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SAO--鼠と鴉と撫子と

作者:紅茶派
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12,黒と黒の邂逅

 
前書き
久々の更新。
読んでくださっている方、お待たせしました。 

 
巨大な洞窟から吹き付ける風は腐乱した動物の肉そのものだった。
きっとこの迷宮区の長を筆頭に貪り食った肉から臭いを反映しているに違いない。腐臭は密度を増し、陳家なRPGなら毒の沼やら霧やらが出てきそうな勢いだ。
茅場明彦の五感に対する再現力の高さには脱帽するしか無いが、この臭いは少しリアルすぎる。
林檎の木でも植えてくれれば、もう少しマイルドな香りになるだろうに。まあ明らかに浮くから無理だろうか。


角を曲がった所で、獣型のモンスターがポップする。
固有名<ブラッド・パンサー>通称、血豹は俺の喉元に飛び込んでくる。
口を大きく開け、見える刃のような牙と真っ赤な口は純粋な恐怖を思い出させる。だが、ここで臆せばひき肉になるのは目に見えている。
何よりも、自分の恐怖と闘いながら、俺は素早く下に潜り込んだ。
僅かな飛翔を続ける血豹。
前足をバタバタと振り回す、が遅い。
素早く下に潜り込んで、防御の薄い腹を短剣で切り裂いた。

「スイッチ」
本来なら後ろに下がるべきだが、逆にくぐり抜けるように前へ。
つられて豹も俺へと向き直ろうとする。
ヘイト値の上昇で動く血豹に一筋の剣閃が奔っていく。

「ハァァ」
曲刀基本スキル<サイス・ウインド>は首筋を捉え、その生命を刈り取った。
そのまま、武器をしまわず、近隣の安全地帯に転がり込む。
ダメージこそ無いが、角を曲がる旅に猛禽類が首筋に飛びついてくるのだ。

怖い、と言えば嘘になる。
そしてその恐怖は確実にパーティ―を死に追いやる元になるのだ。

なんたって、ここは最前線なのだから。

俺がいま潜っているのは第5層の迷宮区最上階だ。
迷宮内をくまなく走り回り、七割方のトレジャーボックスとマップデータを確保した。
流石に別プレイヤーがいるようで、残り三割は追いついてきた他の攻略組に奪われていることだろう。

岩壁に腰を下ろし、ストレージの中身を操作する。
先程、開けたトレジャーボックスの中身の1つに鈴型イヤリングで手が止まる。固有名は<シグナライズベル>。
確か、敏捷値が大きく上がるアイテムだったはずだ。勿論、こんな低層でそんな優良アイテムがホイホイ手に入るわけはなく、ヘイト値が上がりやすくなるオマケ付きだけど。

「う~~ん、バットアビリティ持ちだけど捨てがたいなぁ」
女性物か?と確かめたが、一応兼用できるらしい。
装着してからヤヨイの方に声をかける。顔をずらした所でチリン、と鈴がなった。

ヤヨイはいつもの凛としたオーラを僅かに疲弊で崩しながらも、「そうですか、可愛いですよ」と笑ってくれた。

「あと、少しでボスマップのはずだから、マッピングまで一気に行くぞ」
「わかりました。クロウさんも少し反応が落ちてます。気をつけて」

そう言って立ち上がろうとした所で、ヤヨイがピクリと動きを止める。視線を右上の方にずらし、しきりに何かを確認している。

「どうしたんだ?」
「プレイヤーです。どうにも一人みたいですが、こちらに来ますね」

そういった瞬間、俺の方でもカタカタと金属のぶつかり合う音がした。
もうすぐそこまで来ているのだから、ココで待ったほうが相手も緊張しなくていいだろう。
そう思って、上がりかけた腰を再び下ろす。

暗がりから出てきたのは、僅かに幼さを残した顔の真っ黒なプレイヤー。
軽装なビルドの全身を全て黒で統一し、おまけに日本人らしく黒髪ときているのだから、他の色といえば肌位のものだ。

コチラにも気づいていたようで、剣を構えながらにじり寄るように安全地帯に入ってくる。

「ごめん。プレイヤーがいるというからで、敵意とかは……」
「ああ、構わないぜ。久しぶりじゃねぇか。キリト。黒一色だとまた根暗と思われるぞ」
「ぇ、オマエ…………クロウなのか!?」

構えた片手剣の切っ先がストン、と下に落ちる。
驚愕から幼いながらもイケメンの顔が台無しになっている。まあ、それが面白そうで今まで連絡していなかったっていうのもあるんだけど。

「最前線にいないから、どうしたのかと」
「まあ、ちょっとスタートダッシュには出遅れた。最近やっと追いついたんだ」
俺はアイテムストレージから幾つかのアイテムを取り出していく。

「けど……最近は……こんなもんだな!!欲しい物あるか?」
今日の探索で見つけたものの最後の1つをオブジェクト化し切る。
いつの間にか目の前には装備品の小さな山が出来上がっていた。

キリトがあまりの両に息を呑む。
昔はこれの倍はとったもんだが、というのは流石に秘密だ。

「クロウさん。そちらは?」
「ああ、コイツはキリト。攻略組のβ上がりだ。キリト、この人は今オレと動いてるヤヨイだ」

軽い紹介にヤヨイは立ち上がって凛とした雰囲気を取り戻し、ぴっと右手を差し出した。
「はじめましてキリトさん。ヤヨイです」
「……ああ、よ、ろしく……お願いします」
対してキリトの方はおずおずと右手を差し出してくる。握手が終わるとキリトは手をさっと下ろした。

「おまえ、まだそんなコミュニケーションスキルなのかよ」
「五月蝿いな。少しずつ熟練度を上げてるとこなんだよ」

無理に会話を閉めようとするのも対人スキル低い証拠、と思うが追い討ちしても可哀想だ。
まあこれでもβテストの時よりは格段に良くなったほうで、あの時は俺とアルゴ以外のどのユーザーとも話していない。
正直、NPCかと疑われた時期もあったぐらいだ。

俺だって、たまたま助けられたことがキッカケは話すようになったはずだし。

「そういや、キリト。おまえソロか?」
「ああ……」
「だったら、ボスマップまでパーティー組んで行かないか?オマエなら大歓迎だ」
「いや……それは嬉しいけど、、、」

なにか影のある表情でキリトがもごもごと呟く。
何か見えないものに縛られている様な感じが見受けられる。

「オマエだってソロの怖さは知ってんだろ?今だけでいいからよ」
返事も聞かずにパーティー申請を申し込む。キリトはイエスとノーの間で手を行き来させた後、

「いいのか?」
と聞いてきた。俺もヤヨイも当たり前という顔で頷き返すと、やっとボタンの片方をタップしてくれた。






それからというもの、戦闘で俺の出番はなかった。
キリトの索敵スキルでほぼ全てのMobを探知できたので安心して対処でき、なおかつキリトが強い。

豹の猛攻を物ともせず、確実に隙を生み出し、畳み掛ける。
その全てのモーションは熟練の域にあり、ブーストをかけた高威力のソードスキルは防御に難のあるこの層のMobにはほぼ必殺だ。
そして例え、生き延びたものがいたとしても、生み出した隙を確実にヤヨイが仕留める。

スカウトの俺が撹乱する必要のない、急増にして最強のパーティーが出来上がってしまった。

「……なるほど、ではスキルのモーションすら利用して、相手の攻撃を誘導するのですね」
「ああ、そうやってAIを誘導すれば、大技が決まりやすいんだ。さらに、スキルの合間に体術とか投剣とかを使えば……」
「……ほう、そんな方法が!!」

俺を前方に置き、ヤヨイとキリトはディープな話題に入りつつある。
お互い、バトルジャンキーな部分で通じ合ったようで、キリトも先程とは違って饒舌に話していた。
俺はといえば、蚊帳の外。
正直、ブーストの細かい技術がなんたらとか戦闘での誘導がどうとか、意味がわからん。

ヤヨイ、染まったなぁ。などと、考えていると角を曲がった瞬間に空が重くのしかかってきた。

腐臭はこれ以上ないほど高まり、本当に青紫色の靄を可視化してしまっている。
うっすらと見える先には大きな岩造りのドアが1つ――それがボスへと繋がる道であることは空気からして間違い無いだろう。

「キリト――どうする?」
「このまま返っても情報が無さすぎる。最低限、姿だけでも確認しよう」
「偵察戦をしましょう。私なら大丈夫です」

三人とも、気持ちは一緒なようだ。ポーションの数を確かめつつ、ゆっくりとドアまで近づいていく。

「結晶は持っていないんだ。ヤバイと思ったらすぐに逃げる。OK?」
二人が深く頷くのを確認して、バン。とドアを開け放った。

恐る恐る中へと入っていく。

中の空間は異常に広かった。最初の20メートル入っても、アタリには難の気配も感じさせない。
腐臭の原因と思われる大小様々な肉片がそこら中に転がり、ドロリと落ちそうなその肉からは真っ白な骨が顔をのぞかせている。
迷宮区にここまで広い空間があったのか、と思わせるほど天井は高く、岩壁で囲われた周りには大小様々な穴が空いている。

中には何があるのだろう?と思って一番大きな穴に目を凝らしていると、中を覆っていた闇が不意に揺らぎ、2つの小さな星が瞬いた。

ガルルルル、という唸り声を上げ、大きなソレが中から顔を出す。
迷宮区のモンスターとボスは関連が高いというが、今回も同じようだ。

血紋を背負った巨大な体躯には優雅さと力強さを併せ持ち、顔には歴戦の戦いで付いた一筋の傷痕が赤く光っている。
今にも飛びかかろうと体を丸めたところで、そのボスの名前が視えた。

<THE Scarred Panther>

「――クロウ、下がろう」
言うが速いが、キリトはジリジリと後退を始める。ヤヨイもスラっと剣を抜いてソレに習った。
獣に背後を向けるな。原初の感覚――恐怖と闘いながら、俺も短剣を抜き、キリトに続く。

「ガルルルル」

豹王は獲物の意図に気づいた様だ。爆発させるかの如く両足の力を解放し、黒き豹は俺達の頭上を軽く超えていく。

シュタ、という軽やかな着地音とともに豹は俺達と退路の間に降り立った。
顔は王者の風格を漂わせながら、惨忍に口元を歪め、鋭い犬歯を剥き出しにする。
棘のある長い尻尾がユラユラと揺れる。
あれがその直系たる猫と同じであれば――獲物を食い殺す歓喜を表しているだろう。

「逃がさないってか。上等じゃねぇか」

俺たち三人は、今度こそ全力でボスとその先にある退路へと突進した。 
 

 
後書き
ボス戦前哨戦です。
戦闘前に場面転換で話を切る書き方ばっかだけど、ワンパターン?

手に入れた<シグナライズベル>は一応、レアアイテム扱いです。
バッドアビリティ持ちなら敏捷+もいいかなぁと。
確か圏内事件の指輪が純粋強化の+20で中層エリアからだったはずなので、5層からだとそれ以下ですが、、、

そして、13話にしてやっとキリト登場。
口調が書き分けにくい……これでクラインまで入ったら……

 
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