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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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ミーティング・フォー・ブルネイ・2

 
前書き
 今回の話は、ゲームシステムを無理矢理現実に落とし込もうとすると小難しくなっちゃうよね?って話です。 

 
「あ~、ネガスペクトラムが何なのか理解してないって奴は?手ェ挙げな」

 会議室にいた全員に尋ねてみると、手を挙げなかったのは青葉と武蔵、それに最古参の大淀と明石だけだった。

「おいおいおい、お前ら幾らほとんど使われなくなった技術だからって、勉強はしとくモンだぜ?」

「すみません……不勉強で。なので簡単にでも良いですから、ご説明願えませんか?提督」

 神通にそこまでへりくだられると、逆に居心地が悪くなっちまうぜ。

「わ~ったよ、ったく。大淀ぉ、後頼む」

「わかりました……スペクトラムとは英語で連続体、または分布範囲を示す言葉です。物理学的に言えば電磁波や光、周波数等によく用いられる用語ですね」

「けどさぁ、今聞いてるのはネガスペクトラムであってスペクトラムじゃないよ~?」

「ですから、ここからが重要な話なんですよ北上さん。さんがネガスペクトラムとはスペクトラムが反転した物、と捉えると解りやすいでしょう。連続しているエネルギーの動きが歪んだ空間……皆さんも見た事がある、というか体験しているハズですよ?」

 大淀にそう言われても、はて?と首を傾げる一同。

「……エリート級以上の深海棲艦が奇妙な発光をしているだろう、アレだ」

 答えの出てこない現状に業を煮やしたのか、武蔵が唸るように呟く。それを聞いて『あぁ、アレか』と納得する一同。

「確かに、それも深海棲艦に絡むネガスペクトラム現象の一部ですね。後は奴等の大規模侵攻の際に海が紅く見える現象も同様です」

「そしてそのネガスペクトラム現象の力場は、深海棲艦が強力になればなるほど強さも範囲もデカくなる」

「更に言うと、力場の中では電子機器だけでなく生物にも悪影響です。電子機器は数時間でおじゃん、生物もその寿命を大きく削られる事が報告されています」

「だからこそ、姫や鬼よりも強力なネームレベルってのは何を置いても最優先に片付けなきゃならねぇのさ」




「でもdarling、それと敵を見つけるのに何の関係があるんデスか?」

「だ~か~ら、そのネガスペクトラムを観測して敵を見つけんの!解る!?」

 この正妻、鋭い所は鋭いクセに不得意な所はとことんポンコツである。特にも科学的な分野は苦手で、今も何とか話に食い付いていくのがやっとの状態だ。

「まぁ、補足説明致しますと、ネガスペクトラムはレーダーを無効化します。無論、電子機器を狂わせますから無線誘導のミサイル等も鉄屑になりますね。ですから私達艦娘のような有視界戦闘が唯一の抵抗手段になるワケです」

「はいはーい、それってミノフスkーー」

「比叡さん、それ以上はいけないよ」

「……あい」

 時雨にツッコまれてしょぼくれる比叡。

「確かに感覚としちゃあ近いものがあるかもな。大きな違いは人工衛星を利用すれば大規模な力場の観測は辛うじて可能、ってトコだな?」

「ですね。ネガスペクトラムは電磁波等のエネルギー流を狂わせて『澱み』を作り出します。その澱みを見つければ理論上は観測が可能、という訳です」

「理論上は、って事は現実的には難しいっぽい?」

「そうですね、そんな事が出来るのならば羅針盤のような曖昧な物に頼らなくてもいいわけですし」

「問題点は幾つかあります。まずかつてのネガスペクトラム観測システムでは、ネームレベルクラスの力場の発生でなくては観測が困難だった事、そしてその精度は大体の海域を絞り込む程度にしか役に立たなかった事です」

 それでは現場レベルでは使えない、と会議室内の一同は納得した。20年以上前ならいざ知らず、ネームレベルの発生件数は減少の一途を辿っている上に一番被害をもたらしているのはネームレベルでも、ましてや鬼でも姫でもない『普通の』深海棲艦なのだから。

「通常の深海棲艦は観測出来ないんですか?」

「出来るとは思いますよ?奴等が万単位の群れで固まって行動してれば、ですけど」

 赤城の疑問にあっけらかんと答える青葉。通常の深海棲艦でも微弱なネガスペクトラムを放出(?)しているので、塵も積もれば……の理論で数万の群れであれば観測出来るだろう、というのは前から言われていた事だった。しかしそんな巨大な群れが襲ってくれば勝ち目など無いのだから、逃げの一手しか無いのだが。

「その微弱なネガスペクトラムを観測して敵を探知しようとして開発されたのが私達のよく知る羅針盤なのですが……その完成度はお察しの通り、です」

 未完成品もいいところではあるのだが、敵艦隊の位置を絞り込む精度はそれまでのネガスペクトラム観測よりもかなり正確であった為に、そのまま現場への実戦投入が開始されて特に改良される事もなく、今日に到っている。

「あ~、だから羅針盤ってブレるし、たまに敵が居なかったり、代わりに渦潮に巻き込まれかけたりするんだ。長年の疑問が解けた気がするよ~」

 と、のほほんと語る北上。

「とにかく、先程の空撮映像が撮られた際に、過去のネームレベルよりは弱いですがネガスペクトラムを日本の人工衛星が捉えてます。やれやれ、物持ちがいいのが幸いしたというか何というか……それを論拠に壬生森提督は『リバースド・ナイン』をネームレベルだと断定するに至ったようです」

「とは言っても相手は過去に何回か沈められてんだ。俺達が沈められない……なんて馬鹿な話は無ぇやな?」

 提督はニヤリと笑い、煙草に火を点けた。ネームレベルだのネガスペクトラムがどうのだのは重要な事ではなく、『どうやったら敵を仕留められるか』が重要なのだから。




「いかにネームレベルとはいえ基本は空母だ。航空攻撃の火力は高いが、接近戦に弱い。初撃……それさえ凌ぎ切ればニライカナイの連中に頼るまでもない、そうだろう?」

 用意されていた茶を啜り、武蔵が断言する。

「防げれば、ですけどね。この空母は単騎でニ航戦のコンビから制空権を奪い取る位には航空戦に長けています」

 心配そうに翔鶴が呟く。

「でも、それは他の鎮守府の娘達の話でしょう?私達なら見敵必殺……負けるハズがありません」

「それは慢心が過ぎるぞ、赤城。敵は撃沈記録があるとはいえネームレベル……油断も過信も禁物だぜ?」

「すみません提督……では、懐かしの南雲機動部隊ならいかがでしょう?2隻で無理なら4隻で磨り潰してやります」

 別名、ゴリ押しである。しかし、この手の真っ当な相手ならそれが一番確実だし、まさかの状況でも対応しやすい。

「随伴には対空能力の高い摩耶と……初月だな。秋月と照月は打撃部隊の護衛、凉月は鎮守府の防御だ」

「では、直接奴に仕掛けるのは私と金剛を中心とした打撃部隊を編成しよう。それでいいかな?筆頭秘書艦殿?」

 武蔵が尋ねれば、金剛も黙って頷く。

「打撃部隊の方にも直掩機が必要じゃないですかね?」

「なら、そっちは私と翔鶴姉で行くわ。いいよね提督さん?」

「あぁ、それでいいだろ。雲龍達も考えたが、ここは燃費より総合力優先だ」

 瑞鶴にそう返事を返す。しかしよくもまぁ戦術が決まれば編成会議の早い事。普段から作戦の立案から編成の相談まで自分達でやっているからな、こういう時にはスムーズに話が進む。そんな状況下で翔鶴は喉に何かつっかえたような顔をしていやがる。

「翔鶴姉、どうしたの?何か不満?」

 何か言いたいのだが、その内容に躊躇いを感じているような、そんな顔だ。

「なんだよ翔鶴、言いたい事があんならハッキリ言え。迷いを抱えて出撃すると死ぬぜ?」

「……提督、この作戦は我々だけでネームレベルを倒す為のプランですか?それとも『蒼征』率いるニライカナイ艦隊が来るまでの時間稼ぎが目的ですか?もし前者なら……我々だけでネームレベルに勝てるとお思いですか?」

「愚問だな。そもそも何であの性悪狐がフィリピン海を戦場に選んで、俺に囮を頼んできたと思う?次の奴の狙いがウチだからよ。どうせ巻き込まれるなら先手を打って、ついでに囮役もやって貰おうってな」

 俺の推測だが、ほぼ外れてはいないだろうという確信がある。あいつはそういう野郎だ。

「『蒼征』の到着が早いか、リバースド・ナインの到着が早いか……そんなチキンレースの観客でいるつもりはサラサラ無いんでな。それにあぁして事前に準備をさせるように電話してきたって事は、恐らくリバースド・ナインの方が早いっつー公算が奴の頭ん中にゃあるんだろうぜ」

 俺の言葉にざわつく一同。黙らせる為に机をバン!と叩く。それで静まり返る室内。

「つまり、あのfoxは最初からワタシ達の戦力を時間稼ぎの為にアテにしてプランを練ってるんデスね?そして、その時間稼ぎは倒すつもりの全力でやらなくてはとても務まらない……でしょう?」

「そういうこった。ネームレベルを相手に手加減できるとは思えねぇ。奴等が到着する前に仕事を無くしてやる位のつもりで各自仕事に挑め……以上、解散!」

 ザッ、と一同は敬礼で同意を示した。



 作戦会議が終わった後の会議室。

「……大淀、気付いたか?」

「えぇ、リバースド・ナインの肩に留まった猛禽類……ですね?」

「あぁ。ありゃあ『ハクトウワシ』だ……奴の出自に絡んでいる物だとしたらーー」

「恐らくは。事実、壬生森提督にCIAのエージェントらしき人物が接触を図ったと報告があります」

「やれやれ、ウチの鎮守府はとことん彼の国とはご縁が深いらしいや」

 思わず溜め息が漏れちまったぜ……



 
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