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許されない罪、救われる心

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148部分:第十三話 贖罪その十一


第十三話 贖罪その十一

「それは。とても辛かった」
「じゃあ兄として俺があいつ等を叩きのめしてやるんだ」
 兄はここぞとばかりにこう主張する。そこに絶対の正義があるといわんばかりにだ。少なくとも彼はそう思っているのであった。
「妹の仇なんだぞ」
「私が止めてっていってもやるの?」
「うっ・・・・・・」
 だが神無の今の言葉にだ。極月は口ごもってしまった。
 それでも何か言おうとするがだ。それはできなかった。
「それは・・・・・・」
「あの娘達も辛い思いをしてきたのよ」
「悪いことをした奴が責められるのは当然だ」
「それでも限度があるわ」
「限度だと?」
「そうよ、限度よ」
 神無がここで話にだしたのはこのことだった。
「あそこまでやることはないのよ。お兄ちゃんも」
「俺もか」
「バットで。殴ったのよね」
 事件のことは聞いていた。だからこそ言うのだった。
「それも何発も何発も」
「ああ、そうだ」
 ここでだ。その子とを認めた兄だった。
「そうしてやった。あれで死ななかったんだな」
「あの娘、頭から血を流したし」
 神無はこのことから話した。
「それに身体のあちこち骨折したり骨にヒビが入ってたのよ。下手したら死んでたのよ」
「ああ、殺すつもりでやったんだ」
 剥き出しになった怒りと憎しみの顔でだ。彼は言った。
「本当にな」
「じゃああの娘達よりずっと酷いじゃない」
「御前の為にやったんだぞ」
「それでも同じよ。いえ、ずっと酷いわ」
「何処が悪いんだ、それの」
「わからないのね、お兄ちゃんには」
 妹もだ。兄のその言葉と表情を聞いて見てきてだ。遂に言った。
「わからないならいいわ」
「いいって何がだ」
「今度あんなことしたら」
 その時はというのであった。
「お兄ちゃんを許さないから」
「許さないっていうのか」
「そうよ、許さないわ」
 神無は純粋に強い顔で兄に告げた。
「わかったわね、これで」
「くっ・・・・・・」
「お兄ちゃんを私が警察に突き出すから」
「御前の為なんだぞ、これは」
「それでもよ。絶対に許さない」
 如月達に対したのとはうって変わってきつい口調でだ。兄に告げた。
「わかったわね」
「糞っ、じゃあいい」
 兄は妹の剣幕の前に忌々しげに言い捨てた。
「御前の好きなようにしろ」
「何かあったら本当に許さないからね」
 妹は念押しでまた言った。
「わかったわね」
「何であんな奴等を許したんだ」
「それが人として当然だからよ」
「当然だと!?」
「そうよ、当然よ」
 そうだというのであった。
「だからなのよ」
「やられたらやり返すのが人間だ」
 これが彼の主張だった。
「それがな」
「そうかも知れない。けれど」
 まだ神無は言う。
「私、そんなことはしない」
「御前が間違ってるんだぞ」
「間違っててもいい。けれどしないわ」
 こう兄に返した。
「そんなことは」
「一体何を考えてるんだ」
「私が正しいと思っていることをしているだけよ」 
 それだけだというのだ。
「だから。私はもういいの」
「俺にもさせないのか」
「ええ」
 強い顔で兄を見返しての言葉だった。
「絶対に」
「勝手にしろ」 
 極月は遂に言い捨てた。
「しかしまた何かあったらな」
「あったら?」
「その時は本当に容赦しないからな」
 極月は目を怒らせて妹に言った。
「俺はあいつ等を。絶対に」
「それもさせない」
 やはりこう言う妹だった。
「その時も。もうお兄ちゃんにはさせない」
「また何かあってもか」
「絶対にない。それに」
「それに。何だ」
「あの娘達も傷ついてきたのよ」
 彼女がその目で見た。だからわかったことだった。
「あれから。お兄ちゃんに襲われただけじゃなくて」
「あんな奴等がそうなるのは当たり前だ」
「その考え変わらないのね」
「御前は俺の妹なんだぞ」
 これに尽きた。だからこそだ。極月も真剣に言うのである。
「それでいじめられていて何もしないでいられるか」
「その気持ちだけでいいわよ」
「そうか、そうの考えは変わらないんだな」
「お兄ちゃんと同じよ」
「ああ、そうか」
 ここでだ。兄も遂に踵を返した。そうしてだった。
 妹に背中を向けて家の置くに入りながらだ。言うのだった。
「じゃあ勝手にしろ」
「そうさせてもらうわ」
 こう言い合ってもだった。神無は決めた。この話はこれでいいのだと。そう決意してそのうえで自分の部屋に戻った。もう迷いはなかった。


第十三話   完


                   2010・10・6
 
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