許されない罪、救われる心

第十話　襲撃の後でその十

「そうです。あの」
「よく来てくれたわね」
　如月の母が出迎えてくれた。かなり疲れ憔悴しきった顔であった。やつれそのうえで肌は荒れ髪も乱れている。目の下にはクマまである。
「いらっしゃい」
「は、はい」
「それで何の用かしら」　
　彼女はそのやつれきった顔で如月に言ってきた。
「あの娘なら」
「あの、部屋に」
「部屋？」
「如月の部屋に行っていいですか？」
　こう母に話すのだった。
「用事がありまして」
「用事？」
「そうなんです。貸してる本がありまして」
　こういう風に理由をつけたのである。
「それでなんですけれど」
「それでなの」
「はい、それでなんです」
　また話すのだった。
「中に入っていいでしょうか」
「ええ、いいわよ」
　如月の母は弥生の申し出をすぐに受けてくれた。
「それじゃあね」
「はい、それじゃあ」
「どうぞ」
　疲れきって、無理に笑った感じの顔であった。
「本、持って行って」
「わかりました」
「それでだけれど」
　ここでさらに言う如月の母だった。
「あの娘は今はいないわよ」
「はい・・・・・・」
「それでもいいのね」
「はい、御願いします」
　こう話してからだった。弥生は如月の部屋に入った。かつてはそこでいつも仲良く遊んでいた。暫く来ていなかったがやっと来たのであった。
　しかしだ。その中はだ。
「な、何これ・・・・・・」
　無惨なものだった。部屋の中の全てが壊され荒らされていた。机も椅子もベッドも。無惨に破壊され本もポスターもアルバムも引き裂かれている。　
　そうしてだ。その中でとりわけ。
　アルバムが酷いことになっていた。引き裂かれ方が尋常ではなかった。
　笑顔で笑う子供の頃の如月の顔が二つになっていた。そこには弥生自身もいた。その笑顔が引き裂かれているのが目に入った。
　そして他の場所ではだ。如月が命と同じだけ大切にしていた自分と皆が一緒に映っている数多くの写真も全て引き裂かれていた。そこには無惨な靴跡すらあった。
「如月・・・・・・。こんなことまで・・・・・・」
　あらためて彼女が陥っている地獄を知ったのだった。そのあまりもの無惨さにその場で立ち尽くす。言葉さえ失うまでであった。


第十話　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　２０１０・９・１３