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前世の知識があるベル君が竜具で頑張る話

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でーと

「ベル? 大丈夫? 歩くはやさおとそうか?」

「い、いえ! 大丈夫れすっ!」

フィリア祭当日、ベルとアイズはメインストリートを歩いていた。

はぐれないよう、互いの手をしっかりと握って。

「ふふ…べる、かわいい」

「ふぇぁっ!?」

現在ベルは長い髪をポニーテールにして纏め、明け方のような藍色のワンピースを纏っている。

アイズは完全に私服…というかノンアクティブスタイルで、辛うじて剣だけ持っている。

「えっと、取り敢えず、街を案内する…ってことでいい?」

「は、はい!」

「…………………………」

「?」

自分をじっと見つめるアイズに、ベルが首をコテンと傾げる。

「ごめんね、愛想、なくて」

「い、いえ! アイズさんは素敵な方ですよ!」

「そう?」

「勿論です!」

「……でも、ベートと居るときの方が、ベル楽しそう」

「へ?」

「私と居るときは、なんだかよそよそしい」

「あー…その…えっと…あ、アイズさんが綺麗で、緊張……っ何でもないですっ!」

「…………?」








その後方数十メートルの路地にて。

「あの男ぉ…! よくもアイズさんを……!」

「こーら、そんなに睨んだらアカンよレフィーヤ。
ベルはともかくアイズに気付かれてまうやろ」

「ぬぐぐぐぐ……!」

「あー…それにしても…案の定初々しいなぁ。
ちゅーかもどかしいわ。いっそ媚薬でも盛ったろうかな…」

「いいんですかロキ!? アイズさんがあんなぽっと出の男に盗られて!?」

「はいはい落ち着こうなレフィーヤ」





その更に後方数十メートル

「おいババァ、なんで俺がこんな事しねぇといけぇんだよ?」

「ベルとアイズのデートを邪魔させないためだ。
何のためにこんな面倒な二重尾行をしているとおもっている」

「そんなのロキをふんじばれば済むだろうが」

「いや、ロキは誰かと会うつもりらしい。
それが誰かは知らないが、それが終わってからだ」

「なんで知ってんだ?」

「ながい付き合いだからな。フィンとガレスもわかっているだろう」






そしてリヴェリアとベートの遥か前方。

「じゃが丸くん小豆クリーム味一つ、ベルは?」

「えと、じゃぁカスタードクリームを一つ」

アイズとベルは、屋台で買い食いする事にした。

買うのはじゃが丸君というスイートポテトを揚げた物だ。

安くて美味しくてハイカロリー、オラリオの冒険者の強い味方にして街の女性の宿敵である。

「はいはい小豆クリームとカスタード一つづつね……って君はロキの所の子じゃないか。
そっちの子は……新人かい?」

「「?」」

二人は突然店員に話を振られ、困惑した。

「ああ、ごめんね、僕はヘスティア。これでも神なんだ」

胸を張るヘスティアの胸部は、小さな体躯と幼げな顔に似合わず凶悪だ。

装飾品の青い紐が、その胸を強調する。

「そうなんですか」

「へっヘスティア!?」

ベルが驚いたように声をあげる。

「どうかしたのベル?」

「いやいやいや! ヘスティア様って凄い神様ですよ!? オリュンポス十二神から退いたとはいえ天空神ウラノスの長女で火の女神様ですよ!?」

「ほっほう? 君は見る目があるなぁ。名前は?」

「ベル・クラネルです。お初にお目にかかりますヘスティア様」

「うん。はじめまして、ベル君」

ニッコリと微笑む幼げな笑顔は、その顔立ちには異質な、それでいてマッチしている柔らかで包み込むような母性を滲ませる。

「ところで、君達はデートかい?」

「ふぁえっ!?」

「はい、でーと? です」

「ほうほう…あのアイズ・ヴァレンシュタインがデートねぇ……」

「あっえっと、そのっ、ぼ、僕がアイズさんに一撃入れられたご褒美っていうかっ」

「へぇ…君にとってはご褒美なのかい」

「いっ!?」

ぼしゅっ! とベルが顔を赤くする。

「アイズ・ヴァレンシュタイン、君はどうなんだ?」

「どう? とは?」

「ベル君と居て楽しいかい?」

「ベルと居ると、なんだか、心がぽかぽかする。
よく、わからないけど、一緒にいたら、安心します」

「はっはっは! 良かったじゃないかベル君」

「あ、えと…その……はい」

するとヘスティアは屋台越しに片手を差し出した。

「あ、お勘定ですね」

ベルがポケットから財布を出す。

リヴェリアに持たされた物だ。

「ああ、そうじゃない。二人とも手を置いてくれ」

二人は不思議そうに手を置いた。

その上から、ヘスティアが手を重ねた。

「汝ら二人の住まう家に、竈と暖炉のぬくもりが有らん事を」

ヘスティアは竈と暖炉…家の火の神だ。

つまり、家庭を守護する神だ。

「ふふ。これでロキにすこしは仕返しできたかな」

「「?」」

「まぁ、気にしないでおくれ。ああ、ロキに愛想が尽きた時には僕の所においで。
何時でも歓迎するぜ」

首を傾げる二人に、ヘスティアがじゃが丸君を渡す。

二人は代金を払い、屋台を後にした。

「なんだったんですかね?」

「さぁ……?」

神の言葉はそれだけで意味を持つ。

アルカナムを使わなくても、神の干渉で運命は容易くネジ曲がる。

「いこ、ベル」

「はい」












同時刻某所。

『ソレ』は地中を這っていた。

『ソレ』は光を目指していた。

『ソレ』を産んだ、彼女の願いの為に。
 
 

 
後書き
すごくいい奴なヘスティア。 
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