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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第6章:束の間の期間
  第186話「事件の爪痕」

 
前書き
復興支援回。
基本的に京都を中心に支援します。
 

 





       =out side=







「―――それで、ここをこうやって……」

「なるほど……」

「遊び心と一緒にって訳ね。確かに片手間で出来るわ」

 アリシアが椿達に特訓内容を教えてもらった翌日。
 今度はそのアリシアがアリサやすずか、さらにはなのは達にも教えていた。

「でも、言葉にするのは簡単やけど、相当難しいで?」

「そりゃあね。だからこそ、出来るようになった時は霊術や魔法の運用効率がグンと変わるようになってるよ」

「効率が上がれば、技の出が早くなる。……それだけじゃなく、身体強化の効率も上がって、咄嗟の術式構築も可能になる訳ね」

「さすがアリサ。理解が早いね」

 椿達が教えた事は、簡単に言えば霊力及び魔力を兎に角扱う事だった。
 粘土細工や飴細工などのように、精密な操作を常に行い、操作に慣れる。
 そうする事で、アリサの言ったように運用効率が上がるのだ。

「なんならあやとりとかでもいいみたいだよ。とにかく、片手間でもいいから力の精密操作に慣れるようにするんだって。魔法の精密操作は、魔力弾で缶を打ち上げるとかで良かったけど、魔力そのものの精密操作はあまりしてないでしょ?」

「確かに……」

 誰もが、普通の特訓では精密操作を鍛える場合でも、霊術もしくは魔法そのものを細かく操作する程度にしか深掘りしていない。
 中にはその術式を構築する際の力の行使方法も考える者もいるが、それだけでは飽くまでその術式を行使する事にしか大きく作用しない。
 対し、椿達が教えた方法は、霊力や魔力そのものの精密操作となっている。
 術式を介さずに操作できるようになれば、あらゆる術式を最低限の消費で使える。
 また、いざとなれば術式なしで攻撃も可能になるのだ。

「椿達は、さらに力を身に着けるより、今の強さに磨きを掛ける方が手っ取り早いって言ってたからね。極端な事を言えば、はやての場合、これで広範囲殲滅魔法を砲撃魔法みたいに撃てるようになるかもしれないよ?」

「それは……凄いなぁ」

「後は操作に耐えられる体作りだけど、これは時間を掛けないといけないからね」

 そう言って、アリシアは話を締めくくる。

「これで指導は終わり。後は自分でやっていけばいいよ」

「本当にシンプルなんだね」

「私も同意見だったよ。でも、しっかり効果はあると思うよ」

 アリシアだけでなく、司や奏もこの場にはいない人達に教えて回っている。
 椿や葵は、鈴や式姫達に教えに行っていた。
 鈴や式姫達は方法自体は知っていたため、実際に習ったのは澄紀と那美、久遠だが。

「飽くまで片手間。今日からしばらくは復興支援に集中だからね!」

「せやなぁ。ま、だからこそ片手間で出来るようなものなんやろな」

「そういう事。さぁ、準備をしっかりしておかないと、体力が持たないよ!」

 手を叩き、アリシアはそう言って準備を催促する。
 既に朝食は食べており、適当な身支度をすれば後はクロノの指示に従ってそれぞれの担当箇所に向かうだけだ。

「………」

「……すずか?どうしたのよ?」

 ふと、そこですずかが何か考えている事にアリサが気づく。

「えっと……ううん、何でも……」

「……?いえ、絶対何かある素振りでそう言われても、逆に気になるんだけど……」

 誤魔化そうとするすずかだが、アリサはむしろ気になると言う。

「そ、そうだよね……」

「すずかちゃん、ここでは言えない事なの?」

「言えない……と言うか、皆を不安にさせてしまうから……」

 さらに気になる言い方だが、それだけ言い出しにくい事だと、なのは達は思う。

「じれったいわね!もうこの際言っちゃいなさいよ!」

「あ、アリサ……さすがにそれは酷だよ……」

 アリサはその上で言うように強く催促する。
 フェイトはそんなアリサを何とか宥めようとした。

「……そうだね。言わない方が、余計不安だからね」

 だが、すずかも言わないよりはマシだと思い、言う事にする。

「杞憂で済めばいいんだけどね、私達って、現地の人達にどう思われてるのかなって……ちょっと、気になっちゃって」

「現地……って事は、京都の人達やろ?恩着せがましい言い方になるけど、一応こっちは助けた立場なんやし、そない不安になる事もないんちゃうの?」

「そ、そうだよね……ごめんね、変な事言い出しちゃって」

 はやての言葉で、すずかが切り出した懸念はあっさりと解消される。
 ……少なくとも、話を聞いたなのは達にとっては。

「……アリサ」

「ええ。わかってるわ」

 霊術の特訓で比較的付き合いの深いアリシアとアリサが小声でやり取りを行う。
 身支度のために一度解散したタイミングを見計らい、二人はすずかを連れ出した。

「……あそこで誤魔化したのはいい判断よ。あたしも悪かったわ。追及しなければ、あそこで言い出そうとする必要もなかった」

「あ、アリサちゃんは悪くないよ!気にした私が……」

「はいはいストップ。せっかく詳細を聞こうって時に謝罪ばかりじゃ進まないでしょ」

 人気のない部屋に入り、アリシアとアリサは改めてすずかに話を聞く事にする。

「現地の人にどう思われてるか……ええ、確かに、考えていなかったわね。本来、あたし達は一般人にとって未知の力を使う存在。……ぶっちゃけてしまえば、その点においてはあの妖達と何も変わらないのよね」

「本来他の次元世界の住人の私に至っては、実質宇宙人だもんね」

「うん……だから、どう思われるのか、不安で」

 すずかが話し出すよりも早く、アリサとすずかがさっきの言葉の内容について言う。
 そう、すずかは自分達を一般人の人が恐れないか不安だったのだ。

「人間にとって、“未知”は興味を引く対象でもあり、恐怖の対象でもある。……椿が、そんな事言ってたね」

「……そっか、すずかの場合、“夜の一族”の事もあるから……」

「人一倍、そう言った感情には敏感。って訳だね」

 夜の一族と言う事は、なのは達も既に知っている。
 しかし、結局は“すずかと言う人”としてしか接していないため、その事実がどういった効果を齎しているかまでは深く理解していない。
 霊術の特訓を一緒にしていたアリサとアリシアだからこそ、今のすずかの懸念に気付く事が出来たのだ。

「……架空の存在と思われていたとはいえ、神話などでは魔法は存在したわ。実際、霊術や魔術などは今も裏世界で残っているって葵さんも言ってたしね」

「あ、そっか。オカルトだと思われてたけど実際に存在していた……ってだけで受け入れられるんだったらすずかもこんな悩まないよね」

「あ、あはは……うん、そうなんだよね……」

 過去は存在していたと思われるなら、きっと受け入れられる。
 アリシアは一瞬そう考えたが、それはないとすずかを見てその思考を切り捨てた。

「昔のアメリカじゃ、魔女狩りとかもあったしねぇ……。あたしが言いたいのは、そんな地球での魔法のイメージと、こっちの魔法との違いについてよ」

「……そういえば、私達がイメージしてたのに比べて、ミッドチルダとかの魔法って、どこかSFみたいな感じだよね」

「科学寄りなのよ。……そう考えれば、少しは受け入れやすいかもね」

 “希望的観測も甚だしいけど”と、アリサは後付けしてそう言った。
 実際、明らかに未知でしかないファンタジーな魔法より、科学的な要素もあるミッドチルダの魔法の方が、まだオーバーテクノロジー的扱いで受け入れやすいと思われる。
 尤も、それだけでどうにかなるなら、すずかはここまで悩んでいない。

「……覚悟、するしかないよね」

「そうね……」

 どうすることもできない。そんな結論にアリサとアリシアは行き着く。

「ごめんね、不安にさせちゃって……」

「いいわよ、別に。何も知らないままよりも、覚悟出来る方がいいもの」

「でも、こうなるとフェイト達は傷ついちゃうよね……」

 再び謝るすずかに、気にしないように言うアリサ。
 一方で、アリシアは自分達はともかくなのは達を心配していた。

「伝える……には、時間がないわね」

「私達も準備済ませないとだしね」

「気が重くなるね~……」

 三人揃って溜息を吐く。

「優輝とかは気付いているのかな?」

「……気付いていそうだと思えるのが、なんだか……」

「まぁ、予想はしてそうよね……」

 苦笑いしながら、三人は優輝達への評価を下す。

「じゃあ、とりあえずは私達も準備しよっか」

「そうね。すずかも、あまり気負わない方が楽よ。杞憂で済む事もあるんだから」

「うん……。じゃあ、また後でね」

 三人も一度解散し、各々の身支度に向かう。
 すずかも未だに不安ではあったが、結局は実際に行かないと分からないし、杞憂で終わるかもしれないと結論付け、気持ちを改めた。









「これは……」

「改めて見ると、ひどい有様やなぁ……」

 一時間後。京都の地に、優輝達は降り立った。
 人員は6対4で京都と東京に割き、守護者との戦闘を行ったメンバーは全員京都の方に固められ、復興の支援を行う事になっている。

『猫の手も借りたい状況だそうだ。わかっているとは思うが、くれぐれも失礼のないようにな。荒らしたのは僕らの戦闘なのだから』

「……うん。わかってる」

 クロノはアースラで指示を出すために待機している。
 ちなみにだが、神夜は本人の希望と魅了の解けた女性局員の希望も相まって、あまり人目につかないポジションで手伝うようにしているため、この場にはいない。

『復興支援と言っても、まずはそこの荒れた地を何とかするのが先だ。細かい所は担当してくれる人達に聞いてくれ』

「了解しました」

 他にもやる事があるため、クロノの通信はそこで終わる。
 要約すれば、戦闘で荒れた場所をある程度整地しろと言う事だ。

「復興支援って言うから、どんな事させられるのかと思ったけど……」

「肉体労働系とはなぁ……まぁ、シンプルでええんちゃう?」

「……つっても、その肉体労働が一番わかりやすくキツイと思うんだが」

 変に複雑なものを想像していたなのはとはやては、シンプルな内容に拍子抜けする。
 なお、直後の帝の言葉で確かにキツイと思い直したようだ。

「身体強化魔法の許可は出ているから、それで効率をよくすればいい」

「失った自然に関しては私に任せて頂戴。草の神の本領を見せてあげるわ」

「瘴気は霊術で上手く祓えば何とかなるよー。何なら、かやちゃんに任せればついでにやってくれると思うよ」

 対し、優輝達は何てことのないように振舞っていた。
 椿の場合は、今回は得意分野なため、余裕を持っていた。

「倒された木はここに集めてください。また、瘴気があると聞いたのですが……」

「それについてはこちらで対処します。……あ、出来れば対処法がない人は近づけないようにしてください。また、原因不明の体調不良を訴える方がいたら、お知らせしてくれると対処に向かいます」

「わかりました。では、手筈通りに行動を始めてください」

 担当する人……政府から派遣された人と澄紀が会話を交わし、作業を開始する。
 ちなみに、澄紀や鈴は本家での話し合いついでに街の方を担当する事になっている。
 椿や葵、蓮、山茶花以外の式姫の彼女達に同行する手筈となっている。

「まずは一定の浄化が必要ね。優輝、司、奏、アリシア、那美、久遠、アリサ」

「分かった」

「結構大掛かりだね」

 椿が霊術を扱えるメンバーを呼ぶ。

「あれ?葵とすずかは?」

「二人は聖属性が苦手だから」

「あはは、そういうことだからごめんね」

 除外された葵とすずかは、闇属性の方が得意な傾向がある。
 また、葵は吸血姫、すずかは夜の一族と言うのも理由の一つだ。

「儀式型の術式の用意よ。骨組みは司、奏、久遠、アリサが。細かい所は私達でやるわ」

「かやちゃん、効果範囲は?」

「そうね……出来れば、守護者との戦闘を行った全域にしたいけど……山奥は除外していいわ。そっちはまた後で」

「了解。じゃあ、陣を敷いてくるから術式はよろしく!」

 葵はそう言って、瘴気の影響がある領域の外周を走っていく。
 椿達の用意する術式の効果範囲を指定するための陣を敷きに向かったのだ。

「さすがに葵でも時間が掛かるだろうし……術式の組み立ても急ぐ必要はないわ」

「とか言ってる間に優輝が凄い勢いで術式を組み上げちゃってるけど……」

「……優輝に対して言ったつもりなのだけど……まぁ、いいわ」

 幽世の大門を調査する時と同じように、優輝は途轍もない速度で術式を組み立てる。
 相変わらずなその姿に、椿は溜息を吐いてスルーする事に決めた。





「戻ったよー」

「よし、それじゃあ早速起動するわよ」

 しばらくして、葵が戻ってくる。
 優輝が頑張っていた分、やはり椿達の方が先に準備を終わらせていた。
 ちなみに、空いている時間、手持無沙汰な人達は瘴気がない場所で木や瓦礫の回収など、既に作業を始めていた。

「起動するって言っても、こんな範囲の広い術式、霊力が足りないんじゃ……」

「それは一気に瘴気を祓おうとした場合よ。この術式は、霊力が供給されるのに応じて徐々に浄化する作用になっているわ。……それでも、起動にそれなりの霊力が必要だけどね」

「なるほど」

 早速とばかりに、そのまま術式を起動させる。
 霊力を込めたメンバーはそれぞれ霊力が消費される。
 直後、術式が輝き、葵が敷いた陣の中が淡い光に満たされる。

「戦闘の余波だけだったとはいえ、それなりに瘴気が残っているわ。とりあえずは、瘴気の影響がない場所を何とかしましょう」

「了解。皆に混ざってくればいいんだよね?」

「ええ。……優輝はもうその行動を起こしているわね……」

 次の行動をどうすればいいか指示をする椿。
 なお、優輝は感情がない分効率よく動いているため、椿が指示を出した時には既にその行動をしている程早かった。

「どの木をどうするのかはそっちで聞いた方が早いわ。私は私でやる事があるから」

「やる事?」

 アリシアが聞き返すと、椿はその場に術式を組み立て座り込みながら答えた。

「……自然の再生よ」

 直後、椿の掌から黄緑色の淡い光が地面に広がっていく。

「草の神である私は、神の権能として“豊緑”……つまり、自然を扱う力があるわ。その力を使って、植物を再生させるの」

「神としての力……でも、式姫としての椿って、分霊なんじゃ……」

「それでも力はあるわ。確かに、本体の私ならここら一帯をすぐに緑一杯にできるでしょうけど……まぁ、これでも十分よ」

「……おぉー……」

 地面に力が流れ、アリシアもそこから感じられる生命力に感心の声を漏らす。
 
「自然は、思っているよりも弱くないわ。その気になれば、如何なる悪環境でも生き延びるように適応する。……って言うのは、人間も同じだけどね」

「……ということは、もしかして……?」

「これらは守護者との戦いで生き延びた植物ばかりよ」

 アリシアはその事実に驚く。
 あれほど苛烈な戦いがあったと言うのに、この一帯の植物は生き延びていたのだ。

「ほら、こっちは大丈夫だから、アリシアも向こうを手伝ってきなさい」

「はーい」

 そんなアリシアに、椿は自分の仕事をするように促す。




 ……そんなこんなで、整地は進んでいき……。







「かやちゃーん、浄化終わったよー」

「わかったわ!」

「疲れたぁ……」

「浄化の支援、助かったわ司」

 瘴気の影響がない場所は粗方整地が完了し、瘴気がある地帯も浄化が完了した。
 ちなみに、椿が言っていたように司が祈りの力で浄化を支援していたため、本来の予想よりも早く浄化が完了していた。

「とりあえずは一旦休憩に入ってください」

「つ、つっかれた……!」

 監視役の人の言葉に、何人かがその場に座り込んで休む。
 最初はシンプルだと言っていたはやてなども、疲れ果てていた。

「身体強化がなかったらもっとひどかっただろうね……」

「本来ならまだ私達は中学生なんだから、肉体労働をしたらそりゃ疲れるよ」

 御神流のために体力作りをしていたなのはや、特訓のために鍛えていた司達はともかく、ほとんどのメンバーが重労働で痛む体に悶えていた。

「……なのはちゃんがまだ大丈夫そうなんが意外やわ……」

「にゃはは……これでもだいぶ疲れてるよ?」

「そ、それでも私より体力があるよ……?」

 疲れてはいるものの、動けない訳じゃないなのは。
 そんななのはを見て、年下に負けていると那美は落ち込む。

「なのはは恭也さんとかに体力作りで鍛えられたもんね」

「あー……あの人達なら納得……」

 アリシアの一言に、那美は体力で負けている事に納得する。

「お兄ちゃん達、いつもあんな走ってるなんて驚きだったよ……」

「いくら合わせてくれたとはいえ、それについて行ったなのはが言う?」

「偶に会う時、やけに疲れが見えるなぁと思ってたけど、それが原因やったんか……」

 遊ぶ時になのはに疲れが見えていた事に納得するはやて。
 実際、以前のように疲労が溜まっているのではないかと心配していたのだ。

「……なのは、大丈夫なの?前みたいに……」

「にゃはは……それが、お兄ちゃん達の加減が絶妙みたいで、ちゃんと休めば大丈夫みたい。それに、前と違って休みたくなる程に一気に疲れてるから……」

「前のより辛いのが返って疲労が溜まらないように作用してるんか……」

 以前撃墜されかけた時は、気づかない内に疲労が溜まっていた。
 しかし、体力作りは明らかに疲労を感じたため、しっかりと休んでいた。

「……ところで、どうして山の整地からなのかな?」

「どうしたの?藪から棒に」

 ふと、気づいたように那美が呟く。
 アリシアはどういう事なのかと聞き返す。

「えっと……これって復興のための作業なんだよね?だったら、普通は街の方から直していくべきだと思ったんだけど……」

「……確かに」

「そういえば、なんでなんやろ?」

 人気のない山の方を先に整地した所で、メリットが少ない。
 そう思って、アリシア達も同じように疑問に思った。

「天候の事を考えてよ」

「あ、椿」

「天候の事……って、どういう事なの?」

 そこへ、椿が来て疑問に答える。

「私の見立てだけど……まず、この荒れた状態の山に大雨が降ったらどうなるかしら?」

「……そっか、土砂崩れが起きる訳ね」

「正解よ、アリサ」

 山の地面を抑える木々が倒されている今、大雨が降れば土砂崩れが起きやすい。
 それを理解してでの行動なのだと、椿は言う。

「季節は秋。天候も変わりやすいわ。そんな状況で土砂崩れが起きたらさらに面倒な事になるもの。……まぁ、並行して街の復興もしているみたいだし、木材とかの資源の確保も兼ねているのだろうけどね」

「なるほど……」

 少なくとも何かしらの理由があると、那美は納得する。

「後は……見たかったのかもね、ここの惨状を」

「……そっか。実際に戦った私達はともかく、一般人は……」

 実際に目の当たりにしなければ実感が湧かない。
 その事もあって、見に来たのかもしれないと、椿は推測した。

「何はともあれ、私達は出来る事をやるしかないわ」

「……そうだね」

「……まぁ、だからと言って、優輝みたいに頑張らなくてもいいからね?」

 そう言って椿は優輝のいる場所へと視線を向ける。
 そこには、休憩に入らずに作業を続行しようとした優輝と、そんな優輝をバインドで拘束した優輝の両親がいた。

「えーと、あれは……?」

「効率的になった結果止められてるだけよ。あまり疲れてる訳ではないからって……そんなの周りが止めるに決まってるじゃない」

「あ、あはは……」

 アリシア達は苦笑いするしかなかった。
 なお、両親の説得もあって優輝もきっちり休む事に決めたようだ。

「土砂崩れに関しては何とかなるわ。少なくとも今日や明日に大雨って事にはならないし、多少の雨なら耐えられるぐらいには草木も根を張ったわ」

「根っこは椿がやったのは分かるけど……天気予報ってそんなんだっけ?」

「私が読んだのよ。多少の自然現象なら予測できるわ」

 草……つまり自然に関する神である椿は、同じく自然の類である天候が分かる。
 尤も、担当分野ではないため、本人の言う通り予測が精々だが。

「……それにしても……」

「……何かしら?」

「変わったよね、椿。なんというか、姿もだけど、雰囲気っていうか……そこから感じられる力?みたいなのが」

 話が切り替わり、雑談代わりに椿の今の姿に触れられる。
 今の……と言うより、再召喚してからの椿はずっと京化したままだからだ。

「八将覚醒して、その状態が保たれているのもあるけど……まぁ、ちょっとした出来事があってね……違って見えるのは、当然の事よ」

「出来事?再召喚だけじゃなくて?」

「ええ。……まぁ、簡単に言えば、神降し関係なく神の力を扱えるようになったのよ。八将覚醒が保てているのは、これも要因ではあるかしらね」

 椿の本体とのやり取りで、椿は素人目から見ても強くなっているのが分かった。
 それこそ、霊力を知らない一般人が見ても、どこか神々しく見える程に。

「八将覚醒って、確か守護者の戦いで……」

「蓮さんと、後一人がやってた事よね……?」

「あら、蓮もやってたのね。八将覚醒っていうのは、簡単に言えば八将神の加護を得て式姫がさらなる力を手に入れる事よ」

「以前ちらっと聞いた事があるような……」

「アリシアに個人特訓を課していた時に少し言っていたわね。正直、あの時は覚えなくても良かったからあまり重要なものとして言ってなかったのだけど……」

 そんな事を心当たり程度とはいえ覚えていた事に、椿は感心した。

「まぁ、私の雰囲気が変わったのは大した事にはならないわ。確かに、以前よりも出来る事が増えて便利にはなったけど……」

「……けど……?」

「……いえ、何でもないわ。ほら、それよりもちゃんと休憩して体力を回復させておきなさい。次が耐えられないわよ」

 椿は途中で話をはぐらかし、休憩に努めるように促す。





「(……まだ……せめて、大門の後始末が終わるまで、“私”に言われた事は黙っておくべきね。今わかって言る事だけでも、この子達が背負うには重すぎるもの……)」

 本体に言われた言葉を、その胸の内に仕舞ったまま……。













 
 

 
後書き
今の所は、一般人にとって管理局はどこからともなく現れた、支援してくれる人達程度の認識です。未だに情報が行き届いていませんから、どういった存在なのかは知りません。
なお、それが幸いしてすずかの懸念は今の所杞憂に終わっています。 
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