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FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~

作者:山神
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瞬策

二人のドラゴンの子が落ちたその頃、この世界に残る本物のドラゴンは、目の前にいる難敵を見下ろしている。

(我の姿を見ても動じない精神力・・・いや、むしろこの程度では満足できないと言わんばかりの目・・・)

これまでの多くの人間は自分に平伏してきた。いや、人間だけではない。かつて世界を支配していたドラゴンもその他多くの生物も・・・皆彼を見ただけで萎縮し、恐怖し、震えていた。

だが目の前の男はどうだろう。恐怖するどころか、力を高めていくと逆に表情が緩んでいくではないか。それはひきつっている様子など微塵も感じられない。ただ純粋に、強き者と戦いたい・・・それゆえの目であるのがすぐにわかった。

「普通ではないな、貴様は」
「最高の誉め言葉だ」

ニヤリと不敵な笑みを浮かべる天海。それを見ただけでわかる・・・このまま戦ってしまっては、いずれ足元を掬われる。

「仕方あるまい。我の本気を見せてやろう」

アクノロギアはそう言うと、翼をはためかせて上空へと飛び上がる。

「滅せよ人間。エターナルフレア」

アクノロギアを包み込むような光が現れたかと思うと、すぐにそれは大地めがけて降り注いでくる。

「ほう・・・これはまた・・・」

精度よりも威力を重視しているからなのか、天海の周辺の広い範囲に落とされる魔力の塊。その威力は凄まじく、大地は揺れ、大きく亀裂が入っている。

「なかなかのものを持っている」

砂煙が晴れた大地。そこにいるのは傷一つない天海の姿だった。
















一方その頃、ティオスに敗れたこの少年は・・・

「シリルー!!」

意識を失い地面に沈んでいるシリル。そんな彼の元に駆けてきた藍髪の少女たち。

「ちょっ・・・」
「シリル!!」

慌てて近付いてくるシェリアとウェンディ。その後ろには、先程まで意識を失っていたが、ようやく立ち上がることができた仲間たちの姿があった。

「ティオスはどこにいる!?」

辺りを見回すエルザ。他のメンバーも警戒してはいるが、もう既にティオスはこの場を離れている。

「シリル!!しっかりして!!」
「待ってて!!すぐに治すから!!」

二人で治癒魔法をかける天空シスターズ。だが、悲しいかな、少年の傷はあまりにも深すぎた。

「全然治らない・・・」
「このままではシリルが・・・」

治癒ができなければ命の保証もできない状態。もっとも、ティオスはあとで彼も吸収しなければならないのだから、戻ってくるまでは息が続くようにダメージも調整しているはず。

「一夜!!お前の回復の香り(パルファム)で・・・」
「メェーン・・・もう全部使いきってしまった・・・」

回復役は他にはいない。このまま彼が回復することはできないのかと誰もが諦めかけた・・・その時だった。

「師匠!!」

救世主はいつも、遅れてやってくる。

「ヒビキ!!レン!!イヴ!!」
「ジェニーもいるのか」

そこにやって来たのはクリスティーナに乗った青い天馬(ブルーペガサス)の面々。

「ヒビキ!!私の回復の香り(パルファム)を持ってきてくれ!!」
「わかりました!!先生!!」

すぐに戦艦の中へと戻っていくヒビキ。クリスティーナが地上に着くと、真っ先に彼が・・・

「待って」

出ていくよりも先に、一人の女性が降りてきた。

「アンナさん!!何を・・・」
「アンナ・・・さん?」

アンナと呼ばれた女性は謎の人物の登場で唖然としている魔導士たちの間を抜けていき、シリルを抱き抱える。

「染みるけど、我慢してね」

彼女はそう言うと何やらポケットから取り出し、少年に振り掛けていく。すると、ボロボロだった彼の体が次第に元通りになっていくではないか。

「なんだ?一体どうなっている?」
「なんだ?その薬は」

突然の謎の女性の登場に目を細めているリオンとラクサス。彼らの問いに、アンナと呼ばれた女性は少年を抱き上げながら答える。

「私の名前はアンナ・ハートフィリア。この子たちをこの時代へと連れてきたものよ」
「「「「「!?」」」」」

彼女の言葉の意味を理解することができない魔導士たち。

「これは不死の薬(イーモンスタリティ)。400年前に私たちが作り上げた絶対無二の超回復薬よ」
不死の薬(イーモンスタリティ)?」
「どこかで聞いたことがあるような・・・」

かつてシリルが戦闘不能になった時、ホッパーから渡された薬。それをアンナと呼ばれるこの女性も持っていたのだ。いや、正確には彼女がもともと持っていたといった方が正しいのかもしれない。

「おい、見てみろよ」
「シリルの傷が・・・」

薬を飲まされたシリルの傷が少しずつ癒えていくのが見て取れる。

「これで大丈夫ね。でも、まだしばらくは寝かせておかないとね」

そう言って彼女は彼を背負おうとした。だが、それをラクサスが慌てて彼を引き剥がした。

「さっきの続きだ。この時代に連れてきたってのは、どういうことだ?」

彼女の正体もよくわかっていない青い天馬(ブルーペガサス)以外の面々は鋭い目付きでアンナを見据えている。

「物事には順序がある。先に説明しないといけないようね」

アンナはこれまでの経緯を話し始める。シリルたちはこの時代の子供たちではないこと。400年前、体内にドラゴンたちを宿してこの時代へとやって来たこと、アクノロギアを倒すためにエーテルナノが豊富なこの時代が選ばれたこと・・・

「本当はもっと早くにみんなと会う予定だった。でも、この子たちの様子を見ていたら、もう少し接触を避けた方がいいと思ったの。本当はあなたたちを育てるために来たんだけどね」
「アンナ・・・先生?」

彼女の言葉は信じがたいものではあった。だが、ウェンディの表情は何かを思い出したようなものへと変化しており、全員がその言葉が真実であることを察した。

「私たちはアクノロギアを倒すためにこの時代へとやって来たの。400年前、あの当時ではとても対抗できる状況ではなかったから」

彼女たちがいた時代のエーテルナノではとても低くなってしまっており、ドラゴンたちは本来の力を発揮することができなくなっていた。

「私はあなたたちを探すのに多くの時間がかかってしまったわ。ただ、その代わりに私はあるものを見つけたの」
「あるもの?」

小さくうなずくアンナ。彼女はこれからの未来を見出だすための最大のキーワードを挙げた。

「時の狭間。アクノロギアを封じ・・・無に還せる唯一の希望」

ティオスがこの時代へと残り続けるために利用した時の狭間。アンナもそれを見つけていた。アクノロギアを倒せる唯一の手段・・・と彼女は話した。だが、結果的にこれがアクノロギアに使われることはないことをこの時彼女は予想することができなかった。



















「この扉をくぐった時、この世界は崩れ去り、僕の・・・新しい世界が始まる」

ナツを倒したゼレフはかつての過ちをやり直すために次なる世界へと足を踏み入れようとしていた。

「僕は僕の記憶を引き継いだまま、僕をもう一度やり直す。もう二度と間違いはしない。この世界を救うんだ」

正しい時の流れへとすべてを戻すために強い決意を口にしたゼレフ。

「ありがとう、この世界」

メイビスとの出会いの記憶・・・たくさんの思い出を胸に秘めこの世界をあとにしようとしたゼレフ。だが・・・

「じっちゃんはいつも言ってたんだ・・・」

聞こえるはずのない声が彼の足を引き留める。

「その門を出るときに誓え、必ず帰ってくることを。
誓え、生きることを」

倒されたはずのナツ。だが、彼はこの場にいないルーシィの手によって命を救われた。何度も救われてきた命。彼はそれを受けて再び燃え上がっていた。
















タッタッタッタッタッ

シリルを沈めたティオス。彼はどこに向かっているのか、ゆっくりとした足取りで進んでいた。

「ナツが蘇ったのか。シナリオ的にゼレフが殺られるのは時間の問題だな」

そう言うと彼はその場で立ち止まり額に指を当てる。

「もう始末するのは奴等だけになった。そのあとは虐殺するだけだな」

そう言ったティオスは時の狭間を通り抜けある場所へとワープした。














「あの子の狙いはアクノロギアね」

天界の泉から地上を見守っているヨザイネ。彼女はティオスの狙いをすぐに理解した。

「アクノロギアを倒せるのは奴らだけ・・・だが、肝心の奴等はどうやって倒すか・・・だな」

共に見ているドラゴンたちもオーガストも全くもって見えない勝ち目を懸命に探している。

「見つけたところで意味ないじゃん。俺たちはもう向こうに声を届けることはできないんだから」

現実的なヴァッサボーネの言葉。それを聞いた彼の姫君はクスリと笑った。

「あら、そんなことないわよ。何ならお話しさせてあげましょうか?」
「へ?」

ヨザイネのその発言に目をぱちくりさせていると、そんなのお構い無しに彼に指を向ける。すると・・・

ポンッ

突如ヴァッサボーネがその場からいなくなった。

「何をした?ヨザイネ」
「フフッ。ちょっとだけまた天界条例を破っちゃった~♪」

ニヤニヤと笑っているヨザイネは泉に指先を当てると、突如映る景色が別物へと変化する。

「もう時間もない・・・あなたの奇想天外さに今回は賭けることにするわ、ヴァッサボーネ」














「・・・うっ・・・」

ゆっくりと目を開いていく水色の髪をした少年。彼は自分がどこにいるのか体を起こして確認する。

「どこだ?ここ」

彼が目覚めたのは自分では全く身に覚えがない水辺の近く。マグノリアでもフィオーレでも、一度も見たことがない。

「あ!!ティオスは!?」

すぐさま立ち上がり辺りを見渡すが、一向にティオスの姿が見えない。それどころか人の姿がどこにも見当たらない。

「なんだここ・・・一体どこなんだ・・・」

自身の現状が理解できないシリルは唖然としていることしかできない。ただ呆然としている彼の元に、突如光が舞い降りる。

「なるほど・・・よく考えたものだ」

光が晴れるとそこに現れたのは水色の体をした巨大なドラゴン。

「ヴァッサボーネ!!」

父である彼の姿を見たシリルは嬉しそうな顔を浮かべた。だが、冷静さを取り戻すと彼は気になる点を問いかけた。

「なんでここにいるの?」

死んだはずの彼がここにいることが疑問でならない。それを聞いたヴァッサボーネは、一つ息をついてから話し始めた。

「ここは恐らくお前の意識の中だ」
「俺の?」
「そうだ。ヨザイネが俺をお前の中にもう一度送り込んだんだろうな」

死者を元の世界に送り返すには大きな代償が伴う。だが、この方法であればなんとかできると踏んだヨザイネは彼をシリルの中へと送り込んだ。

「なんでお母さんがヴァッサボーネを?」
「ティオスを倒すための策を授けるためにな」

その言葉でパッと笑顔になるシリル。両親からの必勝の策となればそれは大きな希望になる。

「それで!?どうやったらティオスを倒せるの!?」
「知らん」
「・・・は?」

目が点になる。その息子の姿を見ても平然としているヴァッサボーネ・・・それを見てシリルは苛立ちを爆発させる。

「なんだよ!!期待させておいてそれで終わりなのかよ!?じゃあ一体なんでここに来たんだよ!!」

我が子ながら少々呆れてしまった。果敢に挑んでいた姿はどこへやら、父の姿を見るや子供へと変貌してしまうその幼さに。

「・・・お前はどうなんだ?シリル」
「??」
「いつもの瞬策はもう尽き果てたのか?」

妖精の尻尾(フェアリーテイル)はこんなピンチもいつも切り抜けてきた。それは彼らならではの精神力はもちろん、その時々で輝く閃きがあったからだ。

「俺たちがやれることはもうない。ここからの道を作るのはお前たちなのだから」
「・・・」

シリルは顎に手を当て頭をフル回転させる。自分にできる瞬策・・・そんなものがあるのかどうか・・・

(まぁ、そんな簡単に出てくる訳はないだろうが・・・)

この間に何か策でも考えるかと思ったヴァッサボーネ。しかし・・・

「ある・・・勝てるかもしれない方法が!!」
「・・・ほう」

目をランランと輝かせて父を見上げる息子。予想外の頭の働きに驚愕させられたが、このあとに放たれる息子のとんでもない作戦に驚かされっぱなしだった。




 
 

 
後書き
お久しぶりです。
色々あって今日ようやく更新できました。
ここからいよいよ佳境に入ってきます。
そろそろフィニッシュになるのかなぁ?とも思ってます。 
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