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魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。

作者:エギナ
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第一部
  第8話 今更だけど

 
前書き
レンside 

 
 夜。その中でも、他の囚人達が寝静まった頃。


『―――囚人四名が脱獄した! 確保しろッ!!』


 グレースとハク、シンと俺の、脱獄の時間がやってくる。

「ようやく気付いたみたいだねー! 琴葉ちゃん」
「今頃、看守室のモニターがいくつ壊れてるんだろうね?」
「副主任に抑え付けられているに一票だ」
「…………大声出すと、すぐ見つかるぞ」

 房の鍵は、魔法が効かないようになっている。と言うか、既に房内で魔法が使え無くされてしまった。
 なので、昔ながらの"ピッキング"で鍵を開け、房を抜けてきた。因みに、ピンはグレースが琴葉のポケットから盗んだもので、シンがそれを使って開けた。二人とも器用で、憧れる。

 房は出口の扉から、一番遠いところにある。そのため、普通に走って行けば、途中で看守に捕まってしまう。なので、抜け道的な通路を進むのが常識なのだが―――


「『エクスプロージョン』ッ!!」


 ハクの爆裂魔法が、通路の壁を貫く。一直線に穴が開き、出口までのショートカットになる。
 魔法が使える世界で脱獄を防ぐなど、出来る訳が無いのだ。

 魔力を一気に使ったハクは、力が抜けてふにゃりと地面に寝っ転がる。が、すぐにグレースが背中に乗せ、出来た道を突っ切っていく。シンと共に、その後を続く。


『第五区画だ! 囲め囲め!!』


 指示を出しているのは琴葉だ。そこら中に仕掛けられた防犯カメラの映像を、モニターで見ているからな。既に一つくらいモニターを破壊しているかもしれない。

 優しいところもあるが、馬鹿なところもあるからな。


 通路を出ると、其処には大勢の看守が、銃を構えて並んでいた。その銃には―――


「その銃は魔法だ! 気にしなくていい」

 俺が声を出すと、シンが一歩前に出て、不敵に笑った。

「ハハハ……! レンに魔法での脅しが効くと思うな!!」

 すると、次の瞬間には看守達は通路の床に倒れていた。
 シンが、魔法によって時間を操作し、自分以外の時間を遅くし、自分だけが普通に動ける世界にした後、で看守を一撃で無力化したのだ。遅くなっている方からすれば、時が止まり、でもシンは動くことが出来る、と言う風に見えるだろう。
 シンのヤツ、また腕を上げた。

「ねーねー、グレースくん! 魔力分けてよー」
「えー? 俺、自分の魔力あげたくない……って、丁度良いとこに供給源が~」

 グレースがハクと看守の手を握る。すると、ハクの顔色が段々と良くなっていき、逆に看守の顔色が悪くなり、段々と痩せてくる。魔力を吸収する魔法『ドレイン』で得た魔力を、そのままハクに流しているのだ。
 …………俺の活躍は?

「にしても、よくあれが魔法だと分かったな、レン」
「いや、普通に見たら分かる…………」
「んな訳あるかこのっ」
「あいてっ」

 シンと話していると、急にグレースが後頭部を叩いてくる。…………地味に痛い。
 頭を抑えながらグレースを睨むと、グレースはビシッと人差し指を立てながら言った。

「どっかのちっちゃい看守は別として、あれが魔法だって気付くのは、魔力を見ることが出来るレンだけだからね? 俺達、完全に銃だと思ってたし。ホント、あのちっちゃい看守もキミも、羨ましいぁ」

 後ろでハクとシンがうんうんと頷いて―――


「それはどうもありがとうだが"ちっちゃい看守"とは誰のことかなぁ? えぇ?」


 いたが、後ろから何者かに頭を掴まれ、動かせなくなったようだ。
 二人とも真っ青な顔をして、絶えず冷や汗を流している。

 声の主は、間違えなく―――


「打っ殺す。特に九〇四番」


 琴葉だった。


「「「「ギャァァァアアアアアアアア!!!!」」」」


  ◆ ◆ ◆


「はっ、早く逃げろぉおお!!」
「グレースくん、顔面崩壊してる!!」
「おい、看守!! 止まれ!」
「……………………助けて」

「てめぇらマジ許さん!!」

 現在、通路に沿って逃走中。
 何度も罠が発動されるが、グレースとシンがそれを破壊しつつ、どうにか逃げている。
 鬼との距離、十メートル。

「てめぇら、この修理にどんだけ時間掛かると思ってんの! 三分だよ三分!! 要をシバくのに十分な時間だよ!! カップラーメン作れるんだよ!!」
「三分で何が出来るって聞かれた時、琴葉ちゃんがカップラーメン出すとは思わなかった!! ってか、要ちゃんシバくてどゆこと!?!?」
「黙れ九〇四番!! てめぇの声を聞くと苛ついてしょうがない!!」
「ひど……い…………」

 鬼との距離、八メートル。

「逃げるな馬鹿! 囚人なんだから大人しくしていろや! どうせ、ロクな理由も無く脱獄したんだから!!」
「勘違いしちゃ駄目だよ、琴葉ちゃん!」
「じゃあ理由を言ってみてよ!!」
「琴葉ちゃんと鬼ごっこするため!」
「幼稚! くだらない!! ドヤ顔するな!!」

 鬼との距離、六メートル。

「くそっ、もう諦めろ!! もう打開策なんて考えられないくらい追い込まれてんでしょうが!!」
「看守は僕達を甘く見すぎだ! 殺すぞ!!」
「囚人が看守に"殺す"と脅すのか? 良い度胸してんじゃねぇかその腐った性格叩き直してやる!!」
「腐った……せい、かく…………」

 鬼との距離、四メートル。

「…………疲れた、死ぬ」
「おおぅ!? 休めよレン!」
「や、置いて行かれる……」
「いや、知らねぇから房から出んなよ」

 鬼との距離、二メートル。

「わぁぁぁあああ追い付かれるぅぅううう!!」
「琴葉ちゃんとまってぇぇぇぇええ!!」
「…………って、行き止まりだぞ!?」
「ぶつかる……!」

 鬼との距離、一メートル。


 ―――壁との距離、ゼロメートル。


 壁に思い切りぶつかり、ヒビが入った。
 顔がとても痛い。鼻血出てるパターン……

 フラッと四人揃って後ろに倒れ込むと、琴葉は呆れた様な表情で俺達を見下ろしていた。"何やってんだ此奴等"と目で訴えてくる。
 そして、琴葉は口を開いた。


「……………………だっさ」
「「「「うるせぇぇぇえええええ!!!!」」」」

 
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