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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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無印編
  第三話 過去の思い出

 日の光を感じゆっくりと目を覚ます。

「……む、少し眠り過ぎたか」

 太陽を見ると結構高い位置まで昇っている。
 最低限の警戒はしていたつもりだが、並行世界に渡り体が疲弊していたのか、深く眠っていたらしい。

 しかし、死徒になり太陽の光を克服しているとはいえ、やはり吸血鬼だな。
 どうにも太陽が好きにはなれない。
 水飲み場で顔を洗い、頭から水をかぶる。
 頭を振るい、水気を払う。

「ふう」

 大きく息を吐く。
 その時、水面に自分の姿が写る。
 白い髪に深紅の瞳。
 人ではない肉体。
 極めつけは並行世界を渡るなどという奇跡
 こう改めて考えるとなかなか複雑怪奇な人生を歩んでるな。
 自分自身のことながら苦笑してしまう。
 目を閉じ静かに懐かしき日々を思い出す。

 俺の人生の大きな転機である聖杯戦争。
 そして繰り返される四日間。
 繰り返される四日間が終わり、出会ったのがサーヴァントが現界してるからという理由でお越しになった大師父のはっちゃけ爺さんことキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。
 そして、俺の能力を見て言った言葉が

「おもしろい!」

 ってどうよ。
 で、気がついたら弟子にされて世界中引っ張りまわされた。
 まあ、いろいろとつながりも増えたけど。
 死神とか人形師とか……
 だがおかげで出席日数が足りず、卒業が出来ない危機なんていう問題も起きた。
 もっともこれは教師の方々に頭を下げ補習を受けなんとか乗り越えた。

 そして、学校を卒業して一年後俺は桜とライダーと共にイギリスに向かったのである。
 イギリスに向かうのが遅れた理由は単純に大師父との修行の旅のせいである。
 ちなみに遠坂とイリヤ、セイバーにバーサーカーはすでにイギリスに渡っていた。
 セイバーがイギリスに渡ったのは遠坂のサーヴァントとして協会に報告したためだ。
 未来の英雄であるアーチャー(英霊エミヤ)は問題があるので存在を隠しているらしい。

 そして、イギリスに渡ってわずか数カ月で宝石代と時計塔の修理代で自己破産寸前まで追い詰められた。
 しかもなにげに時計塔の修理代のほうが高かった。
 どれだけ壊せば気が済むんだ……。

 そして、執事のバイトを始める俺。
 そのバイト先は、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトの屋敷だった。
 ええ、もうそんときは魔術師の家だなんて思いもしなかった。

「……エーデルフェルト家をご存じない?」
「あ、うん」

 その直後、ガンドを叩き込まれて意識がなくなった。
 これが最初の出会いなんだから今思えばとんでもないものだ。

 そして、ドイツに大師父に言われるがまま行き、そこでも新たな出会いがあった。
 俺の吸血鬼としての親でもある、アルトこと、アルトルージュ・ブリュンスタッド。
 しかも、大師父に

「ここに行って待っていればいい」

 なんて言われてのんきに待っている時に話しかけられたのだ。
 後で聞いた話では、大師父が言っていた会わせたかった人がアルト自身だったのだが。

 しかもそのとき、膝の上にプライミッツ・マーダーの頭を乗せて撫ぜながら、呑気に世間話をしていたのだから俺も結構鈍い。
 アルトの黒騎士と白騎士にも呆れられた。
 それにしたって、改めて思うとまともな出会いがほとんどないな。

 しかしというより当たり前なのだが、時計塔の主席、次席候補の二人と親しくし、大師父の弟子かつ、アルト達と繋がりを持てば俺に注目が集まり、投影魔術がばれたのは仕方がないことだろう。
 もっともバックにいる人が人だけに時計塔が動けず、穏やかな日々が過ぎていっていた。
 もっとも遠坂やアルト達の喧嘩は絶えなかったが。

 だがそんな穏やかな日々も崩れ落ちることになる。
 時計塔からの仕事を請け負ったのだが、それは俺を狙う魔術師たちの罠だったのだ。
 俺を狙ってきた魔術師はすべて倒したものの、右の肺はつぶれ、左腕は砕け、心臓のすぐ横には穴があいている状態だった。
 そこに助けに現れたのがアルト達だった。
 だがアルトはもちろん、黒騎士、白騎士、プライミッツ・マーダーも治癒の魔術は使えない。

「シロウ、まだ死にたくはないか?」
「ぐっ! ああ、まだ俺は死ぬわけには……だから頼む」

 だから俺は選んだ。
 最後の可能性に賭けたのだ。

「ああ。また会おうぞ、シロウ」

 そして、アルトに血を吸われたのだ。
 だが俺に吸血鬼としての素質があったのか二週間昏睡して目を覚ましたら、人形でも何でもなく個の死徒になっていたのだ。
 しかもその時にすでに太陽は克服していたのだからふざけた体をしている。
 もっとも吸血衝動がそれなりに問題だったけど……

 だがこれにより新たな問題が起きた。
 聖堂教会が俺のことをどこからか嗅ぎつけ、空席だった二十七祖第十位に俺を登録したのだ。
 それにより魔術協会、聖堂教会に狙われ、俺は遠坂達から離れることを選び、戦場をさまよい続けた。

 そして、辿りついたのは何もない荒野。
 体のいたる所から剣が突き出し、右腕はかろうじて繋がり、両足の骨は粉砕している。

「まだなんとか生きてるようね」
「遠坂。それにアルト、大師父」

 俺を見下ろしていたのは懐かしくて、愛おしい二人と師。
 そして瞬間、遠坂とアルトに一発ずつ殴られた。
 手加減しているとはいえボロボロの体には堪えた。
 だが殴られても仕方がない。

「これで私たちを置いて行ったのはチャラにしてあげる」
「だがなシロウ。この世界にお主の場所は無くなってしまった」

 アルトと遠坂が涙を浮かべて、言葉を紡ぐ。
 女の子を泣かしちゃいけないって親父に言われてたのに泣かしてしまった。
 だが居場所がないのは仕方がない。
 魔術協会、聖堂教会と敵対している上、魔術の秘匿の不完全。
 こうして二人に会えただけでも僥倖。

「二人の頼みもあるが、ここで死なすには惜しい。
 ゆえにお主を並行世界に送る。もっともこれは遠坂の試験も兼ねてじゃがの」

 大師父の言葉と共に遠坂が宝石剣を取り出す。

「そうか、至れたんだな」
「あんたのおかげでね。まあ不完全なんだけど、ちょうどいい等価交換でしょ?
 それと向こうの世界では絶対に大切な人とあなたが幸せになりなさい」
「掴んでみせよ。いつか会いに行くからの」

 二人と最後の言葉を交わし、軽く口づけをする。

「ああ。行ってくる」

 その言葉を残し俺は元の世界を別れを告げたのだ。

 そんな長くもない人生で吸血鬼として生まれ変わり、さらに並行世界に新たな人生を求め渡る。
 ここまで来るとアーチャー(英霊エミヤ)と俺が本当に同一人物かどうかも疑問に思えてくるな。
 少なくともアーチャー(英霊エミヤ)は死徒ではなかったはずだ。

 確かに穏やかとは程遠い人生だったが後悔はない。
 いや、あるとすれば遠坂達を泣かしてしまったことだろう。
 だが新たな世界での俺の人生は始まっている。
 とりあえずは

「前に進むことを考えるか」

 カバンを持ち、街に向かって歩き出す。
 この太陽の位置だともう店も開き出す頃だ。
 まずはこの世界のことを理解しないことにはこれからの方針も決まらない。 
 

 
後書き
 過去への回想編、三話でした。

 ではでは 
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