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前世の知識があるベル君が竜具で頑張る話

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ばんさん

「うーん……2日で十万ヴァリスかぁ…せやなぁ…」

「ロキ?」

何時ものようにステイタスの更新をした後、稼ぎの話とリリの話をした。

「んー…よしベル。明日はそのサポーターの女の子と一緒に外食してくるんや」

外食? でもファミリアのルールが…。

「ええか、ベル。金は使わなあかん。そりゃ貯蓄も大切や。でんなぁ、若いうちからそんなんやったらおもろないしある意味不健全や」

「はぁ、なるほど…」

「言うてもベルはそんな店知らんか…よし、豊饒の女主人行ってこい」

「豊饒の女主人に?」

「おう。あそこは普通に入るにはちょっと割高やけど、他の店で同じ質の料理食べよう思うたら五割増しはするでぇ」

なるほど。庶民の手が届く美味しい店ってポジションを占めてるのがあの店なのか。

「わかった。リリを誘って行ってみるよ」

「おう。あ、シルちゃん達に宜しく言うといてなー」












「っていう訳だから、今日は探索の後に食事に行くよ」

バベルの前でリリと落ち合い、昨日ロキにされた話を伝える。

「はい。リリは構いませんが…豊饒の女主人って結構高い店だったような気がします」

「大丈夫大丈夫。流石に二人で10万ヴァリス超える事は無いでしょ」

前に見たメニューでも最も高かったのは4万ヴァリス。

「さ、ダンジョンで今日のご飯代を稼ぎに行こっか」

リリを連れて階段を降りる。

今日は最初から中層狙いだ。

途中襲われたら反撃するけれど、昨日みたいにたくさん呼ぶ事はしない。

「ベル様」

「なんだい?」

「ベル様はオラリオの外からきた冒険者様なのですか?」

「どうしてそう思うの?」

「リリの知るなかにベル様が居ないからです。サポーターというのは存外冒険者より冒険者に詳しいものなのですが、そのサポーターの私が今まで一度もベル様の事を聞いた事がないのです」

そっか。僕は幹部の皆さんのトレーニングで強くなったけど、そんな短期間じゃ情報は出回らないか。

そもそも僕ダンジョンにあんまり潜ってなかったしなー。

「んー。まぁ、そんな所かな。二週間位前に、壁の外から来たんだよ」

「二週間前……」

「だからリリが知らなくても当然だよ」

「所で、ベル様の所属ファミリアは何処なのですか?」

「それは秘密」

「……ヤバいファミリアではないですよね?」

「イルヴィスとかじゃないから安心していいよ」

イルヴィス、というのは昔オラリオで悪事を働いていたファミリア総称だ。

団長が言うには、例の食人花と何か関わりがあるらしい。

そうこうしてる内に11階層まで来た。

「あ……マズイ」

「どうされました?」

リリをしゃがませる。

「あれ、見て」

草の隙間から見える、小龍。

「インファントドラゴンですか…」

「行ける?」

「ベル様は?」

「ドラゴン退治って憧れない?」

お伽噺の英雄の前に立ちはだかるドラゴン。

仲間と力を合わせて立ち向かう英雄達。

「はぁ…ベル様って子供ですよね…」

「いいじゃないか」

「リリは構いませんよ。インファントドラゴンは、別のパーティーに居たときに何度か戦いましたから」

「じゃぁ安心だね」

バルグレンの片方を鞘に戻す。

右手にアリファール、左手にバルグレンの片割れを持つ。

「参る!」

草を掻き分けて駆ける。

インファントドラゴンへ一直線に。

今の僕には小竜がせいぜいお似合いだ。

グオオオォォォォォォオオオ‼

インファントドラゴンが僕に気付いて、咆哮をあげる。

すくみそうな体に活を入れる。

こんなんにビビってちゃ、アイズさんには追い付けない。

ベートさんの背中は守れない。

リヴェリアさんの前衛は務まらない。

僕はロキファミリアの一員なのだから!

インファントドラゴンが姿勢を低くし、尾を降った。

飛び上がって回避。

その勢いのまま、インファントドラゴンの背をアリファールで斬りつける。

即座にバックステップで離脱。

グギャァァァァァァァァァアアア!?

背中に傷をおったインファントドラゴンが雄叫びをあげる。

キッと僕を睨み付ける。

ドラゴンの口が大きく開く。

チッと喉奥に火種が見えた。

リリの前でバルグレンは使えない。

回避一択だ。

横に飛び退くと、箒ではわくように炎が追ってくる。

次第に火の手は弱まり最後には黒煙を上げて止まった。

「いくぞ!」

姿勢を低くし、インファントドラゴンに突撃する。

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ドラゴンが最後の抵抗と、背を向け尾を振るった。

その尾を、アリファールで斬り飛ばす。

ドラゴンめがけて一直線に跳ぶ。

バルグレンを構え…………。

ドラゴンの後頭部から一閃。

着地すると、後ろで重いものが落ちる音がした。

振り返ると、赤いドラゴンの体が白い灰になっていた。

「よっしゃぁ!」

灰の中に手を入れ、魔石を取り出す。

僕の拳よりも大きな魔石だ。

「これがドラゴンの魔石…」

紫色の、キラキラ光る鉱物。

「すごかったですベル様!」

リリが駆け寄ってきてくる。

「わ! おっきな魔石ですね。それだけで10000ヴァリスはいきますよ!」

「へぇー……。じゃぁリリ、大切に持っててね」

「はい!」

竜具を使わないという縛りプレイで中層まで降りてきた。

「ベル様、所でその武器はたいへんな業物に見えますが?」

「これは…そうだね…」

そう、竜具はまさに…

「形見なんだよ」

「形見?」

「ある人のね。その人は、何故か僕にこれをくれたんだ」

自分のクオリアを消して転生させた。

記憶はあっても、僕は俺じゃない。

「よく、わからない人だったよ」

「そうですか…」

その後は、ミノタウロスを狩りまくったり、シルバーバックをぶっとばしたりした。

解体に時間を取られない分、戦闘に集中できた。

時間も時間だし、リリのバックパックがいっぱいになったので、地上に戻る事にした。

途中またインファントドラゴンを見つけたので突撃したらリリに叱られてしまった。

「もうっ! ベル様はなんでそんなに子供なんですか!」

「えー…」

「文句言わない!」

「はい」

一瞬リリが年上なんじゃないかって思ったけど、僕のプライド的に聞けなかった。

ダンジョンの上層、人が多くなる場所に行くと、チラチラとみられていた。

僕とリリの身長もあるんだろうけど、何よりも僕の名前が飛び交っていた。

曰く、ナインヘルの隠し子だとか。

曰く、ヴァナルガンドのツバメだとか。

曰く、悪神のおもちゃだとか。

取り敢えず全部聞かなかった事にする。

「べ、ベル様。ベル様ってもしかして…」

「さぁ、何の事だろうね」















豊饒の女主人に行くと、空いていた角の席に座る。

「あ! ベルさんじゃないですか!」

「どうもシルさん」

銀髪のウェイトレス…シルさんが注文を取りに来た。

「えっと…この前来たばかり…ですよね?」

「ご迷惑でしたか?」

「あ、いえ…そうじゃないんですけど…お金、大丈夫ですか?」

「えっと…それなんですけど、ロキが金は使わないと不健全って言ってまして。
それで今日はパーティーを組んでるこの子と来たんです」

リリはフードを被ったままだ。

「まぁ可愛い子ですね。ベルさんの恋人ですか?」

「そんなんじゃないですよ。パーティーメンバーです」

「うふふ…冗談です。所で今日はウサミミカチューシャは着けてないんですか?」

「ええ、今はリヴェリアさんがいませんから」

リヴェリアさんが居たら多分ウサミミカチューシャはつけさせられる。

あとロキ。あの飲んだくれ。

「そう…なんですか…? その割には…」

シルさんが僕の格好を見る。

ワンピースに兎鎧。

会わせるとドレスアーマーみたいだ。

「あはは…実はクローゼットの中身をロキに全部女物にされてしまいまして。
性能だけはいいので着てます」

「あらあら。じゃぁ今度ウチの制服着てみませんか?」

「冒険者に飽きたらその時は」

「うふふ、予約いただいちゃいました」

クスクス笑うシルさんの表情は純朴で、それでいて色香のある表情だった。

「ご注文はどうしますか?」

「リリ、何か食べたい物はある?」

「えーと…特には…」

まぁ、高いもんね。

「シルさん。クヴァースを二つ。700のステーキとスパゲッティを一つ。取り皿を二つずつお願いします」

「はい。承りました」

シルさんがニコニコしながら厨房に注文を伝えに行った。

「ベル様」

「なに?」

リリが凄く面倒臭そうな表情をしていた。

「ベル様ってやっぱり、ロキファミリアだったんですね」

「そうだよ」

「ロキファミリアがオラリオ外部にスカウトに行ったなんて話は聞きませんが」

「そこら辺はさ、ほら。ね?」

「はぁ…話す気は無しですか」

「ごめんねー。団長達に口止めされてるんだ」

「団長…ブレイバーですか」

「うん」

「そうですか。なら深くは聞きません」

だから私にも踏み込むな。って言いたいのかな?

暫くして、料理が運ばれてきた。

「あのー。パエリアなんて頼んでないですけど…」

「ミアお母さんからサービスですよ。お代は結構だそうです。『たらふく食ってさっさとでかくなんな』だそうですよ」

ミアさんを見ると、親指を上げ白い歯を見せてニカッと笑った。

「カッコいいなぁ…ミアさん。僕もいつかあんな笑顔が出切るようになりたいなぁ…」

「ベルさんは強い女性が好きなんですか?」

「え?」

「声にでてましたよ」

えぇ…恥ずかしいなぁ…。

「カッコいい人が好き…ってわけじゃないですけど、すくなくとも女の人を守れるほど強くないといけないんです。
僕のおじいちゃんが、言ってたんです。『どんなに強い女でも守れるくらい強くなれ。女に守られる男は漢じゃない』って」

だから僕は強くなりたい。

アイズさんを守れるくらい…。

「ふふ…ベルさんも男の子なんですね」

「子供っぽいですか?」

「いいえ。素敵だと思いますよ」

不意にシルさんが僕の耳元に口を寄せた。

「覚めた人なんておもしろくないですから」

「ひぅっ!?」

しっとりと囁かれた言葉にドキッとする。

「それではごゆっくりー」

とシルさんが離れていく。

「からかわれた…」

テーブルに突っ伏す。

「大丈夫ですかベル様?」

「あんまり大丈夫じゃない。心臓がバクバクいってる…まだインファントドラゴンと戦う方がマシ…………」

方向性の違うドキドキだが、やっぱり戦う方がマシだ…。

「食べようか、リリ」

体を起こして、ナイフとフォークを持つ。

「取り敢えずステーキ切るから好きに食べて」

「う……肥りそう」

「このステーキは寧ろ痩せるよ。ステーキの脂より消化の為のエネルギーの方が多い位さ」

「そうなのですか?」

「うん。赤身の肉はね。脂身は肥るけど」

だけど、まぁ……。

リリはもう少し肉着けた方がいいかもね。ちょっと軽すぎるし」

一昨日抱えたリリの体はとても軽かった。

栄養が足りてるか不安だ。

「デリカシーないですよ」

「デリカシーなんて健康の前には塵も同じだよ」

「むぅ…」

取り皿にパエリアを取る。

パラパラしたタイプの米だ。

僕の中の彼の記憶がモチモチの米を所望してるけど…しかたないかな。

「ほら、リリ。食べて食べて」

「あ………はい」

リリの分もパエリアをよそってあげ、スパゲッティを盛る。

「あの…こんなにたべられません」

「ん? その時は僕が食べるよ。今日は動いたからねお腹がすいてるんだよ」

リリはとても少食だった。

胃が小さいのだろう。

ふむ……リリルカ・アーデ……。

身なりは…悪くない…。

言動も丁寧だ。

でも、何か違和感が…ちぐはぐな感じがする。

少し、調べてみるかな…。 
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