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戦国異伝供書

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第二十話 東の戦その十三

「なかったでしょうな」
「左様ですな」
「はい、ですから」
 それ故にというのだ。
「今川家の家臣でなくてよかったですが」
「それでもですな」
「今川家にいた時も決してです」
「不幸せではなかったですか」
「懐かしい日々です、ですから駿河を手に入れれば」
 その時はと言うのだった。
「駿府に戻りたいですな」
「そしてあの地からですな」
「領国を治めていきたいものです」
「では武田との戦は」
「その考えもあり」
 そうしてというのだった。
「働かせて頂きますぞ」
「わかり申した、それでは」
「当家も共に」
「戦の場に向かいまする」
「さすれば」
 こうした話をしてだった。
 羽柴はまた一杯飲んだ、そのうえで肴の干し魚を食べて家康に対してこんなことを言った。
「いや、よい肴ですな」
「浜松の海で獲れた魚でして」
「それを干したものですな」
「兵達が口にしていて」
「徳川殿もですな」
「今の様にです」
 食べているというのだ。
「そうしています」
「左様ですか、徳川殿は今も」
「はい、贅沢は性に合わないので」
 それでとだ、ここでも笑って話す家康だった。
「それで、です」
「兵達と同じものをですな」
「戦の場では口にしていて」
「普段も贅沢はですか」
「しておりませぬ」
 やはり性に合わないからだ。
「今も」
「ううむ、そう思うとそれがしは」
 その兵達、足軽からはじめた羽柴はここで己のことを思って述べた。
「贅沢になりましたな」
「そうなのですか」
「どうにも、これはいけませぬな」
「いやいや、それがしはその方がしっくりくるので」
 質素な方がと言う家康だった。
「そうしているだけで」
「だからですか」
「羽柴殿に見合ったものならば」
「贅沢をしてもですか」
「いいですか」
「そう思いまするぞ」
「ならこれからも」
 美味いものを食べていいものを着てというのだ、そう話してだった。
 二人はこの夜は共に心ゆくまで飲んだ、そうして武田家との戦に赴くのだった。


第二十話   完


               2018・10・1 
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