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ピ・ア・ス

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第一章

              ピ・ア・ス
 この時私は高校二年になったしと思って自分の耳にピアスをしてみようかしらと考えていた、けれどそう思ったその時に同じクラスの娘にこんなことを言われた。
「ピアス入れたら失明するって本当かしら」
「ピアスしたら?」
「ええ、何か耳に視神経があってね」
 その娘、私とは部活も同じでいつも仲良くしている友達と言っていいがその顔を心配なものにさせて言うのだった。
「それで耳たぶにピアスの為の穴を開けたらね」
「その視神経を刺激してなの」
「何か穴から白い糸が出て」
 そしてというのだ。
「その糸を引いたらね」
「目が見えなくなるの」
「そんな噂聞いたけれど」
「それ嘘でしょ」
 私は友達のその話に目を顰めさせて言い返した。
「幾ら何でも」
「嘘かしら」
「そんな話本当だったらね」
 それこそだ、私は心から思ってさらに言った。
「お医者さんが大騒ぎして」
「それでなの」
「しないでっていう話になって」
 それこそテレビでも雑誌でも物凄い注意喚起をしてだ。
「誰もしなくなるでしょ」
「そんなものかしら」
「というか耳に目の神経があったら」
 それこそだ。
「耳を切られる人だっているじゃない」
「事故とかでね」
「柔道とかレスリングしてたら耳腫れるし」 
 畳やマットの上で擦れてだ、それでこうした格闘技をしている人はすぐに耳が腫れて大きくなるらしい。
「そうした人目を刺激されてるでしょ」
「耳に視神経があったら」
「そうよ、刀の切り合いやったら耳もよく切られたらしいけれど」
 そうなっていたと聞いている、それで切り合いの後はよく耳とかが道に落ちていたという。
「そうした人も目が見えなくなるじゃない」
「そうよね、言われてみれば」
「それは嘘でしょ」
 どう考えてもだ。
「幾ら何でも」
「そうなのね」
「そうよ、本当の筈がないわよ」
 かえって笑って言ってしまった。
「その噂は」
「噂に過ぎないのね」
「そうよ、耳と目は別よ」
「何でこんな話が出たのかしら」
「誰かの創り話でしょ」
 私は笑ったまま友達に話した。
「だからね」
「このお話は信じないに越したことはないのね」
「絶対にそうよ」
 そう友達に言った、私はこの噂話は信じなかった。けれどこの話が妙に気になってそんなことは有り得ないと確信していても。
 耳にピアスの穴を開けなかった、そしてだった。
 耳はそのままにして高校時代を終えた、そうして就職してだった。
 仕事に慣れた頃にまたピアスを開けようと思った、今度は職場の先輩でピアスがとても似合っている人がいたからだ。
 それでその人みたいにピアスを開けようと思っていたけれど。
 今度はその人がある日急にピアスをしなくなった、それで私はその先輩に怪訝な顔になって尋ねた。
「あの、先輩いつものピアスは」
「ええ、実は化膿したのよ」
 先輩は右の耳を抑えて私に話してくれた。
「ピアスを開けている穴がね」
「それでなんですか」
「止めたの、穴を開けてるとね」
「その穴がですか」
「結局傷口だからね」
 人の身体に穴を開けると、というのだ。 
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