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永遠の謎

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550部分:第三十二話 遥かな昔からその十一


第三十二話 遥かな昔からその十一

「バイエルンにいるのはワーグナー氏だけだが」
「そのワーグナー氏は今バイロイトにおられます」
「ミュンヘンにもおられません」
「ましてやアルプスにも」
「その通りだ。あの方の理解者はお傍にいない」
 それが問題だった。そして悲劇だというのだ。
「何とかするべきだが」
「さもなければですか」
「あの方は」
「より深い孤独に入られてしまう」
 ビスマルクにはそのことがわかっていた。既に。
「だが私はあくまでだ」
「あの方をお救いしますか」
「そして護られるのですね」
「そうしたいしそうする」
 ビスマルクは言い切った。簡潔に。
「あの方はドイツの宝だ。そしてだ」
「あの方を嫌われない故に」
「それ故にですね」
「金銭のことで済むならどうということはない」
 ビスマルクにとってそんなことはどうでもよかった。王については。
「そして必要とあらば助言もさせてもらう」
「そこまでされてですか」
「あの方を」
「私はあの方を理解できることを幸福に思う」
 実際にだ。そのことについて神に感謝して述べた。
「だからやらせてもらおう」
「わかりました。それでは」
「閣下の思われる様にされて下さい」
「バイエルン王に」
「そうさせてもらう。あの方は必ず素晴らしいことを残される」
 理解者達にだけわかることだ。今は。
「その力になろう」
「ではその様に」
 彼等が応えてだった。そのうえでだ。
 話が変わった。側近の一人がビスマルクにあることを話してきたのだ。その話とは。
「あの、閣下ハンブルグですが」
「聞いている。あのことだな」
「閣下の像を造りたいとのことですが」
「別に構わない」
 そのことについてだ。ビスマルクはまずは無造作に答えた。
「私へのおべっかかも知れないがそれでもだ」
「彼等が造りたいのならですか」
「それでいい」
 こう言うのである。
「追従してくるなら相手にしないだけだ」
「それだけですか」
「そうだ。だが」
 それでもだった。ビスマルクはここでこんなことも言った。
「私をあの騎士に模すというが」
「はい、ローエングリンです」
 この騎士の名前がここでも出されたのである。
「あの騎士の姿で。閣下の像をと」
「そのことについては悪く思わない」
 そうだとだ。ビスマルクは言った。
「いいことだ」
「共にバイエルン王を理解できる者としてですか」
「そうだ」
 ビスマルクの今の言葉には満足があった。
「本心から思う」
「媚は嫌いでもですか」
「そちらはなのですね」
「彼等は築いていないだろうがな」
 ハンブルグの者達はというのだ。
「だがそれでもだ。彼等は私をそうしてくれた」
「ローエングリンに」
「あの騎士に」
「ではあの方に何かあればだ」
 また周囲に告げる。
 
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