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魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。

作者:エギナ
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第一部
  第1話 第一魔法刑務所

 時は二〇九四年。
 世界は戦乱の時代を乗り越え、今日もまた動き出そうとしている。

 戦乱の時代に生み出された"魔法"。
 それは、争いのために発見され、日々研究された。

 だが、平和になった今では、その使い道は無くなった。

 そこで、一部の人間は魔法を悪用し始めたのだ。
 すぐに警察や政府が動き、魔法を取り締まり始めたのは言うまでもない。

 魔法を使う受刑者は、危険故に、世界に九つある"魔法刑務所"に収監された。

 その魔法刑務所の位置は、公にはされておらず、分かるのは"普通の刑務所とは段違いの警備のレベルを誇る事"と、"九つある事"。


 そして、"魔法犯罪が始まり魔法刑務所が建てられてから、一度も脱獄に成功した者がいない"と言う事。


 だが―――


「てめぇら、何度注意したら分かるんだクソ死にやがれ!!」

 この第一魔法刑務所の主任看守部長を務める、私"黒華琴葉"は、目の前で正座をして並ぶ、四人の囚人を思いっ切り蹴り飛ばした。
 勿論、四人はバタバタと壁に打ち付けられ、重なって倒れる。うん、良い眺め。

「ねぇねぇねぇ酷すぎる!! 琴葉ちゃんの鬼! アホ! でも結婚し―――」
「黙れボケェ!!!!」
「ぐっふぉあっ!?!?」

 その山の一番上に居た囚人が、山から転げ落ちて涙を浮かべながら私の方に擦り寄ってくる。普通に気持ち悪いため、もう一度蹴り飛ばし、その後頭を床に打ち付けておく。どうやら、それで顔がめり込んでしまったようで、その囚人が戻ってくることは当分無さそうだ。

 他の三人の囚人は、まだ重なって倒れながら、此方を見て苦笑いを浮かべている。

「そもそも、脱獄なんてするな! なにが"極悪脱獄囚"だ、呼ばれて嬉しいんですかぁ!? なんですかぁ、中二病ですかぁ!? 痛いですぅ!! さっさと卒業してくださぁい!!」

 此奴等は先程、一人に言った様に、"極悪脱獄囚"として第一魔法刑務所に送られてきた囚人だ。

 そもそも、魔法刑務所と言うのは、第一魔法刑務所から第九魔法刑務所まで存在している。
 先ず魔法犯罪―――魔法を用いた犯罪の事だ―――を犯した受刑者は、魔法刑務所の中で一番下の、第九魔法刑務所へ送られる。が、其処で問題を起こすと第八魔法刑務所へ。また起こすと第七へと、段々と第一魔法刑務所へ近付いていく。
 魔法刑務所の看守は、皆魔法を使用する事が出来る。そうでなければ、魔法を使う囚人を大人しくさせておくことなど、出来やしない。魔法の知識も豊富だ。
 第一魔法刑務所は、魔法刑務所の中で"最強の刑務所"の称号を得ている。なので、勿論此処に収監される程の囚人は、"極悪"の称号に恥じない行い事を繰り返しているのである。

 すると、予想していたよりも早く、顔を床にめり込ませていた囚人は床から顔を抜き、此方を見る。だが、額や鼻から、だらだらと血を流しているため、物凄く気持ち悪い。こっち見るな、笑っちゃうじゃん。

「だから酷いって!? そんなキツイ事言ってると、男達逃げちゃうよー!? 折角可愛いんだし、もーちょっと優しくしても良いんじゃないかなぁ!? まぁ、邪魔な虫が寄ってこなくて、楽で良いけどね!」
「誰がてめぇなんかに靡くかボケ! それに自惚れるな気持ち悪い」

 黒髪の蓬髪に、金色の猫目。黒い半袖シャツに、白いベスト、黒いスラックスと言う、刑務所に相応しくない恰好をしているのが、囚人番号九〇四番。周りからは"グレース"と呼ばれて居る様だ。が、呼ぶ気にはならない。顔は血塗れだし、かなりの女好きだし、囚人だし。なんなのほんとに、女性に会えば直ぐに口説きに行くとか、もう頭イッちゃってんじゃないの。

「ねーねー、グレースくんって変態だよね? あーゆーのが、変態ってヤツだよね」
「ん? そうだけど? 馬鹿で阿呆で変態で社会不適合者で人間として失格な最早人間でもないただのクソだけど?」
「ええええぇぇぇえ!? 琴葉ちゃん、何吹きこんでんの!? てか人間じゃないってどゆこと!?!?」

 白い肩まで伸ばした髪に、睫毛が長い女子の様な赤い瞳。服装は黒い、無地のツナギと言う囚人らしい服装。チャックを首を隠すまで閉めているため、一見女子なのだが、実際は男であるのが囚人番号八九番。通称"ハク"。此方も呼んだことは無いし、呼ぶ予定も無い。と言うか、九〇四番が退いて一番上になったが、退かずに下にあと二人囚人が居る状態で喋っているのを見るともう笑いが堪えないんですけどさっさと其処を退けと言うかそもそも真顔で言うな笑うだろ。

「おい看守。さっさと僕を図書室に連れて行け」
「嫌ですがなにか? 連れて行って欲しいんだったらもっと真剣に頼んでくれないかなぁ、んん? 別に、土下座して『お願いします主任看守様、僕を図書室へ連れて行って下さい。何でもします』って言っても良いんだよぉ? えぇ?」

 後ろで細く束ねられた深い青の髪に、エメラルドの瞳。白いカッターシャツに、紺色のベスト、宝石が埋め込まれたループタイに、黒いスラックス。そして、極めつけの黒い眼鏡。何処かのお坊ちゃんを思わせる格好をしたのが、囚人番号四番。通称"シン"。呼んだ事も予定も無い。山の上から二番目で、滅茶苦茶私を睨んでくるけど、そよ風程度、いや最早何も感じないし。

 此処までは普通に、クソが付く程ウザイ極悪脱獄囚で、自分の中で整理を付ける事が出来なくもないのだが―――


「……"レン"」
「…………なんだよ」

 黒に赤いグラデーションが掛かった髪に、グレーの瞳。ボロボロの囚人服を着た彼だけは、囚人では無い。
 他の囚人や大半の看守には、"囚人番号一〇〇番"として通っている。が、実際はただ単に此の第一魔法刑務所で"保護"している少年なのだ。囚人では無いため、名前で呼んでいる。現在は山の一番下に居る。

「お前は医務室へ」
「……分かった」

 フラフラとした足取りで此方へ向かってくるレン。九〇四番、八九番、四番は、それを何時も通り眺めている。三人はもしかすると気付いているのかも知れない。レンが、囚人では無いこと。
 如何にか此方へ辿り着いたレンだが、着いた途端に私にもたれ掛かる。

「てめぇら、大人しくしてろよな」
「じゃあキスして」
「死ね」

 九〇四番なんてもう知らん。一瞬の内にレンを背負って、九〇四番を、今度は頭全てを床にめり込ませる。

 直ぐに踵を返して、房の扉を閉める。

 淀んだ空気が流れる房内は、暫く沈黙に包まれ―――

「はいはーい。琴葉ちゃんがスカートではなくズボンを穿いている件についてなにか意見ありますかー! 俺的には、体型を気にしてるのかなって思うんだけど、全然琴葉ちゃんって細いよね! でも出るとこは出てるから、めっちゃエロい体つきしてて、思わず眺めちゃうんだよねぇ」
「「お前が変態だからだと思う」」
「え、酷い」

 る訳が無かった。

 ってか、もう九〇四番は縛り付けておこう。もう意味分かんない。

 
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