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岳王異伝

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第二章

「ならな、今から母上にお話をしてな」
「東京に出発するか」
「そうする」
 この言葉通りにだった、岳飛は実際に宋の都である東京即ち開封府に向けて馬で出発した。そうしてだった。
 東京に着き満月になる日を待った、そうしてだった。
 満月の日になると西の外堀の門のところに来た、すると。
 声がした、それは上からだった。
「岳飛鵬挙か」
「私の名前を知っているのか」
「知っている、私に会いに来たこともな」
 こう言ってだ、その満月にだ。
 黒い点が出て来た、その点は徐々に大きくなり麒麟の姿をなった。麒麟は空の彼方から彼の方に来たのだ。
 そして彼の前に降り立った、黄金に輝くその見事な姿で。
 そうしてだ、彼に問うた。
「あの噂を聞いてか」
「ここに来た」
 岳飛は麒麟に毅然とした声で答えた。
「私自身を確かめる為に」
「そうか、やはりな」
「私がことを為せる人間かどうか知りたいが為に」
「だからか」
「まず聞きたい、私はことを為せるか」
「私がどうして前に出て来たかも聞いているな」
 麒麟は岳飛にこう返した。
「そうだな」
「優れた者の前にしかか」
「私は姿を現わさない様にしている」
「では」
「そなたは見事なものだ、武挙にもだ」
 それにもというのだ。
「及第するだろう」
「そうか」
「そしてそれ以上のことが出来る」
「まさか」
「話を聞いたのならわかっているな」
「貴殿の背に乗ってか」
「知るのだ、だがな」
 麒麟はここでその目に難しいものを見せた、そしてだった。
 そのうえでだ、彼にこう言ったのだった。
「だがな。私の背に乗ることはな」
「そのことをするとか」
「人は未来を知っていい場合もあるが」
「悪い場合もあるか」
「そうなることもある」
 このことを前以て言うのだった。
「貴殿の場合はな」
「そうか、悪いか」
「それでも知りたいか」
「知りたい、若しそれが悪い未来であってもだ」
 それでもとだ、岳飛は麒麟に答えた。
「私は知りたい」
「悪いものであってもか」
「そうだ、悪いものであってもだ」
 それでもというのだ。 
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