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ソードアート・オンライン~遊戯黙示録~

作者:マローン
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FILE155 怪しげな売人オズ

後……一日!…………ALO初となる現実の賞金200万円を掛けたデュエル大会……SAOサバイバーバトルを前日に控えたこの日、MMOトゥデイを始めとした数多のMMOサイトなどではその手の話題で持ち切りとなり大盛況……大喝采!!優勝者予想などで盛り上がる者達……優勝を目指して闘志を煮えたぎらせる者達……そして、200万円獲得を目論む参加者の一人であるオズマは……by立木ナレ

「弭間く~ん!そこのネコ取って来てくれぇ!」

俺「了解っと……」

ただいま俺は地元山谷の日雇いの労働中だった。出来る事なら例の民間企業が東京都から請け負っている楽で手軽で実働1分程度の清掃事業をやりたかったのだが。
余計な事をしてくれたマスコミ連中がその実態を放送してくれやがった結果……手抜き清掃を指導していた民間企業、それに従事して税金で賄われている給料を楽に受け取っていた労働者達に対する批判のコメントが殺到……事業を請け負っていた企業はほとぼりが冷めるまで例の清掃業務を停止すると言う、俺達山谷の日雇い労働者からしてみれば圧倒的不服……圧倒的悲報を発表したのだった。

その為俺のこの日の日雇いの仕事はバスで20分そこそこ移動した先での工事現場だった。手抜き清掃事業と違い、8時間みっちり力仕事漬けで休憩時間以外はタバコを吸ってる時間も、酒を飲む時間も、スマホを触る時間的余裕すらないと言う忙しい事極まりなく……こんな仕事が毎日続けばうんざりする事は間違いないだろう。

俺「しかもこれで日給がたったの8200円かよ」

これだけ8時間みっちりと働き通していると言うのに日給は例の清掃業務よりも更に300円安いたったの8200円。
こんな待遇で何故労働意欲の向上なんて言葉が出てくるはずがなく、当たりを見渡してみるとすでに現場監督の監視の目の届かぬところでコソコソと煙草を吸っている60歳程の労働者の姿を俺は発見した。そのオッサンは例の清掃業務を嬉々として率先して希望していた常連で、こんな忙しい汗を流すような仕事は大嫌いなタイプなのでこうなる事は予想通りだった。

俺「っとにやってられねぇ……公務員だとか、大企業の管理職だとか、アイツら何で冷暖房の利いたオフィスで意味の分からねぇ会議だとかで一日に1万円とか2万円とかも貰えるんだよ……!」

こういう日給一万円にも満たない肉体労働に従事していると、俺達よりもしんどい思いをしていない癖に、俺達よりも明らかに高い金を貰ってる連中との不平等さに苛立ちは募るばかりだった。
日本は民主主義だとか言ってる割に、給料の格差の酷さはむしろ実権を握ってる連中の独裁体制なんじゃないかと思わざるを得ない有様だ。
本当に市民平等だっていうのなら、公務員だろうが、大企業の役員だろうが、日雇いの労働者だろうが、その辺のコンビニやスーパーのバイトだろうが日給や時間給は平等にするべきだという当然の事に……政治家共は何故そんな当たり前の事をやろうとしねぇんだ?


圧倒的不平等……圧倒的格差社会に苛立つオズマ!…………だが、どれだけ内心で苛立とうと、どれだけ不満を抱えようと……現実は一切変わる事は無く、オズマが嫉む公務員や大企業の役員のような高額な所得を得る手段などは無いのが現実!
無論それは、オズマがそう言った職に就くための勉学や資格所得……更には職に就くためには避けては通れぬ就職活動などと言った様々な努力を経ているわけではあるが…… by立木ナレ


俺はその日の労働時間が終わるまで、不平等な所得格差に対する苛立ちや不満を感じながら嫌々働き続けていた。
明日からALOで始まるSAOサバイバーバトル大会で優勝すれはそれで200万円が得られる……その希望とチャンスを目標にし、それで得られる金に期待を込めていた。

俺「そうじゃなくちゃやってられないだろ、こんな忙しくて面倒な事は――」

「相変わらず……グータラな本質は変わらないようだな弭間……」

俺が山谷の道路を歩き、自宅に帰宅しようとしていた時だった。俺の下の名前を呼び、愚弄するような言葉で声を掛けてきた男がいた。

俺「おっさん……嫌味言いたきゃ好きなだけ言えば良いけどよ、それに一々じっくり相手してやるほど俺は親切じゃねぇぞ」

「馬鹿垂れ。可愛げの欠片もねぇようなグータラな小僧の相手なんて求めちゃいねぇよ」

その男はこの辺り一帯のホームレスのような、薄汚れた服装を身に纏い、頭には帽子を深く被っているので顔は常にはっきりとは伺えない男だった。
年齢は推定で50代と思わしき男で、何時頃からかは分からないが長年この山谷で日雇いの仕事や早朝の泥棒市などで生計を立て、今はその辺の安宿や公園などで寝泊まりをする住所すら不定の男だった。

そしてこの男は……2022年に俺がソードアート・オンライン事件に巻き込まれるきっかけとなった最大の要因であるナーヴギアを泥棒市で格安で売った張本人でもある。
本名は不詳で山谷の者達からは誰が呼び始めたのかは知らないが、『オズのおっさん』『オズオヤジ』と呼ばれる男だった。

オズ「2年間も命懸けのデスゲームを戦い抜いて少しは真っ当な根性を身に着けたかと思いきや……お前さんは何も変わりはしねぇ……言っちまえば人間のクズって奴だ」

俺「じゃあなオズのおっさん、俺は行っちまうから他に相手してくれる相手を探せよ、早々に見つかるとは思えねぇけどな」

別に仲のいい相手では決してないので、俺は適当にそうあしらい、その場から離れようとすると――

オズ「明日から始まるALOのSAOサバイバーバトル大会で優勝して賞金の200万円で車を買うらしいが、お目当ての車をどこで買うか当てはあるのかよ?」

流石に俺がゲームの大会で大金を得ようとしている事はお見通し済みなのは分からなくはないが、どう言うわけか賞金の使い道についてまで目星を付けていやがったオズに対して、俺は振り返る事無く言う。

俺「……確かに今時珍しい上にモトが限定車だけどよ、ネットで探せばまだ中古で売ってる店はあるもんだよ。200万円あれば充分買える値段だ―――?」

オズ「これをよーく見やがれ」

オズは強引に俺の前にのめり出ると、液晶にヒビの入ったスマホの画像を俺に見せてくる。それは俺が購入を望んでいる車だった。
まぁ、それ自体は別にネットで検索すれば画像など幾らでも得られるので特に何ともないが、問題はこの画像が撮られた場所だった。

俺「なんで……ここでこの車が撮られてる?」

オズ「気になるよな……?これを見せられたら俺の話を聞かなくちゃならなくなっちまうだろ?」

あまり愉快じゃないがオズの言う通りだった。俺が購入を望んでいる車が撮影されているのは、ここ山谷のいろは商店街の深夜の路地……つまりこの男はこの車を所有しているか……あるいは手配する術を持っていると言う事だった。

オズ「来な……この車を直接見なきゃ話は進まねぇよ」

俺「…………」

俺はオズに案内されるまま、後を追う事になる。如何にも怪しげで薄汚い風貌の男に付いていく様は他所の事情を知らない人間が見れば何かしらの犯罪などに関わっているのではないかと誤解されそうな光景だが、ここではそんな事をいちいち気に掛けるものなどいないので俺達は特に誰かに呼び止められる事も無く、目的地である近場の駐車場に辿り着いたのだった。

オズ「これだよな……お前が欲しくて欲しくて溜まらねぇ車ってのは?」

俺「…………」

俺は直ぐに言葉を返す事は出来なかった。その駐車場の奥底、一台だけポツンと他の車から離れた位置に駐車されていたのはまさに俺が買うつもりだった『ユーノス・ロードスターJリミテッド』だった。通常の黄色の塗装と比べ4倍の手間暇を掛けて塗装されたサンバーストイエロー色の車体ボディはまさに91年に800台限定で生産されたJリミテッドだった。

俺「何で……この車がこんなところにあるんだよ?」

オズ「そりゃオメェ、俺が用意したからに決まってんじゃねぇか……」

俺の間抜けな質問に対してオズは愚弄するような笑い声をあげてそう言い返してきた。そして、帽子で目元は見えないが、その口元はほくそ笑むような微笑を浮かべて言った。

オズ「どうよ……例のALOの大会の賞金が入ったら、オメェにこいつを売ってやろうか?」

俺「少し見せてもらうぞ」

オズ「ああ、じっくりと見やがれ」

俺は車をじっくりと、状態がどのようになっているかを見てみる。どこかに塗装の剥がれが目立つところはないか?ソフトトップに破れた個所はないか?一緒についている同色のハードトップの方はどうだ、リアスポイラーは破損していないか、クラクションはちゃんと鳴るのか、ミッションは俺の希望しているMTなのか、バッテリーに問題はないか、エンジンはちゃんと掛かるのか、色々と俺は試してみる。

結果――91年という既に34年落ちの古い年式の車にしては保存状態は間違いなく良好と言える状態だった。
そして、問題は値段だ。俺がネットで見た同種の車との比較次第で買うか買わないかを判断しなくてはならない。

俺「アンタ、コイツを幾らで売りたいんだ?」

オズ「ざっと……150ってところだな」

オズは得意気な様子で150……つまり150万円と言う金額を提示してきたのだった。その金額を聞いた俺は思わず眉をひそめて口を尖らせて言い返す。

俺「高いだろ……確かにこの車は希少な限定車だけど高級車ってわけじゃねぇんだぞ」

俺が中古車を紹介するネットで見た限りでは、この車と同種の中古車は概ね100万円前後が相場だった。それに対してこいつが提示した150万円は保存状態の良さを考慮したとしても一回り高い、ぼったくりだと言いたくなる金額だった。
だが、オズは呆れるようなため息を付いて、首を横に数度降ってから言い返すのだった。

オズ「いや、むしろ大盤振る舞いさ」

俺「あ……なんだそりゃ?」

オズ「この車をちゃんと見やがったのかよオメェは?取って置きのオプション付きなんだぜコイツはよぉ」

オズが言っているこの車のオプションと言うのは同色のハードトップとリアスポイラーの事だろう。確かにハードトップとリアスポイラーはノーマルの状態では装着されていないオプションパーツなのだろうが、別に俺にとってはハードトップもリアスポイラーも大して重要じゃない。

俺「ハードトップもリアスポイラーも別に無くたっていいんだよ。オマケみたいなもんじゃねぇか」

だが、オズは尚も含み笑いを浮かべて、呆れるような態度で言葉を返す。

オズ「あのなぁ……俺だってこんなハードトップやリアスポイラーなんざオマケくらいにしか思っちゃいねぇよ。俺がこの金額を吹っ掛けたのはなぁ、ここが重要だからさ」

オズは車の運転席側の扉を開けると、車体の前側のエンジンルームのボンネットを開けるレバーを引いていた。ガチャンという音が鳴りエンジンルームが僅かに開いた音の後、俺を手招きして呼び寄せて、エンジンルームのボンネットを高く上げるとその中を見せるのだった。

そして――俺はそのエンジンを間近で見せつけられて、奴がこの金額を吹っ掛けた理由を理解する事になった。

俺「これは、ダウンサイジングターボエンジンってところか?」

オズ「ああ、燃費向上とパワーの向上の同時実現って奴さ」

通常のユーノス・ロードスターのノーマルエンジンは、1.6リッターのB6-ZE型を搭載しているのだが。このJリミテッドに載せられているエンジンは4代目のNDロードスターの1.5リッターのP5-VPSでしかも後付けの1.5リッター用ターボキットが装着されており、恐らくこの車の馬力はノーマルの120よりも大幅に高い200馬力以上は望めるだろう。

オズ「分かるだろ?エンジンの排気量そのものは下げて、排気量低下に伴うパワー低下はこのターボで補って有り余る。そしてエンジン排気量が1.6から1.5に下がった事で毎年掛かる自動車税って言うあのクソ鬱陶しいのも下がるのも知ってるよな?」

俺「ああ、しかも13年経ってる車だから15%増額されるって事もな……」

そして、ノーマルのJリミテッドを中古で購入し、後付けでこれと同じダウンサイジングターボにするとなると総額の支払いは150万円では決して済まない事も俺は分かっていた。
優勝賞金は200万円でその内を車の購入に使い、残りの50万円の内、おおよそ20万円強は車の免許所得に費やすので残りは30万円を切る事になるだろう。だが―――

俺「少し待ってろよ……」

オズ「何をだよ?」

俺「決まってるだろ……俺が優勝してアンタの元に200万円を持ってくるのをだよ」


オズマ……決意する!かつて自分にナーヴギアを格安で売り付け、SAO事件に巻き込まれるきっかけを作った男から今度は車の購入を決断!だが……それはあくまでSAOサバイバーバトル大会で優勝を果たした場合に限る!
果たしてオズマは、200万円を獲得し念願の車購入を為し得るのか!? SAOサバイバーバトルの開催は明日!! by立木ナレ

 
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