思った。

(あー、ライダーとセイバーで潰し合ってくれたら楽なんだけどなぁ)

 士郎は自身の判断が英断だったことを後で知る。英雄王、バーサーカーが集った四つ巴戦が行われたのだ。
 士郎は幸薄き故に、危険察知からの離脱が早いのが混戦を避けられた要因である。後に、それをロマニに指摘された士郎は泣きそうになったという。














『――今朝のニュースです。昨夜未明、偽札を使用し無銭飲食を働いた住所不定無職の外国人男性、ロマニ・アーキマンが逮捕、拘留されました。犯人は「畜生覚えてろあの野郎」などと供述しており、事態の真相を追って取り調べを進めて――』

 ぶふぉ、と。飲んでいたモーニングコーヒーを噴き出し、俺は思わず咳き込んだ。
 ホテルの一室である。何気なくテレビを眺めていたら放送されたニュースに、流石に噴き出さざるを得なかった。

『何をやっている、貴様……』

 丁度通信を繋げ、連絡を取り合っていたカルデアから、アグラヴェインの呆れ声が届いた。

「いや普通気づくだろ。あの時点で俺が1990年代の日本の通貨を持ってる訳ないって」

 年代を考えろ。この時間軸から十年以上先の未来の通貨だぞ。しかも俺の活動域に日本は含まれていない。寧ろカルデアに入った時点で手持ちに日本円があったこと自体が奇縁だったというのに! 普通ギャグ、ユーモアに決まってるだろう……! 本気で使う奴があるか……!?
 魔術王なら気づく! それでなくても常識があれば気づく! 常識がなくても頭が回れば気づく! ロマニはあれで有能だから気づかないとおかしい! というか無能でも分かるぞ!?

「陰謀だ。間違いない」
『誰を嵌めるためのどういった陰謀だ』
「分からん。流石は叡智の王、全くその意図が読めん……」

 これは、警戒が必要だな。密かに警戒心を高める俺に、アグラヴェインは露骨に嘆息した。

 クー・フーリンには今、周囲の偵察を頼んでいるため密室に一人きりだ。念のため切嗣と同じ顔を見つけたらサーチ&デストロイを頼んである。
 敵がアインツベルンで、アルトリアが鞘持ちであること、ランサー陣営を潰し成り代わったことなど、今後の方針についてもカルデアには話してあった。ダ・ヴィンチやアグラヴェインからもGOサインは出ている。後は慎重に動くだけのはずだったのが、先ほどのニュースにより色々気分が台無しとなってしまった。

『私にもロマニ・アーキマンの意図は掴めんがあれは味方だろう。貴様の不都合になる動きは取らないはずだ』
「ばかめ。あれは空気が読めない男だぞ。素で何を仕出かすか分かったもんじゃない」

 アグラヴェインの背後でダ・ヴィンチが噴き出して笑い声を上げた。的確だね士郎くん、と太鼓判を押してくれた。

「まあいいや。それより何か話があるから定時でもないのに連絡を入れたんだろう。用件はなんだ? まさかネロに何かあったんじゃないだろうな」

 気分を切り替える。一緒だったマシュが心配だったが、まあそこはそれ、上手く切り抜けて貰うことを願うしかない。
 さもなければ特異点化の原因を取り除くまでロマニが留置所から出られない。まあ、それはそれで貴重な体験になるだろうが。

 ともあれ、今回カルデアはネロの方の支援を重点的におこなうことになっていた。
 それなのにいきなり通信があった。何かあったのではないかと思ってしまう。

『ネロ・クラウディウスは現在「特異点アンノウン」の調査を続けている。経過は順調とは云い難いが、特に何事もない。今のところは、だが。それよりもその特異点に関してアサシン――百貌のハサン・サッバーハから重要な情報が入った。貴様は参考にしかせんだろうが、一応は伝えておくべきだと判断した。故に――』
『退けアグラヴェイン』
『お、王!? また御乱心なさいましたか――!?』

 蹴り飛ばされて画面から消えたアグラヴェインに、俺は哀愁を感じつつ。代わりに映り込んできたのはアルトリア・オルタだ。
 俺は言った。

「作り置きしてたバーガーの山をもう平らげたのか? しまったな、控えにアーチャーを置いておくべきだった。まったく、もう少し堪え性と言うものをだな」
『何を言っているのです。そんなもの、昨日の内に片付けました。私を満足させたければ、せめてあの三倍は用意してください』

 傍若無人なオルタリアだが、俺がマスターだからか一定の敬意を払った応対をしてくれる。対比してそれ以外へは辛辣に感じるのは仕様だろう。
 俺は思う。やはりアルトリア二人を養うには物資が足りない。聖杯で食料を願うか、と真剣に検討する必要がある。

『それよりも昨夜の戦闘データについてですが聞きたいことがあります』
「ん? アルトリアが鞘を持っていたことか」
『違います。可能なら鞘を回収して貰いたいのですが……無理は言いません。それよりもその時間軸の私に関して言ったことを追及しますが。私を「倒して押し倒す」といった発言の意図はどういったものです』
「……」

 昨夜うっかり溢した言葉に、俺は暫し沈黙した。

「……おかしいな。そんな発言、俺のログにはないが」
『惚けますか。いいでしょう、帰ったら覚悟するように』
「断食案件でござるな」
『!? ひ、卑劣……! 血も涙もない! 外道ですよシロウ!』
「何を言ってるか分からないからね、仕方ないね」

 ぶっちゃけ物資的な意味でも暫くサーヴァント勢は断食しなければマズイのだが。
 それは兎も角。ダ・ヴィンチから秘匿通信が入った。――何? 背後に剣を振れ?

 ……。

「ジャ――ッ!」

 振り向き様、瞬時に干将を振るう。すると、予期せぬ手応えが返ってきた。
 ぐぁッ!? そんな悲鳴。肉を切った感触。斬っておいてなんだが、俺が一番驚いた。何故ならそれは――カルデアの救世主だったのだ。

「アサシン……!? う、裏切ったのか!?」
『違いますぞ。それはその時間軸に冬木へ召喚されていた者! 断じて我らは不義理を働いておりませぬ!』
「分かってる。冗談だ」

 カルデア救世主に寝首を掻かれるようになったらお仕舞いだ。簡単に暗殺されてしまう。現にまったく近づかれてるのに気づかなかったのだから。
 霧散していくアサシンを尻目に、アサシンからの重要な情報が何かを察し、俺は嘆息した。

『それはともかくとして、八十分の一の、白兵戦には弱い我が影とはいえ、一太刀で斬り伏せるとは見事!』
「アーチャーの動きを投影したし、アサシンも背後を取って油断しきっていたから斬れたんだろう」

 殺されかけていたが、まあ、よくあることなので動転することでもない。
 俺はさっさと促した。

「それより百貌の。もしかすると第四次の大まかな流れ、サーヴァント、マスターの素性まで知ってたりするのか?」
『無論。それは――セイバー!? 何を!?』
「……」

 百貌が蹴り出され、再びオルタが出てきた。
 俺は苦笑するしかない。

『私の前に出るとは良い度胸だな貴様。私が話すから貴様はさっさと観測作業に戻れ』

 くっ、覚えてろー! と捨て台詞が聞こえ、オルタは改めて俺に向き合った。

『さて。では情報を伝えます。心して聞くように』
「……まあいいや。聞かせてくれ」

 オルタを控えにする判断は間違いだったかもしれん、と若干反省しつつ。
 俺は百貌からの情報を聞き、結論を下した。

「まあ、今の方針のままでいいな」

 なんの問題もない。鞘を持つアルトリアと、英雄王に気を付ければいいだけだ。
 ただ。

「――キャスターは殺す。そのマスターもだ。居場所を教えろオルタ」

 青髭。連続猟奇殺人鬼。
 無為に血を流す輩を、そのままにする気は断じてなかった。
  






 
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