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戦国異伝供書

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第二十七話 幸村と茶その八

「お主達がそこまで言うのならな」
「断じてです」
「そうしたことされぬ様」
「殿に何かあればと思いますと」
「我等も気が気でありませぬ」
 十勇士達も止めた、これで幸村は松永とは会わないことになった。この話を聞いて織田家の主な者達の殆どは当然だと思ったが。
 慶次は叔父である前田にこう言った。
「それがしも同席してです」
「真田殿をあ奴にか」
「紹介してもと思ったのですが」
「馬鹿を言え、あの様な奴に会わせて何になる」
 幸村をとだ、前田は甥に厳しい顔で言葉を返した。
「一対」
「だからですか」
「そうじゃ、十勇士の者達が止めたならな」
「それで、ですか」
「よい、流石は十勇士達じゃ」
 前田は十勇士達を褒めもした。
「その勇と忠、まことにじゃ」
「素晴らしきものですか」
「そう思う、あれだけの忠義をあれだけの猛者達に持たれるなぞ」
 こうも言う前田だった。
「真田殿も果報者、そしてそれだけの御仁じゃな」
「素晴らしき勇者達に認められるのも勇者」
「だからじゃ、これからもよき御仁になられるだろう」
 幸村、彼はというのだ。
「必ずな、政にも励まれてな」
「殿はもう万石取りにされていますな」
 即ち大名に取り立てたのだ。
「そうされていますな」
「それも当然のことじゃ、そこはお主と違う」
「そこでそれがしのことを言われますか」
「言うわ、お主も戦のない時に遊んでばかりでなけれでば」
「大名にですか」
「なっておるぞ、そもそもお主は前田家の嫡男の家系ぞ」
 慶次は前田の長兄の家の者だ、だから前田もこう言うのだ。
「わしが家督を継ぐことになったがな」
「よいことではないですか」
「お主が家督に興味がないからか」
「そうした煩わしいものは性に合わぬので」
 慶次は叔父に笑って話した。
「ですから」
「元々家督は断るつもりであったか」
「只槍を持って暴れるだけ、ならばです」
「わしの方がか」
「家督に相応しいです」
 信長もこう思ってそれで前田に家督を継がせたのだ、これも信長の慧眼の一つだったと言われている。
「叔父上は槍だけでなく采配も政も出来ますので」
「だからか」
「はい、それがしより余程です」
「家督をというか」
「そうです、それでなのですが」
「お主はか」
「今の禄で充分です」
 叔父である彼に笑って話した。
「五千石頂いていますし」
「しかし慶次、わしとて万石取りだぞ」
 これまで黙って二人の話を見ていた奥村が言ってきた。
「それで前田家の者であるお主が五千石はな」
「よくないか」
「政をしてな」
 そうしてというのだ。
「万石取りとならぬか」
「だからわしはそうしたことはな」
「性に合わぬからか」
「そうじゃ」
 だからこそというのだ。
「政はせぬしな」
「家督にも興味はなくか」
「大名にもならぬ」
「それはこれからもか」
「そうじゃ、若し泰平になればな」
 慶次はゆうるりと笑って話した。
「わしは遊んで暮らすとするか」
「今の様にか」
「戦がないと何もすることがないからな」
「全く。戦がなくとも政があるというのに」
 そこで忙しいとだ、奥村は慶次に告げた。 
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