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器が違う

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第四章

「私は元日本軍にいた金と言う者だが」
「金ですか」
「ああ、士官学校にいて満州にいた」
 このことも話した。そこにいた自衛官の者に。
「若しかしたら安本さんと知り合いかも知れない」
「安本一佐とですか」
「一佐?」
「自衛隊の階級で昔の軍の大佐です」
「そうか、もう大佐か」 
 そう聞いてしみじみとして言う金だった。
「偉くなったな」
「それで一佐に御用ですが」
「会いたいがいいか」
「はい」
 その自衛官は快諾してくれた、そしてその安本一佐の前に案内してくれるとそこに彼がいた。
 緑のブレザーの制服は帝国陸軍のものではなく年齢も感じられた、だがそれでもだった。彼は明らかに安本だった。
 そして彼の方も金に気付いてだった、最初は驚いたがすぐに笑顔になって言ってきた。
「中隊長、お久し振りです」
「こちらこそな」
 当時の役職で呼んでくれた安本に笑顔で応えた、そしてお互いのことを話した。
 金はアメリカ人になり今は警備会社で重役を務めていた、安本は実家に戻って農業をしていたが警察予備隊が発足した時に入隊して今に至っていた、今回はアメリカに渡って軍事訓練を受けていたがその時に真珠湾に献花をしたのだ。
 このことを話してだ、金は韓国でのことを話した。そこで言うのだった。
「韓国軍は酷い軍隊だった」
「最近急に改善されていってますがね」
「ああ、クーデターが起こってだな」
「朴正煕政権になって」
「そうなんだな、しかし俺がいた時はな」
「酷かったですか」
「あの時の大統領もな、だからな」
 それでというのだ。
「俺は韓国を出たんだ」
「そしてアメリカに移住されたんですか」
「実は俺も色々言われていたよ」
「何とですか?」
「日本に協力していたとかな、家族も言われていたしな」
 安本にこのことを話すのだった。
「それでだったんだよ、移住したんだよ」
「そうでしたか」
「ああ、俺は日本本土に生まれているしそのうえあそこが日本だった時代に生まれ育って日本軍に入ってな」
「日本人だった」
「そうだったんだろうな、だから俺は韓国系アメリカ人とも言ってないさ。家族も同じだよ」
「日系人ですか」
「そう言ってるさ、日本人だった時の方が長かったしな」 
 韓国人だった時よりもというのだ。
「そして帝国陸軍の軍人だったんだよ」
「当時の韓国軍は酷かったですね」
「ノモンハンは散々だったが最後まで立派に戦った」
 金は安本に彼と共に戦ったその戦争の話もした。
「そうだったがな」
「朝鮮戦争で韓国軍はてんで駄目だったそうですね」
「日本軍みたいに必死に戦うどころか大統領自ら逃げて兵隊も武器から何から何まで捨てて逃げていたんだ」
 そうした有様だったというのだ。
「北朝鮮の連中に攻められてな」
「釜山まで逃げたんでしたね」
「それから戦争が終わるまでずっとな」
 そうだったというのだ。 
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