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五徳猫

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第一章

                五徳猫 
 北山麻紀は八条海上保険のやり手の営業員である、茶色がかった黒髪は肩にかかる長さで切れ長の目に白い肌、やや紅がさした頬に赤い唇が少し面長の顔に似合っている。背は一六四程で三十歳という年齢にしてはスタイルも肌も崩れていない。
 今は神戸にある八条学園高等部に通う姉の娘、姪を大阪市淀川区の自分のマンションに住まわせて二人で住んでいる。
 自分の若い頃にそっくりの顔の姪にだ、よく家の中で言われていた。尚この姪は孝行の後輩でもある。
「叔母さん結婚はしないの?」
「彼氏はいるわよ、私も」
 麻紀は姪の佐紀にこう答えるのが常だった。
「会社の同期でね」
「同じ年齢の」
「そうよ、ちゃんとお付き合いしてるわよ」
「けれど結婚は」
「まだよ」
「私が一緒に住んでるから?」 
 邪魔かとだ、佐紀は叔母に聞き返すのだった。
「だから?」
「そういうのじゃないわよ、だって佐紀ちゃんをお家に入れたの私よ」
「学校の寮に住むって言ったらね」
「そうしたからね」
「邪魔じゃないのね」
「どうも相手がね」
 その彼がというのだ。
「私も誘いかけてるけれど」
「それでもなの」
「どうもね」
「反応悪いのね」
「それでね」
 だからだというのだ。
「中々ね」
「結婚出来ないのね」
「そう、ちなみにここだとね」
 今住んでいるマンションならとだ、麻紀は姪に言うのだった。
「三人暮らしても平気でしょ」
「いいマンションだしね」
「彼も私も稼ぎいいから」
 だからだとだ、彼は言うのだった。
「生活に困らないし」
「それで相思相愛だし」
「きっといい夫婦になれると思うけれど」
「相手の人がなの」
「お互いもう三十なのよ」
 この歳になってとだ、麻紀はさらに話した。
「だったらね」
「叔母さんは結婚したいのね」
「ええ、そう思ってるわ」
「まあ私大学に入ったらね」
 それからのことはだ、姪は叔母に話した。
「叔母さんがそう言ってもね」
「一人暮らしするの?」
「そのつもりよ」
 その考えだというのだ。
「大学のある神戸にね」
「遠慮しなくていいのに」
「遠慮じゃないわよ、どっちにしろ大学に入ったらね」
「一人暮らししたいのね」
「そう思ってるから」
「じゃあ神戸でなのね」
「アパート借りてアルバイトして」
 そのうえでというのだ。
「一人暮らしするわ、だからその時には」
「私もなのね」
「結婚してね」
 佐紀はこう言っていた、それで実際に通っている高校の上にあたる八条大学に合格すると大学がある神戸で一人暮らしをはじめた。麻紀は一人暮らしに戻ったが。
 それでも相手は中々結婚を言わない、それでどうかと思っている時にだった。
 会社から飲んで帰って自分の部屋があるマンションの玄関で一匹の黒猫に出会った。黒猫は玄関の左脇にちょこんと座っていたが。
 麻紀を見るとだ、こう言ってきた。
「おいそこの小娘」
「猫が喋ったの」
「おう、おいらはそうした猫だ」
「あんた化け猫?」
「五徳猫っていう長生きした猫だよ」
 自分からこう言ってきた。
「それで喋れるんだよ」
「成程ね、漫画やアニメでは喋る猫も多いけれど」
「実際見たのははじめてだろ」
「漫画やアニメで観てきたから驚かないけれど」
 それでもとだ、麻紀はその五徳猫に返した。 
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