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ソードアート・オンライン~遊戯黙示録~

作者:マローン
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SAOサバイバーバトル編
  FILE152 オズマ・・・税金泥棒!+須郷&倉崎大学時代総集編

 
前書き
オリジナルのストーリーです。それと、倉崎と須郷の大学時代の話の総集編もあります。 

 
ああ・・・・・・・・それにしても金が欲しいっ・・・・・・・・・・! by立木ナレ


西暦2025年6月、ALO(アルヴヘイム・オンライン)にSAOの悪夢の象徴である浮遊城、アインクラッドが実装されてから既に一ヶ月が経過していた。
SAO生還者のALOプレイヤーのみならず、新生ALOのプレイヤー達は滞空時間の制限撤廃、ソードスキルの実装を始めとした数多の大幅アップデートの直後という事も有り、こぞってアインクラッドの頂点に到達する事を夢見て、攻略に勤しんでいた。そして、SAO時代、ユニークスキルの一つである補足転移の使い手であったオズマも……by立木ナレ


倉崎「ひゃはははっ!楽だなホントによぉ!こんな楽な仕事で日給8500円だなんてよ!仕事なんて大っ嫌いだけど、こんな楽な仕事なら大歓迎だぜ!」

恭史郎「バカ、騒ぐんじゃねぇよ倉崎!また前みてぇにマスコミが嗅ぎ付けて来て鬱陶しい事聞いてくるかもしれねぇぞ!」

俺「どっちも静かにしてろよ、俺等は国民の税金で賄われてる事業で金貰ってるんだからよ、税金泥棒呼ばわりされるぞ」

俺達が今やっている日雇いの労働は主にホームレス就労対策事業として行われている仕事だった。東京都から民間企業が請け負っている形であり、その内容は主に清掃で労働時間は朝8時から午後1時半までの5時間半。

これだけで日給が8500円と言うだけでも破格の給料で美味しい仕事なのだが、この仕事は実働は実質1分弱に過ぎないのであった。

恭史郎「ったく、人数限定なのが厄介なこった!こんな上手い仕事なんだから金に困ってる連中が集まって来るのは目に見えてるってのによぉ、20人限定なんてそうそうあり付けねぇじゃねぇよ!」

俺「仕方ねぇだろ。あんまし派手に大人数を募集すると、世間様に大っぴらに広まって、世論の反発とかで中止になっちまいかねねぇからな」


それでは、オズマ達にとってありがたい楽な実働1分弱で8500円の労働内容について解説しよう!応募した労働者たちを乗せたバスが立ち寄る場所に向かうと、公園の喫煙所で長時間の休憩!!
始業時間を過ぎても動こうとはせず、次の場所に移動したのは約2時間半が経過した頃だった……走ること約40分、労働者たちは作業用のベストとヘルメットを身に着け、トングとゴミ袋を手に1列に並ぶ。

が、これで作業開始かと思われたのだが……東京都から作業を請け負っている民間企業の現場監督が作業場所が書かれた黒板を置き、労働者がゴミを拾う様子を写真に収めていく。しかし写真を撮り終えた次の瞬間、労働者たちは作業服を脱ぎ、再びバスに乗車……一斉に圧倒的乗車!!

その作業時間は僅か1分45秒。そしてバスは新宿駅西口で労働者たちを降車させた。時刻は午前10時36分、本来の勤務時間である午後1時半より約3時間も早く終了!本来の就業時間にすら満たぬ時間……これで報酬8500円!!

そして、労働者達は現場に向かうバスの中では『今日は汗をかくような仕事じゃないから良かった!』『写真撮って終わりだもんね、今日は大当たりだ、ハハハッ!』等と言う、仕事を舐め切った会話を楽しげに繰り広げていた!! by立木ナレ


そして俺達は、街の清掃作業をしている様子を撮影するだけの仕事とは呼び難い仕事を午前中に済ませてバスから降りて、その場から解散しようとした矢先だった。

「すみません、お話よろしいでしょうか?」

倉崎「げっ!面倒な連中が嗅ぎ付けてきやがったじゃねぇか……」

それはマイクを持った女とカメラを持った男に、数人の撮影機材を持った連中。明らかにマスコミの連中だった。
丁度報酬を受け取ったばかりの倉崎は露骨にめんどくさそうに表情を歪ませている。爺さんも腹立たしそうに舌打ちしてマスコミたちを睨み付けていた。
そんな俺達にマイクを持ったリポーターの女は無遠慮に取材を開始する。

リポーター「5日間にわたり密着させて頂いておりましたけど、これは本当に清掃のお仕事なんでしょうか?我々が見る限りは殆どがバスでの移動と公園での休憩をしていたように見えたのですが!?」

恭史郎「ぐちゃぐちゃやかましいんだよあーん!」

早速マスコミの問い詰めるような一方的な取材に大声で切れたのは我が祖父だった。

倉崎「けけけ、俺は今のうちにおさらばするとするか!後は頼むぜクソ爺!」

倉崎は勝ち誇った笑みを浮かべて太った身体でドスドスと足音を立てて立ち去ろうとする。

恭史郎「取材がしたきゃ謝礼払いやがれ!先払いで最低1万だ!それが払えねーならマイクもカメラも向けてんじゃねー!」

リポーター「このお仕事は税金で賄われている事業ですよね?国民の税金でお給料をもらっていると言う自覚はあるんですか!?」

爺さんが邪険に怒鳴りつけたにもかかわらず、マスコミたちはしぶとく取材を続けて、するとマイクを持ったもう一人の女と付き添いのカメラマンが俺の方に向かって走って来やがった。

俺「おい――なんだよ一体!」

リポーター「まだお若いですよね?学校はどうしてらっしゃるんですか?親御さんたちはこの事をご存じなんですか!?」

俺「学校は小学校卒業してから行ってねぇし、親父も爺さんも知ってるけど、特に文句何て言わねーよ!てか、余計なお世話だっての!」

そもそも俺の祖父に至っては俺よりも先にマスコムの取材のターゲットにされたところだしな。

リポーター「それはご家庭の方に何か問題があると言う事なんでしょうか?学校に行くことを許されずに働く様に言われて―――あ、待ってください!」

相手にしているのも馬鹿らしくなり、俺は全速力で逃げるように走り出す。リポーターとカメラマンはしつこく俺を追いかけようと走り出すが、すぐに近くにいる他の労働者達を捕まえて、そいつらに狙いを定めたようだった。

そして俺が向かうのは既に16年以上暮らしている実家のアパート。ノックなどせずに部屋の中に入ると家の中にいるのは親父が一人だけで、寝そべりながらゲームボーイをしていた。
俺が帰宅した事に気が付くと、親父は覇気の無さそうな声で言った。

時生「楽な労働ご苦労さん」

俺「ああ、ホント楽だったよ。最後にマスコミ連中に絡まれたこと以外はな」

時生「そりゃ、災難だったな。んで、帰ったら早速VRゲームかよ?」

俺「ああ、もうすぐ開催されるSAO生還者限定のバトル大会には賞金が掛かってるんだ。8500円だとかケチな金額じゃねぇ、車一台が今度こそ本当に買える金額がな……」

そう、俺は本来ならSAOのリアルマネーゲームの賞金で買う事が出来たはずの車の購入を、近々ALOで開催される事が決定したバトル大会の賞金で手に入れる事を目論んでいた。
SAO生還者たちの事に興味津々などこぞの輩が大会の賞金を出資しているらしく、その真意について色んな疑問が浮かび上がっているが俺からすりゃ、ゲームで大金が手に入るのなら願ったり叶ったりだ。

俺「ユーノス・ロードスターJリミテッド……今度こそ必ず……」

俺は自分の古いスマホの画像に映っている、狙いの車をじっと見ながら、その車の車種を口にしていたのだった。
ALO初となる現実での賞金の掛かったバトル大会『SAOサバイバーバトル』これに優勝すれば俺は今度こそ大金を……車一台を難なく変える金が得られるんだ!














西暦2010年代後半……東都工業大学にて! by立木ナレ


倉崎「あーあ、研究つまらねー!教授共も毎日毎日、茅場は立派だとか、茅場は将来有望だとか何べん同じ事ほざいてんだよ!」

東都工業大学の重村ラボにて、当時在校生であった倉崎は大声で喚き続けていた。東都大学の歴代の学生たちの中でも指折りの天才と称されている同級生の茅場晶彦は周囲からの期待、羨望、それらを一身に集める存在であったが、倉崎のような品性下劣にして屈折した男はそれが圧倒的に気に食わないのであった。

倉崎はラボで研究のレポート作成に勤しんでいる一人の眼鏡を掛けた学生を背後から見据えると、見ている方が不快感を感じるような笑みを浮かべて駆け寄った。太り気味の体形ゆえに腹が揺れ、腹をだらしなく揺らしながら倉崎はレポート作成に勤しんでいる後輩の学生の背後から右腕でチョークスリーパーを掛けるのであった。

須郷「ぐぅ……っ!く、倉崎先輩……!」

倉崎「ひゃはははははっ!油断してんじゃねーぞ須郷ちゃんよぉ!この俺が同じラボにいる限り――オメーに平穏なキャンパス生活なんてありゃしねーんだからよぉ!」

倉崎の後輩の須郷は背後から不意打ちのチョークスリーパーを掛けられて、自分の首を締める倉崎の右腕を自身の右手で必死に叩き手抵抗し、倉崎を睨み付けていた。
そんな須郷と倉崎のやり取りはまるでまるで小学生か中学生!少なくとも名門と言われる大学とは思えぬ低レベルで幼稚な光景!―――だが、これは最早この重村ラボでは日常でもあり、周囲の学生たちは常日頃から傍若無人に騒々しく振舞う倉崎に対して嫌悪や侮蔑の視線を向けながらも、誰一人として声を掛ける事は無かった。

そしてそんな倉崎から特にほぼ毎日のように嫌がらせ同然に絡まれ、いびり倒されるのは後輩の須郷伸之(すごうのぶゆき)であった。
倉崎は苦しそうに悶える須郷の姿を見て上機嫌に下品で喧しい笑い声を捲き散らし、ようやく須郷を解放するのだった。
毎日のように上級生の立場を良いことに自分に絡んでくる倉崎に対して須郷は首を抑えて『ぜぇぜぇ』と息を整えながら、憎悪の入り混じった視線を向ける。
が、その時すでに倉崎は須郷から視線を放し、丁度ラボに入ってきた一人の女学生の方に目を向けていた。

倉崎「お、見ろよ!オメーの大好きな神代が来たじゃねーか!」

須郷「な、なにを―――適当な事を言わないで下さい倉崎先輩!」

ラボを訪れたのは同じく重村ラボに籍を置く女学生で須郷の同級生の神代凛子(こうじろりんこ)であった。
彼女が入って来ると同時に倉崎はニタニタと笑みを浮かべながら、そんな言葉を掛けると、須郷は顔を赤くして必死に否定するがその表情はむしろ図星である事を認めているも同然で、それにより倉崎は更に須郷を弄り倒すのだった。

倉崎「おいおいおーい!」

須郷「っつ!」

倉崎は大声を出しながら須郷の背中を強く叩き、そして腕を首に回し顔を近づけてくるのだった。その過剰で乱暴な接し方に須郷は日々ウンザリするのであった。

倉崎「それで誤魔化してるつもりかよ須郷ちゃんよぉ~?バレバレなんだよ、オメーが神代に惚れ込んでる事も、毎晩ズリネタにしてやがる事もよぉ~」

須郷「いい加減にして下さい……!なぜ僕が彼女の事を……」

と、須郷はこの期に及んでも口では否定するがその視線は常に神代凛子の方に向けられ、先程のよりもその顔は赤く染まり、当然それを倉崎が逃すはずがなかった。

倉崎「ぎゃははははっ!なーに赤くなってんだ須郷ちゃんよぉ!つーかもう勃ってるだろ?勃ってんじゃねーかよ!?」

須郷「声が大きいですよ倉崎せんぱ―――ぐぅっ!」

大声で下品かつ卑猥な言動を繰り広げる倉崎に対して須郷が制止の声をあげようとしたが、すぐに倉崎の左手が須郷の股間を鷲掴みにし、須郷は苦悩の表情を浮かべる。
そんなやり取りに周囲の学生――特に女学生たちの殆どは倉崎に対して嫌悪感を露にする表情を浮かべ、中には須郷に対しても倉崎と同列と見なている者すらいる状態であり、まさに須郷からしてみれば巻き添えの風評被害であった!

倉崎「けどよぉ須郷ちゃんよぉ~。残念だったよなぁ~」

そして倉崎は不快な笑みを浮かべたまま須郷にそう囁く。

倉崎「オメーが狙ってた神代の奴は大天才の茅場のヤローの女になっちまったときたもんだ―――あの脳味噌ん中が計算式で埋まってそうな茅場のヤローが女作りやがるたぁ、どー言う風の吹き回しか知らねぇが、相手があの大天才様じゃ~、神代がオメェの女になる事はあり得ねーよなぁ?―――なんたってオメェは茅場に一度も勝った事ねぇモンな須郷ちゃんよぉ―――!!ぎゃははははははっ!!」

須郷「ぐっ――――!!」

須郷にとって茅場と比較される事は東都大学入学以来、常に彼のプライドを傷つける最大の屈辱であり、須郷にとって茅場の存在そのものが憎悪の対象ゆえに、それを嘲笑う倉崎に対して須郷は殺意すら感じされる形相で睨みつけるのだった。
そして、倉崎の言う通り神代凛子が茅場晶彦と交際している以上―――自分に付け入る隙などもはやない事を須郷自身が自覚しているが故にその屈折した憎悪は更に増すのである!

倉崎はそんな須郷の心情をいやらしく見抜き、ニタニタと微笑を浮かべたまま――須郷の耳元でささやくのだった。

倉崎「ま、神代がオメェの女にならねーのはこの際仕方ねぇとしてだ……せめて一発くらいやりてぇだろ?」

須郷「やりたいって……何をですか?」

それままるで…悪魔の囁き!倉崎のその囁きは須郷の叶わぬ恋心を逆撫でし、悪意ある行動……破滅への行動へといざなう悪魔の囁きであった!

倉崎「何をですか……じゃねーだろ分かってるくせによぉ!!せめて一発くらい神代を抱きてぇんだろって言ってんだよぉ!ゴム付けずに生でぶち込んでよぉ~、んでもってそのまま暴発させて中でブチまけてぇよな須郷ちゃんよぉ!!」

須郷「いい加減にして下さい倉崎―――先輩!!」

倉崎「ひゃははははっ!!そう恥ずかしがるんじゃねーよ!どーせオメェ、大学生にもなって童貞野郎なんだよなぁ?クセェ童貞チンポブラブラとさせてんだよなぁ!?だったら神代に頼んでみようじゃねぇか……僕の童貞貰ってくださいってよ」

ラボにいる人間全員に聞こえてしまいそうな程の大声で卑猥な言動を繰り返す倉崎―――須郷はそれを止めようとするも倉崎は須郷を愚弄しゲラゲラと笑い続ける。
そして、ねっとりとしたまとわり付くような、見られる者からしてみれば悪寒すら感じずにはいられなくなるような倉崎の視線が向けられた先にいたのは神代凛子であった。

須郷はその倉崎の視線に気が付き、即座に悪感を感じるが須郷の制止は倉崎の行動よりも一歩遅れてしまう。

須郷「な、なにするきですか倉崎せ―――」

倉崎「おーい神代ぉ~、ちょっと良いか~?」

神代「……なんですか倉崎先輩?」

須郷の制止を無視して倉崎は大きな声で神代に声を掛ける。他の女学生たち同様、倉崎に対して悪印象を抱いている神代は冷たい目でそっけない態度で返事をしたが、倉崎は構う事無く喚き散らすのだった。

倉崎「神代知ってるかぁ~?須郷ちゃんってばよぉ、この年でま~だ童貞なんだぜ~!やりたくてもやる相手がいなくって毎日一人でしこってやがんのよ!哀れだと思うだろ~?」

神代「それが……なにか?私に何の関係が?」

あくまで神代は倉崎の話に一切の興味を抱く事無く、冷めた目で淡々と答えるのみであった―――そして、須郷はと言うと。

女学生「須郷君ってそんなムッツリスケベだったの……茅場先輩に次ぐ逸材なんて言われてるけど、中身は茅場先輩と大違いね」

女学生「何か私――倉崎先輩程じゃないけど須郷君が気持ち悪くなってきた。勘違いされてストーカーにでもなられたら困るから、これからは彼と口利かない方が良いかもしれないわね」

女学生「倉崎の言ってる事なんて真面目に聞いてても仕方ないけどさ……本当に須郷君が神代さんのこと考えながら一人でしてるんだとしたらキモすぎるよね……私達の事も頭の中で変な妄想してるんじゃないかしら?」

須郷「くっ……どいつもこいつもっ!!」

須郷……倉崎の言動によりあらぬ誤解を抱く女学生たちの侮蔑と嫌悪の視線に耐えきれずにその場から走り去る…圧倒的逃避!
だが、ここで逃避したところで彼が茅場に劣る事…神代凛子が自分の女性にならぬ事…これからも倉崎によって日々イビリ倒され続ける事に一切の変化はないのであった!!

倉崎「だからよぉ~、分かるだろ神代よぉ!須郷ちゃんの臭せぇ童貞貰ってやれって言ってんだよぉ~、どうせ毎晩茅場とやってんだろぉ?茅場に仕込まれたテクで須郷ちゃんに中出しさせてやれよぉ~」

神代「―――っ!不快な捏造話に付き合うつもりはありません……私は貴方よりは忙しいので失礼します!」

当初は倉崎の卑猥な話を適当にやり過ごしていた神代も茅場との関係を持ち出された途端、顔を真っ赤にして怒りを垣間見せたのであった。
それ故に彼女は倉崎の話を全て彼一人で作り上げた捏造と判断し、須郷が自分に想いを寄せているなどとは気が付く由も無かった……


西暦2010年代後半……東都工業大学、重村ラボにて! by立木ナレ



須郷「や、やった……やったぞ……よ、ようやくここまで……ここまでの精度にまで仕上げたんだ……!!」

東都大学重村ラボの学生である須郷は一枚のマイクロSDを血走った不気味な眼光で見ながら、息絶え絶えと言った様子の声でそう呟いていた。

比嘉「あ、須郷せんぱ~い。そいつの開発ってまだ続けてたんっすねぇ~」

不気味で近寄りがたい雰囲気すら放っている須郷に飄々とした口調と声色で声を掛けたのは、東都大学の一年生で後輩の比嘉タケルであった。彼は一年生ながらIQ140と称されるその卓越した頭脳を見込まれ、名門の重村ラボの一員となり、大天才と称される茅場晶彦、大きな格差こそあり、本人は良く思っていないものの、永遠の№2須郷に次ぐ逸材として見られる程であった!

須郷「クク……クク……クキキキキキ」

須郷は血走った眼を比嘉の方に向ける。その目は既に焦点が定まっておらず、尋常ではない精神状態である事が目に見えて分かるほどで、比嘉は表面上は平静とした態度で接しているが、内心では須郷の事を危険な薬に手を出した異常者なのではないかと思わざるを得ないほどであった。

須郷「まだ続けてた……だって?クク……ククククク……むしろさぁ比嘉くぅ~ん。続けない理由が何一つないじゃなぁいかぁ~。何せこれは僕が茅場先輩を超える事を証明する為の切り札なんだからさぁ~」

比嘉「あ~、はいはい。よ~く分かってるっすよ……人間の脳に移植可能で記憶に干渉する事が出来るんすよね?―――完成したらの話っすけど」

須郷が心血を注いで研究に打ち込んでいるマイクロSDの正体はまさに前代未聞!マイクロSDでありながら人間の脳内に移植を可能とし、移植された人間の記憶のコピー……更にはマイクロSDに保存されている記憶データ、知識データを、人間の脳にインプットさせる事すら可能という構想で開発されていると言う、一見するとそんな事が出来るはずなどあるか!と思われる代物であった―――

須郷「ククク……クククク……今に見てろよ茅場晶彦!こ、これが完成さえすれば僕は名実ともにアイツを―――あの男を超えた事になるんだ……!!そ、そうすれば……これまで奴一人に注がれていた地位も期待もす、全て――全て僕の物!そ、そして……か、彼女も僕の物にぃ~」

比嘉「自分の物になると良いっすねぇ~、神代先輩が……」

茅場の開発の一端を見聞きしたことのある比嘉は、ハッキリ言って須郷がこのマイクロSDを完成にまでこぎ着けたところで茅場を超えた事になるとは到底思えないのだが、茅場晶彦の恋人、神代凛子に想いを寄せていると言う点では同じであり、彼女が自分の元には――という想像をした事が無かったわけではないのは事実であった。

そして比嘉は、まるで子供の頃に見た事のあるアニメの如何にもなマッドサイエンティストのような笑みを浮かべる須郷を遠い目で眺めていた時だった――

倉崎「あぁ~……あったまイテェなクソがぁ~……」

比嘉「あ、倉崎先輩」

倉崎だった。東都大学の学生とは思えぬほどに知性や品性の欠片も感じられぬ品性下劣な男にして、須郷と比嘉にとってはありがたくない事に先輩である男であった!
倉崎はフラフラとした足取りで、ヨレヨレの汚らしい服装でラボの中をフラフラと歩き比嘉の隣で立ち止まった。
その口からは瞬時にわかるほどのアルコール臭が漂ってくる。

比嘉「うげっ……倉崎先輩どんだけ飲んだんすっか?アンタまさかその状態で自転車漕いで来たんじゃないっすよねよね……?」

倉崎「うっせぇ……!昨日はま~た、別のラボの女子共が茅場君に声掛けただとか、茅場君の仕事を少し見ちゃっただとか黄色い目障りな声で騒ぎやがってうぜえったらありゃしねぇ……飲まずにやってられるかってんだ!!」

比嘉「ははは、そりゃモテるっすよね~。なんせあの若さで年収は1億だとか言われてる人っすからね~」

倉崎が茅場が女学生たちからの人気の的になっている事に対して嫉妬染みた苛立ちを向けるのは何時もの事……比嘉は適当に話を合わせて相槌を打ちやり過ごす事で、須郷の様に倉崎のイビリの対象になる事をなるべく避けるようにしていたのであった。
そして案の定、倉崎が次に目を付けたのはテーブルの上にぽつんと置かれているマイクロSDを不気味な雰囲気を放ちながらじっと見ている須郷の姿であった。

倉崎「おいおいお~い、須郷ちゃんの奴、マイクロSDなんざジロジロ眺めてなんだありゃ?ますますキモい面になっちまいやがって」

比嘉「まぁ、須郷先輩はあれで茅場先輩を超えるなんて言っちゃってますからね~、あれに対する愛情は我が子同然ってところなんじゃないっすかね?」

倉崎「ったく、餓鬼以前に彼女もいねーような童貞が我が子同然の愛情とかって順序ぶっ飛ばし過ぎじゃねーか……ここは、この俺が先輩として喝を入れてやるっきゃねーな」

倉崎はニタニタと下卑た笑みを浮かべる。それは主に彼が須郷をイビる時に見せる表情であり、比嘉は苦笑いを浮かべながら一言もうす。

比嘉「またっすか……あんまりやり過ぎると、今度は倉崎先輩が須郷先輩の恨みを買って――って、っ聞いてないっすねぇ~……」

倉崎はさっさと下卑た笑みを浮かべたまま、須郷のもとに駆け寄った。太り気味の体形でドタドタと駆ける足音が背後から響き渡ると、それまで嬉々とした不敵な笑みを浮かべていた須郷も、一瞬にして現実に引き戻されたかのように……強張った表情で背後を振り返るとそこには――茅場とは大きく違った意味で天敵ともいうべき上級生の倉崎の顔が迫っていた。

須郷「あ、倉崎せんぱ―――」

倉崎「オーラ!茅場に負けっぱなしの須郷ちゃんよぉ~!今度は何を企んでやがるか知らねぇが、ま~だ性懲りも無く神代を自分の物にしてやろーとか考えてやがんのかぁ~?」

須郷「ぐっ……」

倉崎はいつもの調子で須郷の首根っこにチョークスリーパーを掛けて、須郷は苦しそうに呻き声を挙げる。
そんな見慣れた、まるで男子小中学生のような幼稚なやり取りを比嘉は呆れたように頭を抱えながら呆然と見ていた。
が、倉崎は酒の酔いによって本調子ではない故か、何時もの不快な声に力は籠っておらず、その顔色も普段に比べて息苦しさを感じさせる表情だった。

倉崎「ところで須郷ちゃんよ……うぅっ!!」

そして、その変化は不意に倉崎を襲う!それは吐き気!アルコールが身体を巡り、暴飲暴食の腹は悲鳴を上げ、倉崎に強烈な吐き気を催したのであった!

須郷「げほっ……げほっ……」

倉崎「うぅ……ううっ!」

須郷「く、倉崎先輩……ま、まさか……まさか……!?」

倉崎のチョークスリーパーから解放された須郷ではあったがすぐに倉崎の異変に気が付き、次に目の前で起こり得るであろう光景を想像し、その頭の中をとてつもない悪魔のような悪寒が襲った!

倉崎「うげおえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

須郷「止めろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

その場で嘔吐した倉崎の呻き声と、それを目の当たりにした須郷の絶叫が同時に木霊した瞬間であった……よりにもよって倉崎の嘔吐はテーブルの上……すなわち、須郷が心血を注いで開発しているマイクロSD目掛けて吐き出されていたのであった!

比嘉「……うわ……こ、これは流石に……見てられねぇっすよ……」

比嘉が思わずそう口漏らし、目を背けるのも無理も無かった。須郷のマイクロSDは倉崎の嘔吐物によって埋め尽くされ、あっという間にその姿かたちは跡形も無く埋もれてしまう。
そんな悪夢のような悍ましい光景を目の当たりにした須郷は力なくその場で膝を付き、一瞬にして放心……!喪失感から大の男の大人でありながら号泣!!

倉崎「うっへぇ~、吐いて散ったぁスカッとしたかもしれねぇけど……ああ~、やっぱりまだ頭が痛みやがるぜ……こりゃ寮に帰って休むか」

にも拘らず、倉崎は自分が仕出かした事の重大さなど全く意に介する事無く、自分の嘔吐物に埋もれたマイクロSDの存在など完全に失念している様子でそう言い、自分の目の前で力無く膝をついて泣き崩れている須郷を見るや否や―――

倉崎「なに泣き呆けてやがるんだっての!!」

彼の頭を力強く平手で叩く!それはまさに……屍に対する非常なる追撃とも言える!

倉崎「俺は寮に戻るからよぉ、後始末頼んだわ須郷ちゃんよぉ――ちゃんと聞いてんのかテメェ?あ~、クソ……頭イテェ~」

悪態をつきながら倉崎はそれ以上須郷に見向きもする事なくそそくさとラボを退室しようとするのであった!

比嘉「倉崎先輩……アンタ結局何しに来たんっすか……?色んな意味でデストロイヤーっすよ……」

比嘉のそんな呟きは倉崎の耳に届かず、須郷の野望、努力、研究を一瞬にして完膚なきまでに破壊した男は一切の罪悪感を抱く事無く去って行ったのであった!己がどれほどの憎悪を浴びせられているのかなど一切感じる事無く……
 
 

 
後書き
今回の話に出てきた山谷のずさんな清掃事業は実際に2018年に放送されたネット番組で取り上げられた実在の物です。

2025年の時点で存続しているかどうかは定かではありませんがね。 
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