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前世の知識があるベル君が竜具で頑張る話

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りわーど

早朝の黄昏の館。

その修練場で、金と銀が舞っていた。

疾ッ! とベルが二振のナイフを振る。

アイズはそれをバックステップで交わす。

ベルが更に踏み込むとアイズは細剣を抜き、ナイフを上に弾く。

だが、ベルはナイフを手放さすその勢いのまま飛び上がった。

刹那、ナイフが焔の柱と化す。

ベルは両手を合わせ火柱をひとつにし、振り下ろす。

「ムマ!」

焔が消えた場所には土があった。

その土は振り下ろされる最中形を固め、大戦斧となった。

ギィン! と戦斧と細剣が音をたてて激突する。

今度は撃ち合えた。

武器の重さと膂力のバランスが取れたのだ。

とは言えそれも一瞬の事。

鍔迫り合いになれば体格で劣るベルが不利だ。

ベルが後退すると、アイズが追う。

細剣が放つ突きを斧を盾にして防いだ。

「ヴァリツァイフ!」

ベルの手の中の斧は塵と化した後迸る紫電となる。

現れたのは鞭だ。

鞭が細剣を絡め取る。

「でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」

ガスッ! とベルの左の拳がアイズの腹を打った。

女の腹、とは言えハイレベル冒険者のそれだ。

絞められた腹筋の硬さは鋼鉄にも匹敵する。

「ぐっ……」

打ったベルの方がダメージを受ける程だ。

ドサッとベルがへたり込む。

が、しかし。

「よく、がんばったね」

アイズはしゃがみこみ、ベルの頭を撫でた。

「今のは、よかったと思う。ベルの多彩なヴィラルトに、私は気を取られていた。
意表をつかれて、私は貴方の拳を受けるしかなかった」

「あ…ありがとうござい……ます…」

かくん、とベルから力が抜ける。

アイズが前に倒れ込んだベルを抱き止める。

「ごほうび、あげないと」












ベルが目を覚ますと、リヴェリアが顔を覗き込んでいた。

「おはよう、ベル」

「おはようございますリヴェリアさん」

ベルが体を起こし、辺りを見ると自分の部屋だった。

「アイズが倒れたお前を運んで来た」

「そうですか」

「ふむ…入って一月と経たずアイズに一撃入れるとはな」

「たった一撃ですけどね」

「その一撃の価値を考えろ。本気ではなかったと言えども、アイズは真剣だった。
その他得物が何時もと違うなど色々あるが、レベル差を覆すような物ではない。
アイズから一本取ったのはお前の機転だよ。
冒険者は、単純な強さだけでは押し潰される。
それを防ぐための、機転がなければな」

リヴェリアがポフっとベルの頭を撫でる。

ベルがふにゃっと顔をほころばせる。

「もうすぐ昼だ。起きれるか?」

「はい、大丈夫です」

ベルは靴を履き、リヴェリアの後ろをついていく。

「いよう! ニュービー! アイズさんに一撃入れたんだって?」

「あ、先輩」

食堂へ向かう途中、ベルは先輩冒険者に話しかけられた。

「いやぁ、すげぇよお前は。幹部全員のしごきを耐えきったんだからな」

ベルはアイズだけでなく幹部全員から訓練をつけてもらっていた。

全員が面白がって色々と仕込んだのだ。

もっとも、『戯れに』という言葉では足りないような内容ではあるのだが。

「ではお前も受けてみるか? モビー」

リヴェリアが不機嫌そうに先輩冒険者…第三級冒険者のモビーに言った。

「止してくださいよリヴェリアさん、そんな事になったら五秒でミンチになっちまう」

モビーはおどけてそう言うと、中腰になってベルと目線を合わせた。

「このファミリアの皆が、お前の事をすげぇって思ってるんだぜ。
だからよ、たまには俺らにも甘えてくれよ」

「?」

「ベル、普通なら相部屋で親交を深める物なんだ」

「あっ…」

モビーは今度はリヴェリアに問いかけた。

「リヴェリアさん、そういやぁベルがリヴェリアさんの隠し子って噂が」

「ふん!」

リヴェリアのスタッフが一線。

「あら危ない! 頭を下げればぶつかぐっほぁ!?」

それをしゃがんで避けるモビーだが、リヴェリアの蹴りが突き刺さる。

「下らん事を言ってないで鍛練でもしたらどうだ? 少しはベルを見習え」

「リヴェリアさ~ん…蹴るなら蹴るでもう少し足上げてぐっほぇ!」

「何か言ったか?」

「よしてくださいよそんなおみ足で踏まれたら俺のナイフがロングソードになっちまいますよ」

「…………」

「わぉゴミを見る目だ。んじゃそろそろ退散しますわ」

そういうとモビーは何事も無かったかのように立ち上がり、歩いていった。

「……個性的な人ですね」

「お調子者というんだ。まぁ…ムードメーカーであるのは確かなのだがな…。
奴のジョークには品性が欠けている」

「男の冒険者なんてそんな物じゃないんですか?」

「ほう?」

リヴェリアの顔を見たベルは内心しくったと思った。

「ではお前のジョークセンスは早めに修正しておかねばならんな」

「お、お手柔らかに」








二人が食堂に着くとアイズとベートが待っていた。

「よくやったな、ベル」

「ありがとございますベートさん」

ベートはアイズの首に手を回し、肩を組む。

「んで? アイズよ、褒美はどうすんだ?」

「……よくわからない。ベルは、何が欲しい?」

アイズが困り顔でベルに尋ねた。

「おいベル、ここでへたれたら男が廃るぞ?
こんな据え膳他にな…ぁがっ!?」

ゴン! とリヴェリアの杖がベートの頭を捉えた。

「ベート」

「そんなポンポン叩くなババァ! ったくよぉ…」

ベートは頭をさすりながら続けた。

「英雄になりてぇんだろ? 英雄色をこのっぶねっ!?」

再び振り下ろされた杖は、ベートの手に止められた。

「はぁ……。アイズ」

「なに? リヴェリア?」

「明日はフィリア祭だ。ベルとデートしろ」

「でっ!?」

「でーと?」

「ああ、一緒に廻ってやれ」

「そんな事でいいの?」

アイズがベルに問う。

「は、はい! 十分すぎるくらいですっ!」

こうしてモンスターフィリアは、史実から解離して行く。
 
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