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三人の鬼

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第一章

               三人の鬼
 聖武帝の御代である、この頃大安寺の西の里に橘磐島という者がいた。この橘という者は大安寺から銭を借りて越前の敦賀の港で仕事をした。そうしている最中に突然身体の調子が悪くなって仕事を供の者に任せて自分は戻ることにした。
 そのことを決めてから近江の高島まで戻ると後ろから三人のやけに大柄で体格がよく怖い顔の男達がずっとだった。
 彼と同じ道を歩いていることに気付いた、それで彼は男達に尋ねた。
「あの、同じ道を歩いている様ですが」
「そうだな」
「実はわし等は大安寺の方に行くのだ」
「その西の里にな」
「そこは」
 橘はその話を聞いて言った。
「私の家があるところですが」
「うむ、これからそこに行ってな」
「橘磐島という者がおるがな」
「その者を迎えに行くのだ」
「あの、それは」
 そう聞いてだ、橘は怪訝な顔で男達に答えた。
「私のことですが」
「そうだ、そなただ」
「そなたに用があるのだ」
「実はな」
「それでここで会ったのですね」
 橘はそこに運命めいたものを感じて述べた。
「これはまた」
「うむ、実はわし等は鬼でな」
「冥府から来たのだ」
「お主を連れて行く為にな」
「冥府からとは」
 そう聞いてだ、橘は驚いて言った。
「まさか」
「そうだ、そのまさかだ」
「お主は寿命だ」
「それで迎えに来たのだ」
「何と、わしは死ぬのですか」
「そうだ、それでまずはお主の家に行ったが」
「それでも不在でな」
「まず敦賀に行ったのだ」
 鬼達もこう彼等に話した。
「そこで迎えるつもりだったが」
「生憎そこで四天王の使者が表れてな」
「寺に銭を返してからにしろと言われたのだ」
「寺、大安寺ですか」
 その銭のことだとだ、橘はすぐにわかった。何時の間にか彼は三人と道の横に座ってそうして車座になって話をしている。
「確かに今わしはです」
「大安寺から銭を借りておるな」
「四十貫程」
「そうしておるな」
「帰れば返します」
 それだけのものは得ているし気持ちよく返すことが出来た。
「すぐに」
「うむ、それまで迎えるのは待てとな」
「四天王の使者に言われたのだ」
「それで西の里に戻るつもりだが」
 それでというのだ。
「今お主は迎えぬ」
「決してな」
「銭を返すまで待とう」
「それではな」
 こう話してだ、そしてだった。
 鬼達は橘にだ、こう言ったのだった。
「それはそうと腹が減ったが」
「わし等は実は今腹が減った」
「近くの獣なりを捕まえて食うから少し待ってくれ」
「あの、でしたら」
 それならとだ、橘は恐る恐るだったが。
 鬼達に自分が持っていた干し飯を差し出した、そのうえで彼等に言った。
「よかったらこれを」
「うむ、干し飯か」
「これを食わせてくれるのか」
「そうしてよいのか」
「どうぞ」
「そうか、わかった」
「ではもらおう」
「済まぬな」
 鬼達は橘に一礼してから干し飯を受け取った、そうしてだった。 
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