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永遠の謎

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560部分:第三十三話 星はあらたにその五


第三十三話 星はあらたにその五

「それではです」
「来られますね」
「はい、そうさせてもらいます」
 こうホルニヒに述べるのだった。こうしてそのリンダーホーフに向かうことになった。
 カインツはリンダーホーフに来た。しかしだ。
 その城に向かいながらだ。彼は馬車の中でだ。迎えのホルニヒに申し訳なさそうに話していた。
「申し訳ありません。鉄道を一つ乗り過ごしてしまいました」
「そうだったのですか」
「お陰でこんなに遅くなっていました」
 馬車の外は真っ暗になっている。深夜である。
「これでは陛下は」
「いえ、むしろいい時間になりました」
 ホルニヒは馬車の中の向かい側の席に座っているカインツに対して笑顔で述べる。
「陛下がそろそろお目覚めになられますから」
「今にですか」
「陛下は夜を愛されています」
 つまり昼に休み夜に動くというのだ。
「ですから」
「お話は聞いていましたし」
 カインツとてだ。王が夜の中にいることは知っていた。その観劇に参加しているからだ。
 だがそれでもだ。この夜の森の中で進む馬車にいてだ。こう言うのだった。何か無気味なものも感じながら。
「ですが」
「それでもですか」
「夜にですか」
「はい、夜にです」
 ホルニヒはこのことを当然のこととして話す。
「夜は陛下が愛される時なのです」
「確か夜は」
 カインツはここでだ。王がワーグナーを愛することから考慮した。そのワーグナーの世界において夜とは。
「ワーグナー氏の作品においては」
「あの方のですね」
「はい、あの方の作品においてはです」
 そのワーグナーから考えて話すのだった。
「何かが起こるのは夜ですね」
「そうですね。確かに」
「そしてその夜をですか」
「トリスタンとイゾルデの詞の一節ですが」
「あの歌劇のですか」
「昼、企み深い昼」
 ホルニヒはカインツを見つつだ。この言葉を出したのだった。
「この言葉がありますね」
「ええ、確かに」
 カインツもその一節は頭の中にあった。ワーグナーを知っているからだ。
「企み深いですか」
「陛下は企みを好まれません」
 それは即ちだった。
「ですから昼も」
「好まれないのですか」
「そうなのです。ですから陛下は夜に生きられます」
「この夜にですか」
「太陽よりも月を愛されます」
 ホルニヒはこう言いだ。馬車の窓から夜空を見上げた。そこには白い満月がある。
 月は白く淡い光を放っている。その光を顔に浴びながらだ。彼はカインツに問うた。
「この光についてどう思われますか?」
「月の光ですか」
「はい、そうです」
 その整った顔に白く淡い光を当てそれに照らされだ。夜の中に己の姿を浮かび上がらせながらだ。ホルニヒはカインツに対して問うたのである。
「この光について」
「嫌いではありません」
 カインツはこうホルニヒに答えた。
「よく月は邪だと言われますが」
「月は人狼を目覚めさせるものとも言われていますね」
「はい」
 カインツは答えながら森も見た。
「あの野獣ですが」
「ジェヴォダンの野獣ですか」
「あれは人だったのでしょうか」
 ルイ十五世の頃のフランスのジェヴォダン地方を中心に暴れ回り多くの者を食い殺してきた野獣だ。狼だったとも何者かが操っていた猛犬だとも言われている。
 しかしその中にはだ。野獣は人狼、若しくは人だったのではないかと言う者もいるのだ。カインツもそのことについて今話をするのである。
 
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