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こくり婆

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第一章

                        こくり婆
 涼風リィナ、本名涼風李衣菜と真矢マリン、本名真矢真鈴はアイドル活動に励んでいた。その実力は確かで人気も出て来ていた。
 そお二人が東京の仕事をしていた時にこんな話を聞いた。
「本所七不思議ねえ」
「そんなお話があったのね」
 二人は仕事帰りマネージャーと共に居酒屋で飲みつつ仕事の休憩時間で聞いた話をしていた。二人共もうアイドルのメイクから化粧を落とし地味な髪型と服装になっていて一見するとアイドルではなく普通の女子大生に見える。
「東京には」
「これが七不思議の元なんてね」
「あの、あれよね」
 リィナは白ワインを飲んで焼き鳥を食べつつ言った、二人とも二十歳なので町の条例で十五歳以上は飲酒可能な八条町以外で飲んでも大丈夫だ。
「よなき蕎麦とか足洗いにね」
「置いてけ堀とかね」
「色々あるわね」
「ええ、けれどどれもね」
 これといってとだ、マリンはリィナにロックの梅酒を飲みつつ言った。
「何かパンチに欠けない?」
「そうよね、妖怪が出て大暴れとかね」
「人食べるとか百鬼夜行とか」
「そういうお話じゃないからね」
「どうにもね」
「ほら、京都だったら」
 リィナは自分達が所属している事務所の本社がある大阪に程近く彼女達も仕事でよく行くこの街の話をここで出した。
「もうそんなお話滅茶苦茶多いじゃない」
「というかあそこあり過ぎでしょ」
 リィナはマリンにこう返した。
「その百鬼夜行とか鬼とか土蜘蛛とかね」
「幽霊のお話だってこれでもかってあって」
「もう幾らでもあるじゃない」
「七不思議どころじゃなくてね」
「しかも怖いし」
 本所七不思議と違ってというのだ。
「ああわの辻のお話とかね」
「藤原氏に祟るあれね」
「蘇我入鹿とかが出て来る」 
 藤原氏に怨みを持つ者達が団体で藤原氏の屋敷の門に集まり怨念をぶつける話だ、日本の古典に書かれている話である。
「あれも怖いし」
「他にも一杯あるからね、あそこは」
「酒呑童子も出たしね」
「もうこれでもかって出てるから」
「もう本所七不思議ってね」
「愛嬌あるわね」
「まあそうね」
 マネージャーもここで二人に言ってきた、見れば焼酎を飲んでいて肴は鶏の唐揚げである。
「こっちの怪談は愛嬌があるわね」
「そうですよね、京都と比べると」
「全然ですよね」
「京都は東京よりずっと歴史が深いから」 
 それだけにというのだ。
「色々あったからね」
「怨念とかも積もってて」
「物凄いんですね」
「そうよ、あと丁度鬼や土蜘蛛が多い時代に都だったから」 
 平安時代のことに他ならない、一説にはこうした妖怪達はまつろわぬ民だったという。
「鵺も出たし」
「鵺は怖くないですけれどね」
「特に」
「ええ、けれど京都はね」
 とにかくこの街はというのだ。
「色々あっただけにね」
「幽霊も妖怪も多くて」
「力があるんですね」
「そういうことよ。身近にね」
 それことというのだ。
「幽霊や妖怪がいる街よ。ただね」
「ただ?」
「ただっていいますと」
「貴女達が今住んでる大阪もよ」
 この街もとだ、マネージャーは二人に話した。
「前に見たでしょ」
「輪入道ですね」
 マリンはホッケの開きを食べつつ応えた、彼女の大好物だ。 
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