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永遠の謎

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54部分:第四話 遠くから来たその七


第四話 遠くから来たその七

 それでだった。周りはさらに問うのだった。
「むしろ陛下はです」
「王なのですから」
「そうだな。ヘルマンかハインリヒ王だな」
 ヘルマンはタンホイザー、ハインリヒ王はローエングリンに出て来る。どちらも君主として出ているのだ。王は彼等だというのだ。
「しかし私はだ」
「彼女達なのですか」
「そうだと」
「そう思う時がある。その同じである彼女達とな」
「ではローエングリンもですか」
「あちらもですか」
「エルザだな」
 遂にだった。ローエングリンの話に届いたのだった。
「彼女についても思う。これはゼンタもだが」
「さまよえるオランダ人のですね」
「彼女だと」
「そうも思う。本当に不思議だ」
「我々にはわかりません」
「それは」
「ローエングリンをはじめて観た」
 十六歳の時のことだった。今度はその記憶を遡ったのだった。
「その時からだ」
「エルザ姫に心を移されていたのでしょうか」
「その時にも」
「ローエングリンに会った」
 まさにエルザの言葉だった。それ以外の何でもなかった。
「それは私の運命だったのだ」
「陛下はあの騎士をことの他愛されてますが」
「あの騎士になりたいのですか」
「白鳥の騎士に」
「なりたいとも思う」
 その通りだと。このことを認めたのだった。
「しかしだ」
「エルザ姫にですか」
「御自身を」
「どうしてそうなるのか。私は男だ」
 これは自分でもわかっていた。それも実によく。
「それだというのにだ」
「それがどうしてなのかはです」
「我等にもわかりません」
「ですが」
 周りの者はいささか言葉を濁して王に話していく。そうしてだった。こう話したのだった。
「陛下、今はです」
「そのワーグナーが何処にいるのかを知りです」
「このミュンヘンに」
「そうだな」
 王も彼等の言葉に頷きだ。そうしてだった。
「とにかく探し出してくれ。いいな」
「わかっております」
「では。彼を」
 ワーグナーを探すことは続いていた。そしてであった。また新たな情報が入ったのだった。
「ウィーンにいたのですね」
「王立歌劇場にいました」
「それは知っていた」
 王はこの報告に対してすぐに述べた。
「そうしてだな」
「はい、自身の作品の上演をしようとしていました」
「トリスタンとイゾルデという作品です」
「かなりの大作らしいですが」
「しかし上演できなかったのだな」
 王からの言葉だった。
「残念なことに」
「歌手を選ぶ作品だとか」
「それも主役二人共とのことです」
「何十回も舞台稽古をしてそれでもです」
「上演できなかったそうです」
「ワーグナーらしい」
 王はそのことを認める言葉を出したのだった。
「彼は完璧主義だ。何もかもがな」
「だからですか」
「そうして何度も何度も稽古をさせていたのですね」
「自身も立ち会って」
「相当なことをしていたのだな。だがそれでもだ」
 どうなったか。話が元に戻った。
 
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