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温羅

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第三章

「しかしな」
「難しいですか」
「この難を逃れることは」
「どうにも」
「そう思う、四十九日まで陰陽の術で封じてある部屋に閉じ籠っておれば助かるが」
 だがそれでもというのだ。
「今は七日か、あと四十二日耐えきるのは辛いぞ」
「ではあの男は」
「女に祟り殺されますか」
「そうなってしまいますか」
「そうなるであろう」
 温羅は神社から播磨の様子を手下だった鬼達と共に見つつ苦い顔で述べた、男はそれから何とか部屋に篭り女房だった女の祟りを逃れようとしていた。
 そしてそれは適うかに思われた、だが。
 最後の日に男はしくじった、障子を照らす光が朝になって逃れたと思って障子を開けたがそれは満月の灯りだった、それがあまりにも明るかったので日の光と間違えたのだ。
 その瞬間全てが決まった、温羅達はそこから起こったことを全て見た。
 そうしてだった、温羅は無念の顔で言った。
「だからわしは鳴らさなかったのだ」
「こうした結末になると思ったからこそ」
「だからですね」
「そうだった、若しあの時従っていれば」
 釜が鳴らなかった、このことにだ。
「この様なことにならなかった、だが人は時としてだ」
「欲に目が眩んだりして」
「そうしてですね」
「従うべきことに従わず」
「あの様になってしまいますね」
「そうじゃ、思えば無念なことじゃ」
 実際に温羅はこれまでで一番苦い顔で言った。
「人は時として愚かなことをする」
「そうして滅んでしまう」
「そのことがですね」
「実に無念じゃ、だが少しでもそうしたことを減らす為にだ」
 温羅の顔はまだ苦いものだ、だがそれでも言うのだった。
「これからもじゃ」
「はい、釜を鳴らしたり鳴らさなかったり」
「そうしていきますな」
「従わぬ者もいるが従う者もいる」
 釜の音が鳴る鳴らない、そのことにというのだ。
「ならばな」
「これからもですな」
「そうしていきまするな」
「わしはな」
 まさにとだ、こう言ってだった。
 温羅はこの日も神社に来て結婚の吉兆を占う者達に対して釜を向けた、その時にその夫婦となるべき者達を見た。そうして釜を鳴らしたがそのことに喜ぶ若い二人と周りの者達を見て夜に見たものを幾分か忘れることが出来た。それは手下だった鬼達も同じだった。


温羅   完


                   2018・6・13 
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