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吸血鬼になったエミヤ

作者:炎の剣製
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012話 新学期、吸血鬼異変《弐》 オコジョ妖精の来日

 
前書き
更新します。 

 



翌日の事。
私はまき絵が普段どおりに教室に来ていることに安堵していた。
どうやらやっぱりこちらの世界は血を吸われても死徒にはならないようで安心したといえば…いいのか悪いのかはこの際どうなのかとして。

「…まき絵、大丈夫?」

アキラがまき絵に対して心配な声をかけながらおでこに手を当てている。
私も言葉をかけたい所だが、真相を知っている身としてはやはり罪悪感が先に沸いてきて結局何も出来ずにいた。
…情けないなぁ。
少し暗い気分になりながら席に座っていると、

「みんな、おはよーーっ!」
「あーーん、ま、まだ心の準備が……」

と、努めて明るく挨拶をしてくるアスナと、もう恐怖が前面に出ていてアスナに担がれているネギ先生が教室に入ってきた。
まぁやはりさすがに堪えたようだ。
意気揚々と吸血鬼退治をしようとして見事なまでに返り討ちに会ってしまったのだから。
今まで“天才少年”と持てはやされてきたが、ここでいきなり大きな壁に当たったのだからしかたがない。

(ふぅ…)

人知れずため息をついていると龍宮とタマモが話しかけてきた。

「どうしたエミヤ。なにか悩み事かい? 憂いの顔をして」
「シホ様は昔から思いつめるとかなり深くのめり込んでしまいますからすぐに発散したほうがいいですよ?」
「そうねぇ…。しいて言うならネギ先生の今後の成長が心配かなぁ、と…。父親がアレなだけに」
「ふむ、確かに…」
「はいです」

三人で盛大に頷いていた。
刹那も近くで聞いていたらしく苦笑いを浮かべていたのは勘違いではないだろう。

そして授業が始まったのはいいのだけれど…。
ネギ先生の私達を見る熱い視線はなんだ? 子供が出せるものとは思えないな。
そしてしばらくしてため息をついている。その繰り返しで一同も不安に思ったのかヒソヒソと会話をしだしている。

「…というか真面目に授業をする気はあるのかな…?」
「なにやら思いつめているところがあるんでしょう…放っておけばその内元に戻ります。うちのクラスは大抵そんな感じですから」

ボソッと私がつぶやくとやはり聞こえていたらしく長谷川さんがそれに答えてくれた。
それで私とタマモも、

「それもそうね…。ここ少しの付き合いだけどそれはよく分かったわ」
「そうですね。あのお子チャマは誰かさんと似てすぐに復活してそうですから」

そんな小さい会話をしているとふとネギ先生が顔を上げて、

「和泉さんはパートナーを選ぶとして10歳の年下の男の子って嫌ですよね―――…?」
「ぶっ!?」

思わず吹いてしまった。
突然なにを言い出しますか、このお子チャマは?
しかもそれが切欠で一同は大騒ぎを始めてストッパーである委員長まで暴走する始末…。
もう授業どころではない、また騒動が起こりそのままチャイムが鳴って授業が終わり、ネギ先生はふらふらとしながら教室を出て行った。

「ちょっとネギ!?」
「ちょっとアスナさん? ネギ先生はいったいどうしたのですか?」
「あ、ちょっとね。なんかパートナーが見つかんなくて困っているみたいよ?」

アスナが追っていったようだけど委員長にどういうことかと尋ねられると、そう答え教室を出て行ってしまった。
それでまた一同は騒ぎ出し『王子の悩みだー』『私がパートナーになる!』などと言った意味不明な話題で持ちきりになってしまう始末。
アスナにはぜひ自身の発言には責任を持ってもらいたいと思った。




◆◇―――――――――◇◆




本日の全授業が終了後、私達は学園長にお呼ばれされていた。
なので委員長主催で行われる『ネギ君を元気づける会』はふけさせてもらった。
なにやら不穏な気配だったのでちょうどいいだろう。

そして学園長室に到着し、一度ノックしてから了解の声が聞こえてきたので中に入った。
そこにはもう見慣れた仙人頭の学園長とタカミチがいた。

「姉さん、終業式以来だね」
「うん。タカミチはあっちでの仕事は終わったの?」
「ああ。それより足が治ってよかったよ。本当に…」
「うん、ありがとうタカミチ…「シホ様!」えっ、な、なに?」

少し嬉しかったところで突然タマモが大声を上げて私の名前を呼ぶので何事かと思った。

「早く話を進めましょう! ね?」
「う、うん…」

なにやら目が据わっていて怖かったから学園長に何の用件か聞くことにした。


……その傍らでタマモがタカミチに小声で、

(タカミチクン? なにナチュラルにシホ様といい雰囲気を作ろうとしているのですか…?)
(えっ…ハハハ、何のことカナ?)
(はぐらかす気ですか。そうですかぁ…。…ここに出したるは若かりし日のタカミチの恥ずかしい事が書かれたものが…)
(!? それは!?)
(これで、どや…?)
(…ッ、スミマセンデシタ!)
(よろしい…)


…なにやら二人は仲がいいのかお互いに笑いあっている。
とにかく私は学園長に何の用かを聞かなければ。

「それで用件というのは…?」
「そうじゃのう…。単刀直入に言うとエヴァのしている事は知っておるかの?」
「ええ。昨日それを目撃しましたから」
「知っているなら話は早いのぅ。それでシホ殿に頼みたい事というのは今回、ネギ君の修行の一環として目を瞑っていてもらえんかの?」
「ああ…、なるほど。そういうことでしたか。はい、別に構いません。エヴァからも事情は聞いていますから」
「そうか、それはよかったぞい。てっきりシホ殿は止めに入ると思ったからのぅ」
「さすがに事情を聞きましたら介入するのもどうかと思いましたので…それに以前、頼られない以上は正体をネギ先生に明かさないといってありますし」
「うむ。シホ殿は物分りがよくて助かる。して、もう一件あるんじゃが…」
「なんですか?」
「話す前に、シホ殿はもう足は大丈夫かの?」
「…? はい、エヴァの別荘でリハビリも兼ねて色々とこの体の付き合いも慣れてきましたので、今すぐ戦闘になったとしても並みの相手なら対処は大丈夫かと」
「シホ様は頑張りましたからねぇ~。何度吸血鬼自慢の怪力で誤って塔を破壊しそうになったかと思うとヒヤヒヤものでした…」
「ほっ! それはまことに安心した。それではもう一つの用件なんじゃがこっちが本題で、近々学園都市で年二回のメンテで、それと同時に都市全体の学園結界も解けてしまうんじゃ」
「はぁ…」
「それでシホ殿にもこれを好機に西の奴らが送り込んでくる刺客を退治する任についてもらいたいんじゃ」
「西のって…」

それって詠春が収めている関西呪術協会のこと?

「まさか詠春が…?」
「いやいや、婿殿は頑張っているんじゃが、いかんせんこちらを快く思っていない輩が多く、よく刺客を送り込んでくるのが今の東と西の現状なんじゃ」
「現状、ね…。解決案はあるんですか?」
「まぁあるにはあるのじゃが今は時期ではない、とだけ言っておこうかの。近いうちにシホ殿にはまた話すとする」
「わかりました」
「それとこれを…」

タカミチが私とタマモに携帯をそれぞれ渡してきた。これは…?
聞くとこれは仕事用で非常時や通信用に重宝してくれとのことだ。

「それとこれは前金じゃ。受け取っておいてくれ」
「お金!?」

机の上に置かれた少し厚い封筒を置かれるとタマモはすぐさま反応して「いただきます♪」と言って素早い手つきで受け取り「チャリーン♪」と言いながらまた謎の四次元袋に収めていた。

「…身内が恥ずかしいところを見せてすみません…」
「いや、もう慣れたからよいがの…。それと今後は以前渡した通帳に振り込まれる形になるから確認しておいてくれい」
「はい」

用件は終了したらしく学園長はくつろぎムードに入りお茶を啜っている。
タマモもいまだにお金に目を光らせていて心ここにあらずと言った感じだ。
それでどうしようかと思っていると、ふとタカミチと目があった瞬間、



―――なにか急に喉の乾きに襲われて意識が朦朧とし始めた。



「ん? どうしたんだい、姉さん? 顔が少し赤いようだけど…」
「うん。なんだかねぇ…少し、喉が渇いてね。ねぇタカミチ…少し頼みがあるんだけどいいかな?」
「………」

…ん? どうしたんだろう。タカミチが足を一歩下げている。
ねぇ、どうしたの、タカミチ?

「姉さん、それはきっと一種の気の迷いだ…。気をしっかりと持ったほうがいいぞ?」
「なに言っているの? 私はいたって正常だよぉ?」



…タカミチはかなり焦っていた。
普段シホはとてもキリッとしていてタカミチにとって憧れの一人であった。
だが今彼女は目をとろんとさせてまるで酔っているかのようで笑みすら浮かべている。

「あちゃぁ~…とうとう来ちゃいましたかぁ」

そこで横からタマモの声が聞こえてきてなにやら呟いている。
タカミチは額に汗を浮かべながらどういうことか訊ねる。

「な、なにが来たのかな。アヤメ君?」
「昨日は綺麗な満月でしたからねぇ…。シホ様もそれに当てられてしまったのでしょう。
普段は吸血衝動を我慢しているからよかったのですけど…や、月の魔力は恐ろしいですね。
きっと気心が知れているタカミチを見て我慢の糸が切れたのかなぁ、と…」
「な、なるほど…」

ダラダラと汗を流しながらそれを聞き流しているとふと一瞬の隙に目の前からシホの姿が消えていた。

「ど、どこに…!?」
「タカミチ君、うしろうしろー」
「ド○フですかっ!?「いただきまぁす」…って、やば………アッーーーッ!!」

…その後、タカミチはシホが満足するまで血を吸われたそうだ。
対して肌が艶々になってやっと正気が戻ったのかシホは何度もタカミチに頭を下げて謝っていた。




◆◇―――――――――◇◆




「はぁ…自己嫌悪だわぁ」
「しっかりしてください、シホ様~」
「でもさぁ、よりによって最初の吸血の対象がタカミチとか…なんか恥ずかしいじゃない。タカミチにも悪いし…」

シホはそれで一層ネガティブ思考に落ちていく。
だがタマモが大声を上げながら「大丈夫ですよー、この世界の吸血鬼の吸血では死徒にはなりませんから安心です♪」といって慰めてくれる。
そういう問題じゃないんだけどねぇ…とシホが呟きながら寮まで戻ってくるとなにやら騒がしい。

「…何事?」
「さぁ…? なんでしょうか」

シホ達はなにやら立ち往生している通路で近くにいた木乃香に何事か話しかけてみると、

「あ、シホにアヤメさんや、どこにいっとんたん?」
「ちょっと野暮用で…ところで何の騒ぎ?」
「あ、そや。なんやネギ君にペットが出来たらしくて今寮長さんに許可を取りに行くところなんよ! ほな、またなー」

木乃香はそう言って管理人室まで向かっていった。
しかし、ペットね。
シホとタマモはなにやら知らない魔力反応を察知し少し背伸びして見てみるとそこには一同に交換で抱かれているオコジョ(?)がいた。

(魔法生物…?)
(どうやらそのようですね。種別としましてはオコジョ妖精かと思われます)

「あ、エミヤさんにアヤメさん。こんばんは」
「はい、ネギ先生。ところでその動物は?」
「あ、はい。今日から飼うことになったオコジョのカモ君です!」
「むー…なんでしょうか? なにやらタバコの臭いがこのオコジョからしますが…」

タマモがそう言うとネギとカモは「ビクッ!」と震えてまるで逃げるように部屋に入っていってしまった。

「? なにか変なこといったかな?」
「あー、シホ達は気にしないでいいわよ?」

アスナの乾いた声にシホは「そう…?」と相槌を打つだけだった。




◆◇―――――――――◇◆




部屋に戻ったネギ達…特にカモは新たな美女の登場に興奮を隠せないでいた。

「兄貴! なんすか、あのお二人は!? とても極上じゃないですか!」
「えっと…カモ君が何をいっているのかわからないけど、朱銀髪の人がシホ・E・シュバインオーグさんだよ」
「それでもう一人がシホの付き人の玉藻アヤメさんよ」
「シュバインオーグ…?」
「どうしたの、カモくん?」

カモは一瞬思案顔になったがなにも思い浮かばなかったのでとりあえず「なんでもねぇっすよ!」とだけ答えておいた。


…まだまだ魔術使いと魔法使いが対峙する日は遠い。


 
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