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木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
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第一部
第三章 パステルカラーの風車が回る。
  得たもの、失ったもの

「お互い、似たもの同士……これで最後にしようぜ」

 チャクラを切らしたガマブン太が消え、お互い樹上に吹き飛ばされたナルトと我愛羅は額からだらだら血を流しながらにらみ合っていた。双方息は荒い。
 ざっ、と身構え、そしてどちらからともなく、飛び上がった。

 +

「封印――――ッ!」
「やめっ……うあぁあああああああぁあぁぁぁああああッッ!!」

 〈誰か〉は死と血が好きだ。魂も嫌いではない。
 〈忍の神〉が〈白い大蛇〉の腕の魂を引き出した。契約上、〈誰か〉は部分の魂しか取り出せない、そういう約束。〈誰か〉は〈白い大蛇〉の腕の魂を切り落とした。
 〈忍の神〉が叫ぶ。〈誰か〉は〈森の創造者〉と、〈葉脈の水使い〉と、〈忍の神〉と、そして〈白い大蛇〉の腕の魂をのみこんだ。生贄となった〈鈴の妬み屋〉と〈槍雨降らし〉の命も一緒に。

「木ノ葉崩し、ここに敗れたり……ッ!」

 〈誰か〉は〈忍の神〉の魂を時間をかけてゆっくりと食べている。この間にも伝わってくる死や絶望は、いつも〈誰か〉を嬉しく、楽しくさせてくれる。〈白い大蛇〉の両腕が黒く変色し、だらりと下がった。
 腕をとられた〈白い大蛇〉が怒り狂って喚き散らす。〈忍の神〉の魂を食べる〈誰か〉に、〈忍の神〉の思念が伝わってくる。
 彼の世界には、もう〈白い大蛇〉の怒り狂った声は聞こえない。力を失ってゆっくりと目を瞑る〈忍の神〉が最後に思い出したのは、白い肌に黒い髪の少年だ。それは幼い頃、まだ狂気に取り付かれてはいなかった頃の〈白い大蛇〉だと、〈誰か〉は検討をつける。人間からみて「可愛い」と分類されるらしい、顔つきをしていた。〈誰か〉にはただ、その命は美味しそうだということくらいしかわからなかったけれど。

 +

  木ノ葉あるところに火はもゆる。
  火の影は里を照らし、
  また木ノ葉は芽吹く――
 
 +

「ぐあッ――!」

 殴り飛ばされたのは、我愛羅だった。遥か高みから落下し、地面に思い切り体をぶつけても死なないのは流石と言ったところで、地面に横たわった我愛羅は木ノ葉に来てから随分と沢山の人に傷つけられたものだと、また痛み出した右腕を押さえながらナルトの方を振り向いた。

 +

 優しげな、ひどく優しげな笑みを浮かべながら倒れた三代目火影の姿を、大蛇丸は爬虫類の瞳で見ていた。ぽとり、もう何ももてなくなった腕から落ちていったパステルカラーの風車が異様に眩しい樹海の中、突如として声が響き渡る。

「三代目っ――!!」

 三代目の死骸にすがり付いたユナトは、まるで幼い怯えた少女のように涙をこぼしながらその体にしがみついた。

「ヒルゼン先生!! 大蛇丸、お前――!」
「綱手……それに、自来也」

 大蛇丸を思い切り睨みつける綱手と自来也の姿に、大蛇丸は目を細めた。二人がくっと歯を食いしばる。自来也が綱手に視線を交わす。頷いた綱手がユナトと三代目の元へと駆け寄り、どけ、といった。

「治療するッ……」
「……無理よ。老いぼれは死んだわ――『屍鬼封尽』を使い、私の腕を奪って、ジャシンに、死神に魂を取られて死んだわ」

 だらりと力を失った両腕を下げながら大蛇丸が言った。自来也がそんな大蛇丸をキッと睨みつけて印を組み始め、綱手がユナトを振り返って、まるでそれを否定してほしいとでもいうような顔をする。

「……言ってることに、間違いはないです……私じゃ、私の術じゃ結界を破ることができなかった……私はただ『聴』いてることしか出来なかったです……ごめんなさい……ごめんなさい……! ずっとずっと聞こえてた……ッ! 何から何まで! でもわたし、何も出来なかった……あの時と同じで……!」

 三代目の冷たくなった胸元に頭を埋めながら涙を零し続けるユナトの姿に綱手は言葉を失う。振り返った先で、自来也が火遁を繰り出した。

「大炎弾――ッ!!」
「土陸返しッ!」
「粘金の盾!」
「羅生門!!」
「水陣壁!」
「百物語!」

 大蛇丸の前に立ちはだかったのは、音忍たちだった。
 オレンジ色の髪の少しふとめな男――次郎坊が土遁を繰り出し、六本の腕を持つ者――鬼童丸が金色の盾を作り上げる。二つの首を持つ水色の髪の少年が鬼の形相の門を召喚し、鬼灯弦月の水遁が突如として飛沫をあげる。がっと地面から飛び出た蜘蛛の足が自来也へと襲い掛かる。
 一瞬の隙を作り上げただけに過ぎなかったが、それでも充分だった。蓮助とカブトが大蛇丸を支えて遥か青空に飛び上がり、大蛇丸を狙い打つ木ノ葉の忍び達をその他の者たちがなぎ払っていく。
 砂忍と音忍がそれを見て一斉に退散しはじめる。
 そして後には、破壊された木ノ葉と、死体と、ユナトの悲痛な泣き叫ぶ声だけが残った。

 +

 ざらり、と砂が瓦解する。落下するサクラを受け止めて木の上におろし、サスケはチョウジとシカマルに「サクラを頼む」と短く一言、告げた。二人が到着していることに驚く暇もないまま、サスケは飛び上がる。はあ、とシカマルが溜息を吐いて、ホルスターから治療用の道具を取り出した。

「チョウジ。応急処置、やるぞ」
「うん。わかってる、シカマル」

 医療忍者じゃない分上手くやれないが、やらないよりはマシだろう。いままで木ノ葉の方からずっと聞こえていた破壊の音は聞こえない。

「終わったのかな……全部」

 チョウジの不安げな声。いいや、とシカマルは首を振った。

「これからだよ」

 +

 なぜ、と我愛羅の脳裏は再び疑問符で埋め尽くされた。あそこまで鮮明だった感嘆符はナルトが自分に頭突きを食らしてきたあの時に砕けてしまっていた。ずるずると這ってこちらにやってくるその姿に我愛羅は歯を食いしばる。だめだ、と自分に言い聞かせた。疑問符に埋め尽くされて、埋め尽くされて我愛羅はいずれ自分が存在しているのかどうかわからなくなってしまう。そんなのは嫌だ。消えたくない。存在していたい。
 僕を。僕を見て。
 ――消えない……、消えない……、消えて、たまるか……ッ
 淀んだ水底は息苦しい。吐いた息が泡になって消える。だめだ、もう一度自分に言い聞かせる。消えたくない。消えたくない。存在していたい。
 消えたくない!

「く、くるな……!」

 我愛羅が声をあげる。それでもナルトは這って進み続けた。

 +

ずっとずっと、里の皆が嫌いだった。
自分の中に九尾がいると知り、そして自分を認めてくれる人が増えた今だからこその考えだが、きっと彼らに悪意はなかったのだと思う。大災害を起こした化け物を宿した子供だなんて、もしかしたら自分だってあまりお近づきにはなりたくなかったかもしれない。
いなくなれ化け物。そう呟かれる言葉の数々に涙を流しながら、悲しみながら皆を恨み続けていた。
きっと我愛羅もそうだったのだろう。我愛羅は悲しみ、恨み、憎み、怒り、そして狂気に染まっていった。ナルトがあくまで見てもらいたいと、皆に認めてもらいたいと思い悪戯をしだしたのとは対照的に、我愛羅は自分が存在していることを実感できればいいと、人を殺し始めた。 
一人は『みんな』に認めてもらいたいと望み、そして一人は『自分』を実感したいと望んだ――
 白の言葉が思い出される。彼が父親に殺されかけ、父を殺したその時、彼は誰にも存在を必要されなくなることが一番悲しいことだといっていた。そんな時彼を必要としてくれた再不斬が、白は大好きで、だから彼を死ぬまでずっと守り続けたのだ。
 自分も何度も思ったことがある。自分の存在している意味がわからなくなって、数多もの疑問符から逃げ出そうと必死になって。それでもある偶然からチョウジやシカマル、キバとちょっと仲良くなって、サクラが好きになって、サスケの孤独を目にして、イルカに守られて。沢山の繋がりがあったからこそナルトは疑問符を打ち払う一つの感嘆符を掴み取った。
 火影になって、皆を認めさせてやる! という、感嘆符。
 今では感嘆符は数え切れないくらいに増えている。疑問符はもうどこにもない。サクラを守る、サスケに勝つ、カカシを越す。数多もの決意を秘めた感嘆符は、今も増殖を続けている。
 我愛羅もきっと、自分の存在している意味がわからなくなったことがあったのだろう。だからこそ人を殺すことでその意味を探し出そうとした。疑問符に溺れそうになって、必死で掴み取った感嘆符が人を殺すことで自分の生を実感すると、そういった歪んだものであったからだ。
 ネジだってそうだったのだろう。宗家の為にあっさりと影武者にさせられてしまう分家の命は一体なんなんだと、どうして父は死なねばならなかったのだと、沢山の疑問符を抱え、そして彼はそれを運命と名づけた感嘆符で一掃することに決めたのだろう。

「一人ぼっちの……孤独は、半端じゃ、ねえよな……」

 一人寂しげに落日を眺めるサスケの姿や、自分が再不斬に尽くす理由を語った白の顔や、何故ヒナタにそこまでしたのかと咎める自分たちに向けてきたネジの目や、サスケやサクラを傷つけこちらに向かってくる我愛羅の瞳の狂気の奥が脳裏に浮かぶ。
 暗く淀んだ水底は息苦しく、辛い。

「なんでかなあ、お前の気持ちは……痛いほど、わかるんだってばよぉ」

 不意にナルトの瞳が潤んでいることに気づき、我愛羅は息を呑んだ。ナルトはとどめを刺しにきたのだろうとばかり思っていたのに。

「でも、今の俺にはもう……大切な人達が出来たんだ」

 ぐっと体を起こす。

「俺の大切な人たち……傷つけ、させねえ……!!」

 もしやったら、自分が死んでも、お前を殺してでも、止めて見せるぞと強い決意を秘めた目でナルトは言い放つ。なんで、と我愛羅の口から疑問符が零れた。

「お前はそんなに、他人のために戦うことができる……!?」

 だって彼らは、ただ同じ里の仲間ってだけじゃない。
 暗く淀んだ水底から引き上げてくれ、水面まで泳ぐ術を教えてくれた、大切な大切な仲間なのだ。

「…………」

 我愛羅は夜叉丸の姿を思い出した。今までは「優しそうな」というだけで具体的な顔を持たなかった夜叉丸の顔がはっきりと思い出される。もう彼を憎いと思う気持ちは残っていなかった。
 ただわかったのは、ナルトは――愛するものを守りたいと、大切なものを守りたいと、そう思うが故に強いのだと。そう思うが故にもっともっと強くなりたいと、思えるのだと。
 そう、思えた。

「もういい、ナルト」

 這って進み続けるナルトの前に、サスケが飛び降りた――のと同時に我愛羅の傍に二つの影が飛び降りる。シノとキバに倒されたカンクロウと、チョウジとシカマルに倒されたテマリだった。自分の弟を傷つけた者たちをキッと睨みつけ殺意を丸出しにする二人に、我愛羅は消え入りそうな声で言う。

「もういい……やめだ」
「我愛羅」

 カンクロウがいい、二人が振り返った。始めてみる弱りきった弟の姿に二人は目を見開き、やがてカンクロウが「わかったよ」と呟いた。我愛羅を支えて立ち上がる。サクラを負ぶって着地したチョウジにシカマルがすっと目を細めた。
 カンクロウが、言った。

「テマリと我愛羅を生かしてくれてありがと……じゃん」

 本来ならば殺されても何の文句も言えなかった自分たちだ。けれどシノとキバは見逃しておいてくれた。助けはしなかったが、殺しもしなかった。テマリも、シカマルとチョウジは彼女が気絶してからは一切危害を加えなかったという。

「私からも、我愛羅とカンクロウを殺さなかったことに礼を言おう」
「カンクロウ……テマリ」

 テマリもまた静かに言う。我愛羅が目を見開いた。
 ナルトはそれを見て、ちょっとだけ嬉しそうな顔をした。
 我愛羅も見つけたのだ。自分を大切に思ってくれている、人たちを。

「サクラはもう大丈夫だ、ナルト……ゆっくり休め」

 サクラを守ることが出来たこと。
 そして、自分とよく似た我愛羅が、淀んだ水底から水面へと視線を向けることが出来たこと――
 その両方に穏やかな笑みを浮かべながら、ナルトはそっと意識を手放した。
 
 

 
後書き
ヒルゼンが死ぬ前に大蛇丸の子供の頃を思い浮かべるシーンが切なくて鼻の奥がツーンと来ました。やっぱり弟子だったんだもんなあ……と思います。
ジャシン視点初挑戦ですが、めんどくさいですねこいつ。三代目の「木ノ葉あるところに~」の奴が大好きです。
砂の三兄弟のカンクロウとテマリの所は、なんかむしゃくしゃして加えました、すいません。
取り合えず木ノ葉崩しはこれにて終了……ということで、次回から第四章開始です。 
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