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永遠の謎

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50部分:第四話 遠くから来たその三


第四話 遠くから来たその三

「いや、恐ろしいまでにです」
「波乱万丈の人生です」
「あれだけの人生を歩んだ者とは思いませんでした」
「いや、全くです」
「そうなのだ」
 そしてだった。王の返事は知っている者の返答だった。
「彼はだ。凄まじい人生を歩んできたのだ」
「一八一三年にライプチヒで生まれています」
「イタリアのヴェルディと同じ年です」
「即ち歳が同じです」
「そうだ、二人の生まれた時は同じだ」
 ここでも知っている者の返答を出す王だった。
「全くな」
「そうですね。妙に因果じみたものを感じます」
「このことには」
「それもまた運命だ」
 王は静かに語った。
「ワーグナーのな」
「そこはライプチヒでした」
「ワーグナーが生まれた場所はそこでした」
「この年のライプチヒは」
 その都市についてもだ。話すべきものがあるのだった。
「あのナポレオンが敗れています」
「あの場所での戦いで」
「そしてフランスを去ることになりました」
「戦いか」
 戦いについてはだった。その名を聞いただけで王の整った顔が曇った。
「そうだったな。あの年のライプチヒだったな」
「はい、ナポレオンが激戦の末に敗れています」
「そして退くです」
「そのうえでエルバ島に流されています」
「戦いがあった。それもまた運命だったのだ」
 王はここでも運命だと述べた。
「何もかもが」
「多くの兄弟がいました。ですが父は彼が幼い頃に亡くなっています」
「母はその夫の友人と再婚しています」
「ワーグナーには二人の父がいました」
「その継父は実にいい人物でワーグナーを可愛がっていました」
 このことわかってきたのだった。そこまでだ。
「ただ。母親との関係は微妙なものがあったようです」
「疎まれてはいませんでしたが」
「どうもワーグナーの感情にしこりがありました」
「そのせいでそうなっていたようです」
「そうだったな。彼の環境は妙に複雑なものがある」
 王はまた言った。そしてだった。
 ここでだ。王から言うのだった。
「少年時代からだったな」
「はい、その頃から女性が周りにいました」
「ある姉妹に恋慕の情を抱いたこともあります」
「そしてその頃にです。シェークスピアの影響を受けて」
 一人の偉大な劇作家の名前もだ。出たのだった。
「そしてそのうえで壮大な劇を書いています」
「確かその題名は」
「ロンバルトだな」
 ここでも自分から言う王だった。その遠くを見る青い目でだ。
「そうだったな」
「あっ、はい。そうです」
「その通りです」
 周りの物達は王のその言葉にすぐに頷いた。
「ロンバルトといいます」
「ですが彼自ら破棄して今はありません」
「最早」
「そうだな。見られないのが残念だ」
 このことにはだった。王は心から無念のものを見せた。言葉が曇りそうしてそのうえで両手でそれぞれの互いの肘を持って言った。
「そのことがな」
「どうも作品にかなりの誇りがあるようで」
「失敗作を許せないようです」
「その頃から」
「それがワーグナーだ」
 王の言葉は今度は敬愛の念を込めたものになっていた。
 
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