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子供を生んだフライパン

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第二章

「返せないです」
「フライパンは銅で出来ているのに死ぬものか」
 男はアブヌワズに眉を顰めさせて返した。
「そんなことは有り得ない」
「いえいえ、しかしです」
「しかし?」
「フライパンは子供を生んでいますよ」
「前に貸した時の話じゃないか」
「はい、子供を生むなら死ぬことだってありますよ」
「銅で出来たフライパンがかい」
 男はアブヌワズに懐疑的な顔で応えた。
「そうなるのかい」
「そうですよ、普通にです」
「あるのか」
「貴方はこの前生まれたことを信じましたね」
「それならか」
「死ぬことだって信じられるじゃありませんか」
「そんなものだろうか」
 男はアブヌワズの言葉に前以上に不思議なものを感じた、だがだった。
 ふと考えてみてだ、納得した顔になって彼に言った。
「いや、一つはわし一つがあんたのものになったと思えば」
「フライパンがですね」
「それならいいか。本当にフライパンが子供を生んだかはともかくとして」
 男は流石にそれはないと思った、そしてフライパンが死んだこともだ。
「あんたはフライパンを手に入れた、わしは元のままだ」
「それならですね」
「わしは損をしていないしあんたは得をした」
「有り難いことに」
「ならいいな、あんたの得はあんたの知恵故かどうかはともかくとして」
 どうも変な話術と思いつつも彼に話した。
「あんたはフライパンを手に入れた、それならな」
「いいですね」
「いいか、しかもあんた小さいフライパンを借りたな」
「子供の方を」
「なら余計にいい、あんたはその小さいフライパンを使いな」
「それでは」
「それじゃあな、それでだが」
 ここで男はアブヌワズにあらためて尋ねた。
「あんたそのフライパンで何を作るんだい?」
「お料理ですか」
「そうさ、一体何を作るんだい?」
「その時に思いついたものを」
 アブヌワズは男に笑顔で答えた。
「作ります」
「そうするのか」
「卵を焼けばお肉も焼きますし」
「野菜もだな」
「何でも。そして今は」
「何を焼くんだい?」
「卵を焼くつもりです」
 これをというのだ。
「そう考えています」
「卵か」
「そうしようと考えています」
「鳥が生んだ卵をだね」
「そうです、ですが卵はです」
 これから焼くこれはというと。
「卵を生むことはないな」
「卵から雛がかえって成長して」
「それからだな」
「また生みます」
「そういうものだな」
「その卵を焼きます」
「そうするんだな」
「こちらはそうしますので」
 だからと言うのだった。
「別に何もありませんので」
「卵が卵を生んだとかはだな」
「普通に卵を焼きます」
「ああ、じゃあそれを焼いてな」
「晩御飯とします」
 こう言ってだ、そうしてだった。
 アブヌワズは笑顔で家の中に戻った、その小さなフライパンを使って。そうして焼いた卵料理を食べて笑顔になった詩人だった。


子供を生んだフライパン   完


                  2018・7・1 
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