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尉遲敬徳

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第一章

               尉遲敬徳
 この時斉王李元吉は兄である秦王李世民を憎く思っていた、それで周りの者達に密かに言っていた。
「わしの名を崩すとどうなる」
「元と吉をですか」
「それをですか」
「そうだ、唐になるな」 
 即ち自身の国の名になるというのだ。
「このことからもわかるであろう」
「はい、斉王様こそがですね」
「次の皇帝になられるべきですね」
「この唐の」
「そうだ、わしこそが次の皇帝だ」
 それになるべきだというのだ。
「だから秦王もそしてだ」
「太子も」
「あの方もまた」
「消えて頂く、今は太子と結んでいるが」
 長兄である太子の李建成と、というのだ。
「秦王を除いた後はな」
「あの方をですね」
「そうされるのですね」
「後は父上に迫るだけだ」
 今の皇帝である李淵にというのだ。
「それだけだ、だからまずはだ」
「秦王ですね」
「あの方を除かれますか」
「そうする、しかし秦王の傍にはいつもあの男がいる」
 ここで李元吉はその顔を一掃顰めさせた、大柄で粗野な感じに満ちた皇族というよりかは山賊といった顔を。
「尉遲敬徳、尉遲恭がな」
「はい、あの方はお強いです」
「兵の采配も勇ましいですが」
「その強さたるやです」
「まさに鬼神の如きです」
「槍や鞭を得意としている」
 鞭とは節が幾つもある銅や鉄の棒で剣程の長さだ、尉遲敬徳即ち尉遲恭は槍とこちらを得意としているのだ。尚敬徳は字で名は恭という。
「迂闊には手を出せないな。わしは槍なら絶対の自信があるが」
「それではです」
 ここでだ、家臣の一人が李元吉に言ってきた。
「王の槍を使われる時を作ってはどうでしょうか」
「わしの槍をか」
「尉遲恭将軍は敵の槍を奪うことも得意ですね」
「あの者はな」
「はい、素手で」
「ではあの男にあえてそれをして見せてくれと言ってか」
「そうです、そこで王がです」 
 李元吉自らがというのだ。
「相手をされて」
「その時にか」
「将軍を槍で貫かれては」
「そして始末しろというのか」
「はい、それでもまだ秦王の周りには優れた武人が多いですが」
 それでもというのだ。
「あの将軍一人おられないだけでも大きいですね」
「あの者はいつも秦王の傍にいるからな」
「ですからそうしてです」
「あの者を除けというのだな」
「そうです」
 その通りという返事だった。
「ここは」
「そうだな、如何にあの男といえどな」
 李元吉はその目を険しくさせてその家臣の言葉に応えた。
「素手で、しかもわしの槍を受けてはな」
「敵う筈がありませんね」
「如何に相手の槍を奪うことが得意でも」
 それでもと言うのだった。
「わしの槍は無理だ」
「ですから」
「しかも戦の場ではない、鎧も兜も着けておらぬ」
 身を護るそうしたものもだ。
「ならば余計に仕留めやすいな」
「そうです、あの御仁を始末されたいのなら」
「まさに絶好の機だな」
「そう思いまする」
「わかった、では余興の時にわしが自ら言おう」
 李元吉は凄みのある笑みで家臣に応えた、そしてだった。
 彼はすぐに秦王を自宅の宴に招いた、ここで彼の家臣達も招いたが。
 すぐにだ、秦王はこの話を聞いて言った。 
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