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最後のティーゲル

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第一章

               最後のティーゲル
 最早誰が見ても明らかなことだった、ドイツの敗北は間近だった。
 東からはソ連軍が、西と南からは連合軍が来ており北はどんどんドイツの手から離れていった。四月になるともう戦局は破滅的だった。
 まともな部隊も存在せずどの街も空襲で焦土になっていた。それはデンマークとの国境に近いシュレスヴィヒの辺りも同じだった。
 だがここに一両だけドイツ軍の戦車があった、それは六号戦車ことティーゲルだった。
 そのティーゲルは一両である街にいた、しかしその街はというと。
「探しましたが」
「家の中も」
「けれどです」
「もう誰もいません」 
 兵士達が戦車に戻り車長であるハンス=ケンプ少尉に話した。
「皆逃げたみたいですね」
「ここにも連合軍が来るのは間違いないですから」
「何処か安全な場所に逃げたみたいですよ」
「下手したらソ連軍が来ますしね」
「連合軍の方がましだな」
 その車長であるケンプは兵士達にこう返した、彼等の愛車であるティーゲルはその後ろで今は動いてはいない。
「正直な」
「あいつ等は滅茶苦茶ですからね」
「一般市民平気で攻撃しますからね」
「女子供でも容赦しないですから」
「連合軍も爆撃してくるがな」
 ケンプは自分のところに来たヴォルフガング=ホルンシュタイン軍曹、オットー=ハイドリッヒ上等兵、ハインリッヒ=シュナイダー一等兵に言った。彼等が今のハンスの部下達だ。
「それでもな」
「まだましですね」
「正直アメリカ軍やイギリス軍の方が:」
「ソ連軍よりかは」
「連中が来るって聞いたらな」
 それこそというのだ。
「逃げるさ」
「そういうことですね」
「やっぱりそうなりますね」
「西の方に逃げましたか」
「そうしただろうな、俺達だってな」
 ケンプは今度は自分達のことを話した。
「部隊が全滅してな」
「西に徹底する最中に、ですからね」
「部隊の残りとはぐれて」
「今ここにいますからね」
「ああ、通信は相変わらずか?」
 ケンプは通信兵のハイドリッヒに尋ねた。
「駄目か」
「今見てみます」
 ハイドリッヒはケンプに応えてティーゲルの中に入った、そしてだった。
 通信機を調べた、そうして項垂れた表情で戻ってきて言った。
「駄目ですね」
「なおらないか」
「もう正直なところ」
「そうか、それじゃあな」
「部隊への合流は」
「目で探すしかないな」
 これがケンプの結論だった。
「それじゃあな」
「そうなりますね」
「というかな」
「それしかないですね」
「ああ、しかし戦車も一両だとな」
 それが強力なことで知られているティーゲルでもとだ、ケンプは空を見て言った。空も青い筈だが暗く見える。
「どうしようもないな」
「若しもですよ」
 シュナイダーが言ってきた。
「ここで敵が来て」
「ソ連軍でも連合軍でもな」
「どうしますか?」
「もうお手上げだな」
 これがハンスの返事だった。
「特にヤーヴォだったらな」
「それだったらですね」
「俺達は終わりだ」
 連合軍の戦闘爆撃機が来たらというのだ、戦闘機に地上攻撃用の装備をさせたものでドイツ軍地上部隊の恐怖の的だ。 
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